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支援目標を考えるときに大切にしている思い

特別支援教育を推進していく上で必要な事の一つが、個別の教育支援計画の作成と活用です。
学校では、教育支援計画に基づいて個別の指導計画も作成します。

その中でも、今後の教育方針の軸となるのが支援目標(長期目標)です。

目標を決める上でよく言われるのは

・子ども、保護者のニーズを考慮すること
・達成が可能であること
・評価が可能であること(具体的・行動的な目標)

等だと思います。

僕がここで書きたいのはそういった「気を付ける事」ではなく

「大切にしている思い」

です。

以下、これから書く内容はあくまでも僕個人の考え方です。
ですが、書くにあたり、他の学校や他の学部の先生から頂いた意見を参考にしています。

なお、教育支援計画と指導計画の書き方については現場や研修等で教わるはずなので、ここでは触れません。
事前に知りたい方は、ネットや書籍などを参考にしてみてください。
記載方法や様式はある程度共通しています。

個別の教育支援計画・指導計画とは

あくまでも僕が書きたいのは「支援目標の考え方」なので、ここではごく簡単に説明するに留めます。

個別の教育支援計画の目的

障害のある幼児児童生徒一人一人のニーズを正確に把握し,教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な支援を行うことを目的に作成されるものです。
「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 総則編(幼稚部・小学部・中学部)」参考

個別の教育支援計画の内容

主に
1.子ども本人や家族の基本情報
2.過去の経緯(生育歴、養育歴、教育歴等)
3.生活状況
4.子ども本人の実態(日常生活動作や身辺処理、認知、コミュニケーション、社会性、運動等)
5.連携する関係機関
6.子ども本人や家族の願い
7.支援目標(長期目標)
8.具体的支援内容(合理的配慮を含む)
9.評価

個別の指導計画の目的

教育支援計画の内容や教育課程などを踏まえ、各学校・各学部においてその子の実態に即した指導目標・内容・方法を具体的に定めて指導するために作成します。

個別の指導計画の内容

主に
1.基本情報と実態
2.支援目標(長期目標)
3.中・短期目標(教科、領域ごと)
4.指導・支援内容(合理的配慮を含む)
5.評価

一言で言えば、教育支援計画は「子どもの人生の計画」であり、指導計画は「子どもの学校生活の計画」です。

学習指導要領により、特別支援学校や特別支援学級に在籍する子、通級による指導を受ける子については作成と活用が義務付けられています。
また、通常学級に在籍する特別な支援を必要とする子についても作成と活用に努めるよう示されています。

支援目標を考える前に

僕が支援目標を考える(教育支援計画や指導計画を作成する)前に行う事です。

1.引継ぎ、教育支援計画と指導計画、面談記録、検査記録等、過去の資料全てに目を通す。

2.その上で気になった事柄について、過去の担任や保護者に直接聞いて確認する。

3.得た情報を基に実態把握図を作成する(仮説立てと指導の見通し)。

4.小学部6年間、中学部3年間、高等部3年間で目指す姿をイメージして書き出す。

支援目標を考える際のポイント

以下は、一般的なポイントです。
(最初に書いた事項も含みます)

・本人、保護者のニーズを考慮すること
・目標の優先順位を意識すること
・将来的な自立に繋がること

・肯定的な表現であること
・達成が可能であること
・評価が可能であること(具体的・行動的な目標)

今こうして書き出してみると、これで十分な気もしてきました。
でもここまで書いたので最後まで書きます。

僕が大切にしている思い

それは一言で言えば

本人の主体的な願い・思いであり、その目標が叶う事でその子の生活の質が高まる(生活が充実する)

そんな目標を考える事です。

僕は、目標を「達成するもの」ではなく「叶えるもの」と考えています。

子どもの立場から考え、
・その目標を本人に伝えた時に主体的に目標に向かう姿を想像出来るか(実際に目標を伝える訳ではありません)。
・目標が叶う事でその子の生活が豊かになるか。

