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三原神明市2024—新イベントを主催する市民団体「ミハラスパイス」とは?

 2月9~11日、4年ぶりに開催される広島県三原市の大きなお祭り、「三原神明市」。

 この開催に合わせて「みはら神麺市」に「DARUMART(ダルマート)」と、刺激的な独自のイベントを仕掛けるのは同市在住のデザイナーたちでつくる市民団体「ミハラスパイス」です。「三原にもっと刺激を!」を合言葉に活動を続けているミハラスパイスとはどんな団体なのでしょうか?

(取材・構成/ライター 小山美砂)

 ミハラスパイスが発足したのは2020年のことでした。ある夏の日、美容師、飲食店オーナー、建築家、そしてケーブルテレビ放送局のスタッフなど飲み仲間で集まっていた時のことでした。「アートや文化に関連する何かができたら、面白いよね」——誰かが言ったこのことばで盛り上がり、メンバー集めがはじまります。元俳優やビデオグラファー、デザイナーなど10人以上が集いました。

 合言葉にもある通り、アートを通して三原に刺激を与えたい、という思いがメンバーには共通していました。発足当初からのメンバーである清水昌宏さん曰く、「三原はもともと企業城下町として発展してきた、サラリーマンの街なんです。ただ、その企業も撤退してしまいました。いまは映画館や美術館もなく、アートが身近にありません。三原で暮らす人たちに、もっと三原を楽しんでもらいたいなという思いがありました」

 そして、ミハラスパイスが始動します。現在は1000人以上にフォローされるInstagramアカウント(@miharaspice)の初投稿は2020年11月4日。「世界にひとつだけのだるまアートを100体制作。完成した100体のだるまを三原駅前に展示します」とする内容で、第1回DARUMARTの開催を知らせるものでした。

市民や国内外のアーティストが制作したアートだるま

 前回の記事でもご紹介した通り、このイベントは新型コロナウイルスの蔓延を受けて神明市も中止となる中、「なにか元気が出るものを」と企画されたものでした。これは、メンバーを集めてからわずか数カ月で企画されたイベントだったのです。21年2月、JR三原駅構内に100体のだるまを展示し、好評を博しました。

 同時並行で、航空会社のANAホールディングス株式会社の主催で、アートをキーワードに新しい地方創生を探るプロジェクトにも関わりはじめます。参加するアーティストを佐木島や三原だるまの制作現場へ案内し、最終的にはアーティストの作品をのれんにプリントして市内の飲食店に設置する「ノレン ト アート ミハラ」を実現させました。

◎ 詳細はこちらの記事で紹介されています

 それぞれが本職をかかえ、ボランティアとして関わるミハラスパイスですが、2つのイベントの成功をうけて企画を加速させます。新型コロナの影響で中止となった伝統的な夏の「三原やっさ祭り」の再開を願って、市民約100人の声をあつめた新聞折り込み広告を配布。駅や広島空港にもポスターとして掲示したことをInstagramに投稿すると、「涙出た」「文字のコメント 隅から隅まで読みました。何回も何回も読みました」との声が寄せられました。 

 2022年には、神明市が2年連続中止となったことを告げるポスター(下図)を制作。シンボルの大だるまが倉庫の中でこたつを前に「STAY HOME」と呼びかけたデザインは「面白くてかわいい」と、市民のみなさんにも喜んでいただけたそうです。

 翌2023年には、引き続き中止された神明市の代替イベント「エキマエ神明市」を開催しました。蒸したて酒まんじゅうや限定酒がふるまわれ、だるまの面相描き体験を実施。約1万2000人が来場しました。

 そして、神明市に先だって毎年駅前に祭っていた「神明御山」の代わりとなる、「バルーンだるま」の設置にも携わりました。神明御山とは、背の高い竹を芯に、正月飾りにつかった松や藁などをまきつけてつくった「神の宿る標山」。神聖なものとして長くまつられてきましたが、職人の高齢化により継続が困難に。伝統を残すべきか迷いましたが、「とがっているところに神が来る」との考えで続けられてきた文化にならい、「奇抜なデザインで幸運を呼びこもう」と、バルーンだるまを制作しました。神明市に合わせて設置することとなり、新しい駅前のシンボルとなることが期待されています。

 さらにこの年の夏には、市民が選ぶ「三原の推しグルメ」をあつめた「シーサイド横丁」を三原港で実施しました。三原焼きや八天堂、焼き鳥などをお酒とともに楽しんでいただきました。

 その他にも三原やっさ祭りを盛り上げるためのショーと動画の作成など、私たちの技術とアイデアを活かした活動に取り組んでいます。

 新型コロナウイルスの影響とともにはじまったミハラスパイスの活動。行動制限もなくなった現在は、メンバーそれぞれが面白いと思うことに取り組んでいるそうです。渡邉一康会長は、「置きにいく姿勢ではなくて、『攻める』気持ちでやっています。あったらいいな、できたら面白いな、という気持ちをかたちにしているイメージですね」と話しています。

 個性豊かなメンバーが集まっているがゆえのことでしょう。「企画会議は毎度平行線」と、Instagramの初投稿にありました。渡邉会長も、「それぞれの分野で活躍している人たちだから、アイデアがすごく出るんですよ。だからこそ、まとまらない」と、楽しそうに笑います。ただ、活動開始から3年が過ぎて、市民からもさまざまな反響をもらいました。メンバーの中でも目的意識が共有されてまとまりも出てきたそうで、これからの活動がますます楽しみです。

エキマエ神明市の様子。中央は「バルーンだるま」

 最後に、ミハラスパイスの目標を渡邉会長に聞きました。

「尾道や竹原にくらべて、『三原は何もないよね』という劣等感があったように思います。でも、実際は三原だるまもあるし、海と山に恵まれた土地で景色も美しい。良いところはたくさんあるんです。『当たり前』だと思っていたこと、忘れられていた魅力に光をあてる。三原の人に、三原の魅力を再発見してもらえるような活動がしていきたいです」

 街の人が、自分が暮らす街を好きになる。身近なところにある魅力に気付いたら見える景色も変わり、毎日の生活も愛おしく感じられることでしょう。そして、そのポジティブな力は街の外にも伝わり、広がっていくはず。ミハラスパイスの活動の真髄は、そこにあるような気がします。

 ミハラスパイスが発信する三原の魅力を、ぜひご体感いただけたらと思います。この週末はぜひ三原市を訪れて神明市を楽しむとともに、「みはら神麺市」と「DARUMART」に足を運んでみてはいかがでしょうか。

(おわり)

◎ 三原神明市2024に関するイベント情報はこちら!


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