見出し画像

私の左の人差し指を知りませんか

!注意!caution:怪我の描写がありますので、苦手な方はこれ以上読まない事をお勧めします。せっかく来ていただいたのに申し訳ありません…

左人差し指を深く切ってしまった。
キャンプでバーベキューをする時にさつまいもを切るのに急いでいた。台がなかったので横着をして、左手で芋を握り、右手で百均のナイフで切り落とした。さつまいもの薄切りを1枚目、2枚目、3枚目で指まで切ってしまった。人差し指の先、爪の大きさくらいの円で抉れて蓋のように少しだけくっついたまま、血が溢れ出た。痛いし怖いし、それ以上にどうしたらいいのかわからなくてとりあえずタオルで押さえて洗い場に向かったが動悸が止まらない。

流水で血を流す。傷口がどうなっているのか見たいが次々と血が溢れるのでよくわからない。水が当たると痛い。痛くない所に水がかかるように流すのが難しい。「5分流すんやって」スマホで応急処置を調べてくれた夫が言う。
5分!?そんなに血を流し続けるん?
手首を切って湯船で死んでいる映像が目に浮かぶ。あれはお湯につけるから血が固まらなくてどんどん出て死んでしまうのではなかったっけ?それともお湯に浸すと温まって血液の循環が良くなってどんどん出て死んでしまうんだっけ?そもそも水じゃなくお湯が絶対条件?

私はヘモグロビン値7〜9g/dlの超貧血人間である。コロナをきっかけに婦人科への通院をサボっているが鉄剤常用者。血は貴重。このまま死ぬの?まさか。指切って出血止まらなくて貧血で死亡。前代未聞。impossible!

どのくらいの時間を要しただろう。ぼたぼた落ちていた出血が少し落ち着き始めて死ぬ事はないと安堵した頃、真っ赤に染まった絆創膏を剥がしてみた。

隆起した血の塊が米だとしたら、その上に皮が寿司ネタの如く乗っかっている。寿司ネタだとすればかなり大きな、デカ盛り。
これは、本当に指か?グロいというより滑稽。これ、いつかくっつくん?(くっつくのか?)

途端に近い予定の心配をし始める。

ギターはいつから弾けるのか?ゲームは可能なのか?編み物は?運転は?フィットボクシングは?明日、刺繍教室あるんやけど?

家事はできる。手の抜き方なんていくらでも思いつくし、右利きなので慌てなければ何とでもなる。
運転や編み物も急所を庇いながらやれば多少痛む事はあっても可能だろう。
問題はギターとゲーム。そしてフィットボクシング。私の日課。

ゲームは多分、可能だ。フィットボクシングもイメージしてみたが、傷口には触れないので出来るはず。問題はギター。
ギターのことだけを考えれば右手の方が良かった。どちらにしてもアルペジオは無理だけど。弦に皮が引っかかるのを想像してブルブルってなる。
どれくらい弾けなくなるのかな。一週間?いや、もっとだよね。こないだやっとつまらずに弾けたとこも次やる時は忘れてしまってるんだろな。弦を押さえなくても動きだけ練習しておかないと…嗚呼、もう本当、悲しい。


打たれ弱い。これを武器に何か、何か逆境に強く生まれるものを探せない自分。せいぜい普通に振る舞うのが精一杯。ショックとこれからの不安とでクヨクヨ涙が浮かんでしまうのを隠して只管、時間が過ぎるのを待った。早く帰りたい。その夜はテントで宿泊だったが、慣れない寝床とズキズキする痛みと寒気で殆ど眠れなかった。穂村弘さんのエッセイを持ってきて良かった。笑えたので私は大丈夫だ。

翌朝、お手洗いを済ませた時に、右手でなくてヨカッタ、と思えた。
痛みは少し楽になり、運転もできた。ただ、何かと動いていると指が当たることが多くてその度に傷口が開いて出血する。
これ、いつ治るのん?
まだ1日と少ししか経ってないのにもう焦れる私。ゲームをしてみた。できなくはないけどバトルになると力が入るのか痛いし、また傷が開いて絆創膏に血が滲む。
ギターは怖くて試せない。
この日はハードスケジュールで夕方から刺繍教室の予約をしていて、昨日の夜は「絶対無理だあー」と嘆きの気持ちだったが、寝不足でもしっかりと楽しんで、成城石井で大好物のコーヒーゼリーを買って帰って、その夜は良い感じで爆睡した。痛みで眠れないなんてこともなく。明日お医者さんに行って、なるべく早くギターを弾けるように相談してみよう。と、スマホで病院を調べているうちに寝落ちした。

翌日、近所の皮膚科・形成外科を受診すると、お医者さんは私の指を見て即、「縫いますか」と仰った。
そのままでもいつかは治るらしい。でも縫う方が早く治るようなので縫うことにした。
帝王切開以来の縫合。それ以外で縫った事はない。でも迷いはなかった。

切ってから2日経っているので、切れた皮が乗っかったまま乾き始めているので、縫えるのか不思議だったが、そこは流石にお医者さま。

局部麻酔で6針。麻酔、すんごい痛い。注射の痛みというより傷口を抉られてるような痛み。でもすぐに効いて痛みは何処へやら。
チクチクされている間、帝王切開した時のことをぼんやり思い出していた。
「この子、お酒強い⁈」
担架でガラガラとどこかに運ばれている時に副院長の先生が夫に言っていた。ぼんやりと何でお酒?と思っていたのだが、お酒強い人は麻酔が効き難いらしい。
帝王切開の時も麻酔は効いていた。でも少しは痛かった。効いてなければあの程度の痛みではないはず。今日は効いてるよね…感覚は少しあるけど大丈夫、大丈夫と自分に暗示をかける。

…今、麻酔が切れて猛烈な痛みが復活している。そうそう、帝王切開の時の後もお腹にこんな痛みがあったなあ。熱も出て、夜中に看護師さんが薬くれたりアイスノンをくれたりしたなあ。ナースが天使とはこの事よ。そして翌日まだ痛みがあるのに「すぐに歩きましょう」と言われて「鬼ですか」と思ったのも事実。天使と鬼。そこは悪魔でしょうよ…
話が脱線しそうなので時を戻そう。

しかし何故か隣の親指と中指も痛い気がする。絶対気のせいだと思うけど。共感力が高いのね、お隣さん達よ。
抜糸は一週間後。帝王切開の時は溶ける糸で縫ったけど、今日は溶けない糸だった。抜く時は痛くないのかしらん。その後はギターは弾けるのか聞きたかったけどやめた。抜いた時に聞こう。
とりあえず一週間、楽しくなることを考えよう…人差し指以外でできる出来ることを。

見た事もないようなギターの弾き方で
聞いた事もないような歌い方をしたい

かっこいいぜブルーハーツ。
私は左人差し指を探す旅に出る。