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エピソード1「不幸はいつも突然に」

それは、1月15日の金曜日の16時過ぎ。いつものように会社に出勤していたぼくは、一日の仕事のノルマを全て終え、事務所で会社のパソコンで社内メールチェック等を、のんびりとしておりました。その「のんびりとした空気」を突然変えたのは、血相を変えて事務所に飛び込んできた係長の大きな一声でした。
「オイ大変だ!! お前の家。火事になっとるらしいデ!」
またいつもの冗談と思ったぼくは係長に「まーた始まった。そういう冗談、飽きましたよ。ギャグの趣味、悪いッスよw」と呑気に返しましたが、その日だけは違っていました。係長は間髪おかずに「いや、冗談ちゃうって! 今、お前の親父さんから電話がかかって来て、家が火事だって言うとったって!!」その、係長の表情は、真剣そのものでした。

慌ててスマホを取りに行き、親父のスマホに電話をすると、すぐ繋がり、開口一番に「家が燃えとる!! 全焼じゃ!!」と叫んだのです。これは……冗談なんかじゃ、ない。係長は「今すぐ帰って! とにかく急いで家に帰って!!」と言い、ぼくは、その声を背中に「了解です!すみません、今すぐ帰ります!」と叫び、帰宅への猛ダッシュをキメたのでした。

会社から自宅までの帰路、その日は妙に道路が車で渋滞しており、焦りは募るばかりでした。車を運転しながら「頼む……出来れば、勘違い……もしくは、軽いボヤで済んでくれ……」と繰り返し願い、ハンドルを握る手は真冬にも関わらず汗でビッショリでした。

……そして、自宅近くの道路に近付いた途端、空にモクモクと白煙が上がっている。しかも、通行止めの緊急体制が敷かれており道路はパトカーと警察官で封鎖されておりました。ぼくは運転席のウインドゥを開けた瞬間、警察官の人が「すみません、今、火事で消火活動中なんです。通れません! 引き返して下さい!」と言ってきたので、ぼくは「そ、その火事の家は、ぼくの家です!!」と焦って告げると「そうですか! では通って下さい! 気を付けて!」と言って車を火災現場近くまで誘導してくれました。

その直後。ぼくの目に映ったのは黒煙と炎を噴き上げて盛大に燃え盛る……今朝まで何事も無かった、我が家でした。複数の消防車と消防士さん達によって必死に消火活動をしてもらっていても火の手は収まらず、「元」我が家は、全面が黒炭と凄い勢いで化していったのです……。呆然とするぼくに「とうさーん!」と叫んで駆け寄ってくる姿。それは、小学生の長男でした。「大丈夫か!? ケガとか火傷とかしてない!?」と聞くと、「うん大丈夫。弟も無事だよ。じいちゃんも、ばあちゃんも。母さんは、そこにいるよ。」と気丈に答えてくれました。家族は全員、無事。安堵で、その場にへたり込みそうになるぼくに親父は「見ての通りだ。全焼だ……」と悲痛な声色で告げました。

家族が無事だったのは何よりの幸運でしたが、1時間経っても火の勢いは収まらず、黒煙と炎を上げ続ける「元」我が家……。ショックで目の前が真っ暗がになっている最中に、警察官の一人が声をかけて来ました。「……ご主人さんですね?言いにくい事なんですが、出火元の部屋、ご主人さんのお部屋なんですよ。ちょっとお話、伺わせて貰いましょうか。警察署まで行きますので、後ろに乗って下さい。」ぼくにそう告げると、パトカーの一台が駐車していた場所からUターンして向かって来ました。「さあ、すぐ乗って下さい」そう言われてパトカーに押し込められました。朽ちていく「元」我が家と、それを見守る家族を跡目にして。晴れ渡った冬の空は、すっかり日が沈み、夜に変わろうとしていました……。

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