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鳥井一平 移住連代表理事インタビュー: 「法務大臣勉強会」所感と技能実習廃止全国キャラバンに向けて

Mネット2022年6月号より移住連代表理事の鳥井一平のインタビュー記事を掲載します。2022年3月18日(金)に第3回「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会」(法務大臣勉強会)が1時間余り開かれ、移住連代表理事の鳥井一平が出席しました。鳥井代表理事は、実習生の実態や技能実習制度の構造的な問題を指摘するとともに、移住連声明「外国人技能実習制度の速やかなる廃止を求めます」にもとづき、技能実習制度廃止を強く訴えました。インタビューでは、法務大臣勉強会の所感と、技能実習廃止全国キャラバン(2022年5月22日〜6月13日)の取り組みが語られています。

全国キャラバンの詳細・日程 → https://www.end-slavery.org 

移民政策は地球的規模の課題

古川禎久法務大臣には、現在の外国人技能実習制度そのものが法の正義に反している、受入制度を検討するのであればまず廃止をしてからだ、と伝えました。実際には、技能実習生と留学生がそれぞれ日本の産業の現場を労働者として担ってきています。政府が「受入れ」と言うのであれば、どういう労働者なのか、労働者は生活者でもある、ということも大臣に伝えました。そもそも移民政策は地球的規模の課題であって、一方の側からだけ見た受入れの議論では成り立ちません。いかに受け入れるか、だけではなく、地球上での人の移動に関する議論であるべきです。ある意味では、日本人も積極的に国際移動していると言えます。こうした指摘には大臣もある程度同意していたと思います。

古川法務大臣(宮崎3区)は宮崎県出身です。法務大臣勉強会では冒頭で宮崎日日新聞の報道や椎葉村での土砂崩れでベトナム人技能実習生が犠牲になった(2020年9月)ことについて触れました。実は宮崎県は、2021年時点で県内の外国人労働者の65%を技能実習生が占めており、これは全国で最も高い割合でした。

法務大臣との話の中で気になったことは、大臣が「入管庁の存在が大切」と盛んに言っていたことです。法務省は入管庁だけではなく、法務省の一番の仕事は人権です。だから大臣には、移民政策は地球規模的な、いろいろな国での課題だから法務省だけでなく政府全体で考えてほしい、その中で法務省から積極的に問題提起してほしい、と伝えました。移民政策ではいま日本に住んでいる人たちの権利・人権、労働者の権利を考えていかなくてはならないけれども、そうしたことは入管にはできないし、入管にやらせること自体に無理がある、とも伝えました。

「一対一」のはずが

実は、今回の法務大臣勉強会は事前に「大臣と一対一」と言われており、移住連事務局も同席を求めましたが、認められませんでした。しかし、当日大臣室に入ってみたら人が大勢いたのです。確かに大臣と私は隣り合って座りましたが、同じテーブルに入管の職員・官僚の人たちが3人くらい座り、ちょっと離れたテーブルにまた3人、もっと離れたテーブルに5、6人という感じで、正直言って「囲まれている」という感じでした。

「一対一」ということだったので大臣以外の人は発言しないと思っていたら、大臣から「皆さんの方から何かありますか」と周囲の人々に声をかけたのです。このことは本当はルール違反ではないかとも思いますが。

そうしたら、ある入管庁幹部が発言し、「入管は受入れについてこれまで検討してきました。途中で間に技能実習みたいなものが入ってきましたけども」という言い方をしました。いかにも技能実習は入管の計画ではないというニュアンスですが、まあ、実際にその通りでもあります。その幹部の発言で気になったことは、「外国人が増えたときにはやはり犯罪も増えた」というところです。相変わらず、全く統計データの裏付けのない、事実に反することを言うと思って聞いていました。そして、その幹部から「鳥井さんはどこの国の受入制度、あるいはどういう受入れのモデルがいいと思いますか?」と質問されました。それに対して私は「そうしたものはない」と回答しました。これは地球規模の課題であって、どこかをモデルにした方がいいとかそういう話じゃない、と。後から考えると、相手は「韓国」と言って欲しかったのかもしれませんが。

大臣が入管庁にミスリードされている?

