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「頭のなかだけで、壁をリリカルに表現しようとした」ーーJ.COLUMBUS & MASS-HOLEが語る共作アルバム『ON THE GROOVE, IN THE CITY』(後編)

雑踏でふと耳にした「独白」が、ビートを得て姿を成し、響きだけを残して消えていく……。『ON THE GROOVE, IN THE CITY』は、そんな心象風景が鮮明に浮かぶ作品です。

J.COLUMBUSは「この音楽が流れている街には行きたくない」ともいいます。

『ON THE GROOVE, IN THE CITY』J.COLUMBUS&MASS-HOLE

6月に東京・小岩BushBashで行われたRIVERSIDE READING CLUBのイベントにライブ出演をしたJ.COLUMBUSとMASS-HOLEに話を訊きました。
(前後編の後編。前編はこちらから)

ーーさきほどリハを拝見して、最初は音がゴワゴワしていて、MassHoleさんがクリアに響かせようとPAの方とも調整をして、最後にクリアな音になった瞬間がありました。これはこの音源の制作の過程を追体験したような感覚でした。

J.C:俺はわりとゴワゴワしているのも世界観にあっていて悪くないと思ってました(笑)。

MASS-HOLE:(笑)。でもそういう場じゃないな~って。

音源でいうと、「PAUL AUSTER MURDER RHYME」は最初に聴かせてもらったときに「ヨレ」がすごく目立ったんですよ。だからMercyさんにそこ直してもらえますか?って言ったら、「このヨレを出したい」って。

そうか、そういうヨレってのもあるかって意識を変えて改めて聴いたら、そのヨレに言葉が強調されているってことに気が付いたんですよね。言葉が浮かび上がってくるっていうんですかね。その「ヨレ」じゃないとその言葉が出ないんだなって思いましたね。

J.C:そう受け取ってもらえて、ありがたかった。今回は時間がかかっているから、トラックをめちゃめちゃ聴いているんです。リリックが浮かんだときに、ちゃんと頭の中に音楽が流れていました。

4曲目の「RAINY TOWN」は、ペンとノートを用意して書いたリリックじゃないんです。頭の中でずーっとトラックを繰り返して、眺めている壁をリリカルに表現しようとして生まれたもの。

歌詞の解説するの野暮なんで、あまりしない方がいいと思うんですが、<クリームの海 小豆色の波>っていうのがおそらく文学史に残る東京地検の壁の比喩なんじゃないかと(笑)。
声は絶対出しちゃいけないんですが、声出ちゃいそうでした(笑)。

2小節づつを4にして、6にしてって少しづつ伸ばしながら、頭の中で覚えていきながら、頭の中でできたヤツを、厄介ごとが全部終わって帰ったときに、紙にリリックとして書きとめることが出来たら完成だと思ってました。帰って、ご飯食べたら部屋で書きとめるぞーっていう(笑)。

ーーあの期間に作られたものだったんですね。

J.C:ラップだけはペンがなくても、頭の中だけでもできる。だからやってるんですよね。これも伝えたいことのひとつです。あとは、だからこそ自分の悪い部分も包み隠さずに。

ーーこのアルバムは、どんな街で流れていることを想定していますか?

J.C:こんな音楽が流れている街には行きたくないです。

思い描いたのは、池袋、松本、NORTH TOKYO、西東京……いろんな街の路地の集合体なのかな。たまに路地から開けた広場みたいなところにも出くわすっていうか。

MASS-HOLE:歩いている時にヘッドフォンで聴く音楽かな、って印象もあるけど俺は車の中でよく聴いていて、それもすごくフィットしますよ。

J.C:車で移動するようになって、ビートを聴きながらリリック考えたりもするし、車って都市の自由な空間かもしれないと思うようになりましたね。今回は歌詞の元はそういう環境では書いてないんだけど、レコーディングで詰めていく段階では車で歌ってる感じで詰めてったかな。

MASS-HOLE:たまに2車線とかで隣の車の人が絶対熱唱してるなってことありますよね。多分、うちらもそういうふうに見られてますね。


J.C:『狼が連れ立って走る月』だったかな、文化人類学者のような視点で世界を放浪している人が書いた本があって。「この、今歩いている街を‟自分の街”と言えるか」っていう問いかけがある本なんです。
MASS-HOLEとの縁で、松本をふらふらしていると‟自分の街”だと感じたこと、都市なら、慣れ親しんだ「NORTH TOKYO」を離れてあらためて「NORTH TOKYO」って言葉に感じる想いなんかを、あらためて自分の言葉に落とし込んでみようとして生まれたリリックや表現もあります。

ーー本や文学から受けた影響を音楽に表すってことですか?

