万福の雨だれ

あまりに長く、旅を続けすぎた。
旅は非日常というが、それが日常になってしまえば、以前は心踊ったであろう景色や出会いに対する心の揺れが「いつものやつ」になってしまう。
ここ最近のわたしはいつも、そんな渇いた心のやり場がなくて、その渇きを誰のせいにもできなくて、ゆらゆらと日常としての旅を彷徨っていた。

雨は旅には似合わない。そう思っているので、今日は普段よりも気が滅入る朝を迎えた。
何をしようか、どこへ行こうか、そんな気持ちのかからないままに、ふらりと宿を出る。

ふるい軒下で雨宿りをしながら、ただただ雨だれを眺める午後、ぽたりぽたりとゆっくり落ちる雨粒は、これまで見たことのない、うつくしい雨の雫だった。
夏の終わり、こんなに綺麗な雨が降るのだと、わたしは生まれてはじめて知った。

万福の雨に出会わせてくれたのは、退屈だと思っていた旅だった。もうすこし、ささやかな旅を続けてみようか、、、

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