タイの姉

何歳になっても旅で叱られている。むろん自分がだらしがないから。旅に計画性があるようでない。前日に目的地をかえることなど当たり前で、飛行機のチケットを出発3時間前に取り直すことだってある。「いつまでたっても、私がいないとダメ。本当にこれから先もどうするつもり」夜20時のスワンナプーム空港のチェックインカウンターでJBが呆れた顔で言う。えへへごめんねmy sister。JBは、ハイハイと聞き流す。

JBとは5年前、大学院の交換留学で知り合った。3歳年上で高齢者の健康医療支援を専門にしていた。丸い幼い顔立ちで、小柄な体からは想像もつかないほどエネルギーに満ち溢れ、研究にまい進する人だった。サイアムの近くのタイ料理のカジュアルなレストランで4年ぶりに再会した。もう一人、同じく留学で知り合ったRTも一緒だった。ファミレスのような明るいシンプルな内装で、サイアムにあるにも関わらず観光客はほぼおらず、地元のファミリー客や友人同士の客が多かった。トムヤムクンとかガイヤーンとか、適当にタイ料理を数品注文した。最近どうしてる?仕事は順調?とかそういうよくある会話はさっさと終わり、いかに今回の自分🐻‍❄️の旅に計画性がないかという話になった。どうやらチェンマイにいる間の自分の行動は、チェンマイの弟のJOからぜんぶJBに報告されていたようだった。前日に旅程を変えてランパーンに一人で行っていた話もぜんぶ筒抜けだった。どうしてそんなにいい加減な旅ができるのかと言われた。そんなことはない、行きたいところはちゃんとおさえてるし、乗りたい飛行機とか特急列車の終電に乗り遅れるとかはないぞと伝えると、「まあ確かに…」とJBはどこか納得したくなさそうな表情だった。

JBは今も大学院にいて、自分よりも一足先にPhDをとる様子だった。JBの博士論文の研究は、2群のコホートに対する介入研究だが、2群の分け方がアユタヤの田舎在住者とバンコクの都会在住者ということで、毎回アユタヤに通うのが大変だと話していた。「介入時のデータ収集を手伝え、日本に帰るな。アユタヤの強烈な日差しを一緒に浴びよう」というJBに、あ、これPhD students meme的な動画で見たことのある笑顔だ、とJBの研究のハードさを感じた。

ディナーのあとに、空港までGrabとARLで送ってもらった。「何時のフライトなの?」。たぶん24時くらい、事前のwebチェックインしたかどうか覚えてないなあ、あ、預けるスーツケースの中身整理してないかも、と空港に着いたあとにモタモタする。「どうやって一人でランパーンなんか行ったんだ」と大いに呆れられる。

「あなたも早くPhDとりなさい。とるんでしょう?そういう感じがする」と空港の出国審査に向かう入口で言われる。「時間の流れはあっという間だから、来るべき流れをキャッチしなさい。」

次にJBに会うのがいつになるのかわからない。JBはかなり多忙だし、自分も日本の仕事でいつ休暇をとれるのか見通しはすぐに立てられない。次に会うときにPhDのこととか報告するよ、と告げた。JBは満足げに「期待してるね」とうなずいた。ああ、ゆうてもうたやないか。近いうちにタイに来よう。JBに報告するために。流れにのっちゃおう。


(つづく?)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?