そんな事を常に意識して目標を考えています。

個人的に気を付けて欲しい事

僕が大切にしている思いを踏まえて、目標を考える際に気を付けて欲しい事を書きます。
(主観が強いです。)
※なお、いくつか例を挙げていますが、実際はこんな単純な目標の決め方はしません。
あくまで、僕の考え方が大まかに伝わる事が狙いです。

1.段階を飛ばさない

例えば「絵カードを用いて要求を伝える事」を目標としたい子がいるとします。
そうなると、目標は「教師に絵カードを渡して、やりたい事を伝える事ができる」となるかもしれません。

でも、そもそもその子が絵カードや、絵カードを渡す事の意味が分かっていないかもしれません。
そうなると、上記の目標に沿って絵カードを渡す行為をただ繰り返すだけでは、「絵カードを渡す」という行為だけは定着するかもしれませんが、「本人が本当にその意味を分かって絵カードを使っているのか」という事については、教師の意識が薄れてしまいます。

ですので、例えば「絵カードを渡す事で自分の要求が叶う事が分かり、教師に絵カードを渡してやりたい事を伝える事ができる」という目標にします。
そうすると、「他者に絵カードを渡す事が要求を伝える手段になると分かる事」という、絵カードを渡す行為よりも先に育てるべき部分に意識を向ける事ができます。

そのためには、適切な実態把握により段階を踏んだ目標の設定が大切です。
(なお、高等部にもなるとトップダウン的な目標設定も必要になるため、必ずしも当てはまる訳ではありません。
ですが、大切な視点である事に変わりありません。)

2.般化を前提としない

例えば、「自分の気持ちを伝える事」を目標としたい子がいるとします。
そうなると、目標は「自分の気持ちを教師に伝える事ができる」となるかもしれません。
(ときどきこんな目標を目にします)

ただ、これは「気持ち」に限った事ではありませんが、場面や相手など状況によってできる時とできない時があるのが人間です。
特に知的障害のある子達は、同じ状況で同じ様にできる事(反応般化)、異なる状況でも同じ様にできる事(刺激般化)が難しい子達です。

上記の目標「自分の気持ちを教師に伝える事ができる」で立てたにも関わらず、特定の場面でしか気持ちを伝える事ができなかった時、この目標を達成できたと言ってよいのか、僕は疑問です。

もし「自分の気持ちを伝える事」を目標としたい場合、ある程度状況を限定して目標にする方がよいと思います。
例えば「休み時間に、やりたい遊びややりたくない遊びを教師や友達に伝えたり、一緒に遊びたい友達に声を掛けたりする事ができる」などです。

(ただ、「気持ちを伝える」という目標は、表面的な評価になりやすく、伝えた事が本当の気持ちなのかどうかの判断が難しい場合もあるため、僕は基本的に立てません。)

3.行動解釈を正確に行う

例えば、カッとなると友達に手を出してしまう子がいるとします。
そうなると、目標は「言葉で友達に要求を伝える事ができる」となるかもしれません。

ただ、まず必要なのは「その子がなぜすぐに手を出してしまうのか」を把握する事です。

教師がなんとなく思うように言葉での伝え方を知らないのかもしれません。衝動性が強いのかもしれません。

もしかしたら、力加減の調整に困難があったり、呼吸が乱れやすく情動を調整するのが苦手だったりするのかもしれません。
もしそうであれば、例えば自立活動の時間に身体の使い方や呼吸法を学習する事が優先目標になる事も考えられます。

子どもの行動を簡単に解釈せず、多角的な視点で分析する事が大切です。

4.教師の都合を優先しない

よくあるのは「丁寧な言葉遣いで教師と話す」「決められた時間活動に取り組む」などです。
(これらを否定しているのではありません。僕も似たような目標を立てた事があります。)

