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科挙とドラマ

2024年も昨年ほどではないけどたくさんドラマを見ています。その中に科挙に関係するドラマが3つあるのでメモしておきたいと思います。「御史とジョイ」「光る君へ」「虎に翼」です。


御史(おさ)とジョイ

「御史とジョイ」は韓国のtvN(ティーヴィーエヌ)制作のフィクション時代劇です。設定はすべて架空ですが、李氏朝鮮の第16代国王、仁祖(インジョ)とその子、昭顕世子(ソヒョンセジャ)の時代が基本的なモデルになってるそうです(世子が暗殺されるドラマのモデルはだいたいここらしい)。本国の放送は2021年で、ことしの冬にNHKのBSでも放送されました。

全体的にはファンタジー色とコメディ色がかなり強く、ロマンス要素もたっぷりで、時代劇といっても特に歴史のお勉強になるようなドラマではありません。ひたすら楽しく見て痛快な気分になれる極上エンタメでした。

しかし、史実の歴史的背景が関係しているストーリー展開も少しありました。その一つが科挙です。李氏朝鮮では厳格な身分ピラミッドの頂点が「両班(ヤンバン)」で、科挙は事実上、両班だけが受けることができました。これがこのドラマの肝でした。

ドラマは主人公とそのライバルを軸に進んでいきます。主人公は、政治にまったく関心がないのに、両班の家に生まれたというだけで科挙を受けさせられる世間知らずのお坊ちゃまです。そして、ライバルのほうは、地方の悪党集団の頭をやってます。実は、このライバル、父親は領議政(ヨンイジョン)というめっちゃ偉い地位の人でした。「光る君へ」の世界で言えば左大臣級、現代日本で言えば内閣総理大臣級の大物です。しかし、庶子という理由だけで、本来受けられたであろう教育の機会を取り上げられてしまい、科挙も受けることができませんでした。頭は切れるし努力家で根性もあるのに、それらの才能を間違った方向で使っていくことになってしまうのです。

光る君へ

大河ドラマ「光る君へ」にも科挙が登場しました。といっても、日本は科挙を取り入れなかったので、本場中国(当時は宋)の科挙の話が出てきたということです。

主人公のまひろは小さい頃から勉強がよくできる子でした。貴族に学問は必須でしたが、それは男子に限ったことだったので、まひろはずーっと父親から「お前が男であればよかったのに」と言われて育ちました。このことが、まひろにとってはまあまあの黒歴史で、言われるたびに苦ーい思いをしてきました(そりゃそうだ)。そこに、愛した藤原道長との大失恋もやってきてしまい、ますます女としてつらく悲しいフェーズに入りました。そんな人生暗黒期の30歳ころ、「科挙がある宋はいいな~、科挙は誰でも受けられて、生まれながらの身分とか関係なしに実力を評価してもらえるんだって!」と、すっかり科挙推し、宋推しになりました。でも、実際には、前述の朝鮮と同じように、宋の科挙制度も誰にでもチャンスが開かれているわけではありませんでした。実質的には身分が高く裕福な家の子しか受けれませんでした。さらに、日常生活では差別がひどいし、宋だってまったく夢の国じゃなかったのです。そのことを宋から来た人にこっぴどい方法で知らされ、まひろの中の「宋すげぇブーム」は終わりました。

虎に翼

朝ドラの「虎に翼」にも科挙が登場した…と、言えないくもないというか、無理やり結びつけることはできるなーと思ったので入れてみました。まあ以下全部ウィキペディア情報ですけど。

科挙は中国で誕生し、朝鮮とベトナムに伝わり、その二国は科挙を正式に取り入れました。韓国になってからは고등고시「高等考試」という制度に形を変えました。日本の国家公務員一種に相当する試験です。

一方、寅ちゃんたちが受けた試験の名前は「高等文官試験」で通称「高等試験」でした。韓国の現代版科挙고등고시「高等考試」と名前が似てます。ウィキペディアには、日本の高等試験も科挙を原型にして実施されたというようなことが書かれています(注釈で[独自研究?]って入れられてはいますけど)。

いちお、スクショ貼っておきます。

wikipedia 「科挙」-  外国への影響 - 日本   の欄より

まあ、科挙を基につくられた試験でなくても、倍率が異様に高くて難しい試験のことを単に「○○版科挙」って言ったりもするけど。

感想(箇条書き)

・最初に隋の時代に科挙制度がつくられたとき(1400年くらい前)は、「やっぱ官僚の世襲制なんてダメだよなぁー」「ちゃんと実力のある人が官僚になれる社会の仕組みにしようぜぇ」という趣旨でした。そこから1300年続いた中で当初の目的はある程度果たしたのでしょうけど、同時に、多くの人を翻弄し、悲劇も生み出してきたようです。

・科挙が誕生してから1400年とか経ってるのに、いまだに「これが永久不滅の最高の試験スタイルであーる!!」っていうものに人類はまだ到達してないの逆にすごいなと思います。一瞬到達しても、世界は常に動いているので、すぐに新たな問題が出てきてしまうのかもしれませんけど。

・寅ちゃんが受けた高等試験は科挙の純粋な後継試験とは言えないとしても、それでも、科挙の歴史をふまえてみると、国の役人になるための試験で女性の受験資格が生まれたっていうのは、改めてものすごいことだなと思います。寅ちゃんたちと指導を行った先生たちは本当に歴史的快挙を成し遂げたんだと思います。そして、1400年という長ーい歴史の中、直近のたった100年で世の中がめっちゃ変化したんだなって感じさせられます。

・現代の日本にもいろんな公的な試験があります。どの試験も誰もが納得できる公平な方法でおこなってほしいけど、こういう歴史を考えると、完璧な方式を確立することの難しさを感じます。そういえば、共通テストも実際にスタートするまでにたくさんのすったもんだがあり、途中、ただの一般市民から見ても疑問に思う点が多々ありました。でも、そうやって少しずつ新しく変えながら良くしていくしかないんだなあと思いました。これからも模索は続いていくのでしょうが、とにかく、時代に逆行するようなことだけはやめてほしいなあと思います。表面的なことだけじゃなくて、根本的な理念が後戻りするようなことがないように願っています。これらのドラマを見てそう感じました。

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