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【第十二回】チャップリンが生きた道~街の灯編②~

前回の記事に続き、チャップリン長編映画「街の灯」について書いていく。


前作「サーカス」ではリタとの離婚訴訟や、4週間撮り溜めたフィルムが使用できなくなる、スタジオが火災になるなどの不幸が続いた。「街の灯」の製作も容易ではなく、約3年間もの製作期間を経て映画公開された。


まず、チャップリンの完璧主義な性格がよくわかるエピソードから話していこう。


チャップリンと盲目の花売り女性の出会いのシーンは、342回ものNGが出た。3分ほどの短いシーンだが、撮影日数534日のうち368日かけて撮影が行われた。

チャップリンと盲目の花売り女性

最終的にチャップリンが納得した見せ方は「たまたま停まっていた車の後部座席を通り抜けた先に花売り女性が座っており、車から降りてきた紳士(チャップリン)をお金持ちだと勘違いして「お花はいかが?」と声をかける」という手法だった。

「街の灯」は、チャップリンを富豪だと勘違いした盲目の花売り女性のために家賃を工面したり、目の治療費を稼ぐために奮闘する話である。ストーリーを進めるために、盲目の女性に対して「チャップリンは富豪」だと思わせる必要があったのだ。

一切、妥協せずに撮影が行われた出会いのシーンはこちら。

さて、本作は浮浪者と盲目女性とのロマンティックなストーリーだが、製作の初期段階では「視力を失い、幼い娘に対して障害を隠そうとするピエロをチャップリンが演じる」という設定だったという。

最初のアイデアも観てみたい気持ちもあるが、喜劇映画にするには重すぎる設定である。結果的に、盲目女性に恋をするというアイデアを起用したのは正解だったと思う。



それでは、本作のヒロイン役「ヴァージニア・チェリル」について紹介していこう。

ヴァージニア・チェリル

妖艶な顔立ちと落ち着いた雰囲気が美しいヴァージニアは、盲目の女性を見事に演じた。

ヒロイン役として最高のヴァージニアだったが、チャップリンとの相性は悪かった。「チャップリンが共演女優の中で唯一興味を示さなかった人物」とも言われており、後にヴァージニアは「チャーリーは私のことを好きになったことは一度もないし、私もチャーリーを好きになったことは一度もなかった」と語っている。

チャップリンはこれまで共演してきた女優とは、恋仲や良き友達として関係性を築いてきたが、ヴァージニア関しては例外だったのだ。


ヴァージニアは盲目女性を自然に演技できる上に、エドナのような雰囲気があるという理由で起用したが、重要な撮影シーンを控えているのにもかかわらずヴァージニアは「美容室の予約がある」と言い早退してしまった。

プロ意識に欠けるヴァージニアの言動に対し、大激怒したチャップリンはヴァージニアとの契約を停止した。


ヴァージニアの契約停止後は、新たなヒロイン役として「黄金狂時代」で共演したジョージア・ヘイルの起用を考えていたが、側近の忠告により契約停止から10日後にヴァージニアを復帰させることを決意した。

しかし、再契約するにあたってヴァージニアは「週給を契約停止前の75ドルから150ドルにしてくれたら戻る」「最初に契約したときは未成年だったから契約は無効だ」とチャップリンに訴えた。


チャップリンはヴァージニアの訴えに応じて、再契約を結ぶことになった。


再契約後はスムーズに撮影が進み、1928年12月から行われた撮影は1930年10月30日に終了した。



1931年「街の灯」公開時はすでにサイレント映画が時代遅れであったが、音楽付きのサウンド版として公開し、映画は大ヒットして興行収入は500万ドルに達した。日本では1934年に公開され、1ヶ月以上続映されるほどの人気作品となった。



ー続く

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