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移住連 移民女性の妊娠・出産調査について

移住連 高谷幸

 M-netの2022年2月号の特集は「移民女性の妊娠・出産」です。移住連では2021年に移民女性の妊娠・出産についての調査を行いました。本記事は調査結果の概要をまとめたものです。特集の他の記事についてはM-net本誌をご覧ください。


移住連では、2021年に移民女性の妊娠・出産についての調査を行った。

近年、技能実習生や留学生などの妊娠・出産をめぐる相談が、支援団体に数多く寄せられてきた。特に、「活動にもとづく在留資格」(以下、「別表1」)の場合、在留期間の上限設定等により、日本で出産することが困難なケースも少なくない。また在留資格や住民登録のない移民女性の出産、育児も困難をきわめている。しかし彼女たちが直面する困難は、十分明らかにされていない。

そこで私たちは、2021年5〜6月にかけて移住連のMLを通じて支援団体や支援者に関係するケースについて情報提供をお願いする形で実態調査を行った。対象としたのは、2019年4月から調査時までに相談を受けた、あるいは取組みが継続している移民女性(「別表1」の在留資格もしくは在留資格がない場合)の妊娠・出産・育児ケースである。結果、63ケースについて情報提供をいただき、対象の基準に合致する58ケースについて分析を行った。58ケースを女性の国籍別にみると、ベトナム18、ネパール7が多く、残りは各国籍5ケース未満とばらけていた。また在留資格別では、技能実習13、特定活動12、在留資格なし14、就労系在留資格7、その他12であった。これを技能実習(元技能実習含む)、住民登録のない移民・難民、就労系の在留資格保持者に区分し、結果を分析した。なお在留資格が特定活動の場合、多様な生活実態の移民が含まれるため、各ケースの内容から3つのグループに振り分けた。以下は、その報告の抜粋である。

(1)技能実習生

技能実習生のケースは14ケースあった。そのうち8ケースがベトナム籍である。技能実習生のケースの特徴は、監理団体、送り出し機関、受け入れ機関などから妊娠を禁じる制約のあることが多いことで、実際それらの制約があったのは10ケースに及んだ。こうした制約は本来認められておらず、2019年、2021年と法務省入管・厚生労働省・外国人技能実習機構の連名で、妊娠・出産に伴う不利益取扱いを禁じる文書が出された。しかしこれらが効力を発していないのが現実である。

こうしたなか支援団体によるサポートを得て日本で出産できたとしても、子育てを日本ですることは難しい。事実、日本で子育てしているのは2人だけであり、7人が母親の出身国に子どもを預けていた。なお14ケースのうち8ケースは父親も技能実習だった。また子どもの在留資格は特定活動1、短期滞在1で、確定していないことがわかる。

一方で、各種制度の利用については8人が母子健康手帳を取得し、また5人は出産時に保険を利用できている。4人は育児休業を取得している。ただし本調査で集められたケースは支援がある程度できたケースだと考えられる。それは適切な支援があれば、一定の権利保障が可能であることを示すと同時に、そうした支援がなければ、権利はほとんど画餅だということである。もちろんその方が圧倒的に多い。

実際、妊娠が判明したところ、会社や監理団体から「仕事をやめて母国に帰らないといけない」といわれたという報告が複数あった。また「妊娠が判明すると同時に、残っている人への見せしめのように寮から排除し……妊娠した人が悪いという認識を会社が持っている」という指摘もあった。こうした環境では、技能実習生が支援団体にアクセスし、権利を行使するのは非常に壁が高いと言わざるを得ない。また、もし支援を得られたとしても、病院での多言語対応のほか、産休期間中や出産後の生活費などを考えると、日本で生み育てることはほとんど不可能に近い。

(2)住民登録のない移民・難民

住民登録のない移民に含まれるのは17人だった。在留資格別では、在留資格なし(仮放免8、未出頭6)のほか、特定活動(3ヶ月)が3人である。これ以外に特定活動(6ヶ月)も4人いたが、在留期間更新後に同じく6ヶ月の在留資格が認められるとは限らないことを考えると、同様に不安定な資格といえるだろう。そこでここでは、彼らも含めた21人についての概要を説明する。国籍別では、ミャンマー4、カメルーン4、ギニア3であり、トルコ(クルド)1のほかは、アジア・アフリカ出身者であった。このうち少なくとも7人は難民申請者だった。