法務大臣勉強会全体を通じて大臣が強調していたのは、やはり、2021年に廃案になった入管法「改正」案です。「いいところがあるんだ」と言っていました。同時に「難民申請はおかしい」「在留特別許可についても出そうと思っている」というような発言もありました。

私は印象として、技能実習制度と特定技能の見直しとセットで前回の入管法「改正」案をまた出してくるんじゃないか、という危惧を感じました。大臣が入管庁にミスリードされているようにも見えました。「いいところがある」と言ったり、難民ブローカーを挙げて難民申請の問題に言及したり。私は「難民ブローカーはいるかもしれません。しかし、なぜいるのか、ということだ」と言いました。難民の審査についても、入管庁とは別の、第三者機関のような、独立した機関が必要じゃないか、法的な手続き・審査や収容についても法的な手続きが必要だという話を大臣に伝えました。

技能実習廃止全国キャラバンの目的と狙い

政府は技能実習制度の見直しをすると言うけれど、廃止でなくてはダメなんです。また、廃止をした後に技能実習制度に似通ったような制度でも困るわけです。あるいは、現在の特定技能そのものでもまずいわけです。日本に来た人が一緒に技術を学びながらスキルアップをして、この社会を担っていく、そういうことでないといけないわけです。人の移動というのはそういうものだと思います。だから、技術を持った人に来てもらうというだけではないわけです。だから、「見直し」となった時に積極的にこちらから発信していかないといけない。こちらが思っていたよりも政府のスピードが速いんじゃないかという状況もあり、こちらからの発信を早めよう、いまやらなくては、となりました。

2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻の問題で、日本政府が難民に関するいろいろな法律改定をするという話が出てきています。同時に、私が法務大臣勉強会で受けた危惧もあり、なにか肯定的な要素を入れて、それとのセットで入管法を「改正」しようとするのではないか、難民保護の国際原則・国際人権の基準と違った導入の仕方で入管法を「改正」しようとするのではないか、という懸念があります。

だから、こうしたことについてはやはり早く声を上げていった方がいいという判断です。加えて、全国の地域社会における実態は地方新聞で再三報道されてきており、この間、私はずっとそのことを強調してきました。地方ではより良い共生社会を求めているけれども、まったく政策が出てこない、そのためにどうしたらいいのかみんな困っているわけです。だから、各地方を回って、技能実習廃止全国キャラバンで各地の声を集めて発信していきたいと考えています。

今こそ各地の声を発信していくとき

地方では、地域社会に外国人が増えても、地元の人は、自分の目の前にいる人がどういう人なのかわからん、と戸惑っているわけです。労働者として働いているけれども「技能実習生」という名前だよね、と。あるいは「技能実習生ってなんなんですか?」と。その地域社会が求めていることに対応した人々が労働者として働いているのに、その外国人たちとどう接していったらいいかわからない。あるいは、一緒に働いてもらいたい、ここで仕事を続けていってもらいたいと望んでもそれはできない、ではどうしたらいいんだろうか、という戸惑いや要望を拾い集めていくチャンスが今だと思っています。

こうした状況は昨年の地方紙の動きから感じ取ってきたことです。移民受入、外国人労働者というと否定的な感情を持っている人が大半だとよく言うけれど、この技能実習廃止全国キャラバンで肯定的な要素、つまり地域社会はより良い共生社会を求めているということを示していきたいと考えています。

真の入管法改正を求めていく

外国人が犯罪者あるいはその予備軍であるかのような前提に立ちながら、一方でいかにも肯定的な要素を示し、それをバーターとして外国人に対する管理強化をしようとする法案、依然として外国人を監視管理の対象として考えるような法案を法務省が出してくる可能性があるわけです。これに対しては正面からちゃんと批判をし、私たちが求める社会にそぐわない入管法「改正」にはNOを言う。よりよい共生社会、労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会に向けたものでない限りは反対していく。真っ当な移民政策、本当の意味での、真の入管法改正、私たちが求める入管法改正を積極的に打って出る必要もあると思います。

2022年4月20日、インタビュー・記録:山本薫子

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