J.C:「PAUL AUSTER MURDER RHYME」はタイトルの通り、ポール・オースターの小説にあった言葉で、‟自分の言えなかったことを書いている人に言ってもらう”ような引用をしていますね。このやり方は今まではあんまりやりたくなかったけれど、ようやくできるようになりました。多分「幽霊たち」読んだ人は、そのままですねって思えるくらいそのまま引用してる。

ーーいろんなアーティストから、松本のシーンの話を聞きます。

MASS-HOLE:なんだろう、特別なことをしている意識はないです。やれること、やりたいことを実現して行こうとしてるだけなのかなあ。

J.C:もう20年弱続けているでしょ?だから、若い人がヤバい。「これ作ったんですよ!」って作品を手渡してくれる感じが、間違いなくありますよ。

MASS-HOLE:大学を卒業して戻ってからだから、そうですね。健全ではあるかもしれない。

J.C:俺は、MASS-HOLEが東京にいた当時は付き合いがなくて、松本に戻ってからなんです。「松本で面白いことが起きてる」って紹介してくれるものが、どんどん広がっていく。だから、俺にとって松本はすげえ美しいヒップホップの街なんですよ。Q.S.Iも松本でしたっけ。

MASS-HOLE:Q.S.Iは長野だけど松本ではないですね。「TOKYO KIDS」とかSound’s DeliのプロデュースしたDJのMET(MET as MTHA2)は松本ですね。たしかにそういう若い、いろんな才能はいますね。

ーー私は、MASS-HOLEさんの作品だと実は『Four HORSEMEN』がいちばん好きなんです。質感が冷たくて、重さのある感じがいちばん強く感じられて、‟ロック感”がある。

その感覚は実はMercyさんのトーンと共通だと思っているんですが……。

MASS-HOLE:『Four HORSEMEN』はメタリカだったし。

J.C:俺にロック感あるかはちょっとおいといて、MASS-HOLEはロックからのサンプリング結構効かせますよね。

MASS-HOLE:あ。俺とMercyさんの共通点って、プロレスじゃないですか?

J.C:あ~!そうだね! 
俺、中学3年生の時に新日の練習生試験を受けてます。俺は弟たちが双子だったから、おじいちゃんに預けられてることが多くて、一緒にテレビでプロレス観てたんですよね。

練習生になることを目指したことがあるからわかるけど、ちゃんとレスラーになる人って圧倒的に‟違う”んですよ。それでも練習生が事故で亡くなったりするんです。グレコローマンの日本チャンピオンが、練習中に亡くなって。「そんな人でも亡くなってしまうようなことは自分にはできない」って絶望したときに、周りが、音楽に夢中になってたんですよね。

いわゆる渋谷系みたいなものが最初で、そこからパンクだとかヒップホップだとか、気が付いたらファッションも含めて音楽に向かっていったんです。

MASS-HOLE:吉本の山田花子も練習中に頭を打っちゃって、プロレスあきらめたんだよね。

ーーまさかの入門希望者だったとは……。あ、何年か前に出たCotton DopeのMIX『Year of Tiger』はエディ・ゲレロでしたね。私、エディちゃんがえらい好きなんですよ……!

MASS-HOLE:ブラックタイガーっすね。

J.C:ブラックタイガーっす。

MASS-HOLE:エディ・ゲレロとクリス・ベノワの兄弟感はヤバいっすよね。ベノワの最期って、悲惨だったじゃないですか。

ーー家族殺しちゃいましたからね……。

MASS-HOLE:あんなすごい選手なのに「なかったことにするしかない」最期になっちゃった。

俺は(プロレス好きの)感覚戻ったのって、グリセルダのウエストサイド・ガンがプロレス好きで、日本に来ると新日観に行ったりしてるじゃないですか。多分、年齢も同じくらいで、同じようなものに影響を受けてることを感じられてハマるっていうか。

J.C:ウェストサイド・ガンはもしかしたら日本のプロレスに憧れてたのかもしれないよね。WWFとかWCWとかから選手が日本にきてたし。プロレスは八百長だとかエンタメだとか言われるけど、60分時間切れ引き分けの試合とか実際に観たら「こんなこと出来ない」「死ぬから」って思いますよ。

MASS-HOLE:7~8年前になるのかな、宮崎か鹿児島かのライブの帰りに蝶野がいたんですけど、杖ついてて、車椅子だったのかも。やっぱりそれくらい身体きついんですよねプロレスって。選手はみんな身体をダメにしちゃうから。

J.C:ハヤブサもそうでしたよね。俺、引退試合観に行きましたよ。そんなとこから飛んじゃダメだよ!ヤバいから!みたいなの、観ました。

MASS-HOLE:ライガーの引退試合も行きましたよね。東京ドーム。

ーーロックは誤解で、おふたりの共通項はプロレスだということがよくわかりました。

MASS-HOLE:プロレスの入場ってわりとロックの曲だから。

J.C:(スタン・)ハンセンとか、ブルーザー・ブロディだとか。ブルーザー・ブロディは(レッド・)ツェッペリンでしたっけ。

MASS-HOLE:そうです、「移民の歌」。

J.C:親がロック聴くわけじゃないから、確かにプロレスで聴いてますね。

MASS-HOLE:通勤の車内で、プロレスのテーマ曲を3時間くらい集めたYouTubeをずっと聴いてます。スティーブ・ウィリアムスとかね、ぶちあがりますね。

J.C:高揚感がすごいよね。「移民の歌」もだけど。そういう影響を取り入れてるというか、自然と出てくるのかも。

MASS-HOLE:俺、蝶野の曲とかもえらいあがりますね。

J.C:シンセ系ですね。

MASS-HOLE:俺らの世代は小室ファミリーが流行ってたから、シンセ系にちょっとやられるところがあるよねってISSUGIくんとも話したことある。

(取材・文 服部真由子 for Mihija)

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