21人の出産のうち父親が協力的だったのは7人にとどまり、非協力的/告げていない9人、不明が5人となっている。このカテゴリーの特徴は、住民登録がないがゆえ、国民健康保険にも入れず利用できる制度が非常に限られていることがある。実際、無保険で出産した人が少なくとも7人いる。一方で、夫の扶養に入るなどで健康保険を利用できた人も8人おり、母子健康手帳は13人、入院助産制度は10人が利用していた。これらは支援があれば、なんとか制度にアクセスできる可能性も示しているが、制度利用の可否は自治体の判断によることも大きいことが指摘されていた。

また特定活動のように在留期間が複数ある場合、その期間が3ヶ月か6ヶ月かで利用できる制度が大きく異なっている。さらに子どもの在留資格が親のそれに左右されることも問題である。

法制度以外の課題としては、病院、自治体で、利用できる制度であっても担当者がそれを知らず利用できていない場合があること、また、非正規滞在者の場合、それが発覚することの恐れや費用負担の問題から、未受診・飛び込み出産となりリスクが高いという指摘もあった。くわえて、そもそも単身女性の脆弱さや出産後の生活費の問題もある。

(3)就労系の在留資格

就労系の在留資格とは、技能実習ケース以外の「別表1」に含まれる資格をまとめている。具体的には、留学4、特定技能3、技術・人文・国際業務、家族滞在各2のほか、特定活動も6ケースあった。国籍別では、ベトナム9、ネパール6のほかは、ばらつきがあった。

法制度と関係する課題としては、子どもの在留資格が不安定になりやすいことがある。特に特定技能1号の場合は、家族帯同ができないため、技能実習生と同様の問題が生じる。実際、「妊娠したら帰国」という文言が契約書に含まれていたという報告があった。またそれ以外の在留資格の場合も、妊娠を理由に退職(退学)勧奨/強要があること、一方で在留資格が就労・就学を条件にしているため退職すると在留資格が不安定になるという根本的な問題がある。同時に、親の在留資格の不安定さは子どもの在留資格の不安定さ、さらには国民健康保険からの脱退にもつながっており、母子の健康にも影響を及ぼしている。

法制度以外の課題としては、就労先や学校の理解がないと出産が難しいことがある。また病院や自治体での言葉の壁のほか、出産後、経済的な面も含めて日本で子育てをすることは非常に困難である。特にシングルマザーの場合、生活保護も認められていない在留資格のため、生計を立てることはかなり難しい。一方、中絶する場合も日本では中絶方法が限られているとの指摘もあった。

まとめ

以上のように、調査結果をもとに移民女性の妊娠、出産をめぐる課題を検討してきた。技能実習生、住民登録のない移民女性、就労系の資格保持者それぞれの課題があると同時に、どの女性たちもリプロダクティブ・ライツが十分保障されているとはいえない。

その大きな背景に、家族帯同を認めず期限つきの滞在しか認めない技能実習や特定技能の制度がある。あるいは特定活動のように、在留期間が細切れに区切られることによって、実際には一定の期間滞在している場合も含めて住民登録や国民健康保険から排除される実態がある。これらは、法制度によって作り出されている排除である。

調査から浮き彫りになるのは、こうした制度的排除を、支援という共助によってなんとか乗り越えようとする現場の努力である。それによって制度利用につながった実績がある一方で、そこにつながる移民女性は全体からみれば一握りだろう。それゆえやはり課題は、移民女性のリプロダクティブ・ライツを保障すると同時に、望む誰もが安心して出産、育児できるための法制度を求めていくことだろう。

くわえて、技能実習生や特定技能1号労働者のように、母親の在留資格が活動にもとづく短期の資格であり、家族帯同が認められず、妊娠や出産が想定されていないという状況は、1980〜2000年代にかけてエンターテイナーの資格で働いていた移民女性の状況と類似している。しかし当時、彼女たちが出産した場合、子どもたちの父親の多くは日本人であった。それゆえ彼女たちのケースでは、1996年の730通知によって、子どもの父親と結婚しない場合でも移民女性は日本人の実子養育という形で在留が認められるようになった。また2008年の国籍法改正によって、父母が結婚していなくても出生後の認知があれば子どもは日本国籍を取得できるようになった。どちらも当事者や支援者が声をあげ獲得されたものだった。だが当時、子どもや母親の滞在を求める要求は、子どもが日本人であること、つまりネーションとのつながりを根拠にしていた。しかし今日のケースでは、子どもの父親も外国籍である場合が多くなっている。こうした場合、子どもの在留資格の保障をどのように求めていくのか。市民運動の想像力も問われているように思われる。


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