社会への適応や就労を意識した目標であるとも言えます。
確かに大切な事です。

ただ、この場合でもまず「なぜこの段階で言葉遣いを目標にするのか」「そもそも決められた時間活動に取り組めないのはなぜか」などをよく考えます。
言葉遣いの大切さをまだ理解していないのかもしれません。
であれば、どのような場面でどんな言葉遣いがあるのかを学習するのが先です。
活動内容が難しかったり、つまらなかったりしているのかもしれません。
であれば、活動内容や環境を見直すのが先です。

その子にとって本当に必要な、適切な目標か。
本人の主体的な願い・思いであり、その目標が叶う事でその子の生活の質が高まる(生活が充実する)か。

よく考えます。

5.困難(課題)の克服をそのまま目標にしない

例えば、分からない時や困っている時にその場で固まってしまう子がいるとします。
そうなると、目標は「困った時に教師に伝える事ができる」となるかもしれません。
(これも割とよく目にします)

援助要求は確かに大切です。
ただ、困る事が前提という、本人にとってこれほど消極的な目標はないと僕は思います。
そもそもなぜ援助要求ができないのかをまず考えなくてはいけません。
困る場面を設定して「教えてください」などと言う事をただ繰り返して、それでその子が生活の中で援助要求できるようになるのでしょうか。

これを学校教育の中で狙うのは否定しません。
(教育活動全般における自立活動として指導する事も考えられます。)
ですが、支援目標としては適切ではないと個人的に思います。

学校教育は「適応行動の獲得」のために行うのではありません。
充実した学びの結果として適応行動の獲得が伴うと僕は考えています。

もしどうしても援助要求を目標とするのであれば、「活動の手順や分からない事を教師とやり取りしながら理解して、最後まで進んで活動に取り組む事ができる」のような目標に僕ならします。
そして、その中で援助要求の場面を設定しつつ、前向きな評価を行います。

あるいは、目標には設定せず、普段の教育活動の中で意識して取り組みます。

他にも、
集団活動のルールが守れない子の目標を「集団でのルールを守って活動に取り組む事ができる」にする。
離席が多い子の目標を「机上での学習に○分間取り組む事ができる」にする。

なども同じです。

困難(課題)の克服をそのまま目標にするのではなく、なぜその困難が生じているのかを把握し、その上で正確な実態把握と目標に繋げる事が大切です。

(なお、援助要求には理論があります。それについてはいずれ書きたいと思います。)

以上、書き出したら5つになりました。

目標に囚われない

支援目標は、基本的に本人と保護者、そして作成者(教師)の願いが込められた優先順位の高い目標です。

ただ、当然ですが、支援目標にはなっていなくても、その子の課題や教育的ニーズは他にもあるはずです。

支援目標があると、設定した目標の達成にばかり意識が向かい、他の場面での支援が疎かになりやすくなります。

そうならないよう気を付けながら、その子のニーズ全体に目を向け、常に必要な教育、支援を行う事が大切です。

さいごに

以上、好き勝手に書きました。
はじめにも書きましたが、他の学校や他の学部の先生からの意見を参考にしつつも、僕個人の考え方でしかありません。
それは以下も同じです。

いろんな支援目標や支援内容を読むと、それを考えた先生の思いが伝わるものと、思いが見えにくいものがあると感じます。

どちらがよいのかという話ではありません。
ただ、僕個人としては前者の方が読んでいて嬉しくなります。
(好みの問題です。)

支援目標の書き方(考え方)は、学校や学部によってある程度固定化されやすいようです。

ずっと同じ学校、同じ学部で教育支援計画や指導計画を見ていると、その書き方に囚われて視野が狭くなり、柔軟に考える事が難しくなります。

担任の先生同士だけでなく、他学部の先生、外部から来られた先生等の意見も聞くと参考になります。

ただ、書き方を教わる事はあっても、考え方を教わる事はあまりないと思います。
僕も直接教わった訳ではありません。
ここまで書いた事のほとんどは、恩師の先生を見て吸収した事です。

書いた事が正しいのかは分かりません。
ですが、書いた事が僕にとって大切であるという事はいつまでも変わりません。