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【無料公開】今こそ求められる正規化

2021年春に審議された入管法案の問題点について、より多くの人に知っていただくために、移住連の情報誌「Mネット」に過去に掲載された関連記事を公開しています。「Mネット」2020年4月号からの本記事を無料公開します。

                        国士舘大学  鈴木 江理子

 無期限の長期収容、劣悪な収容環境、厳格な監視下に置かれる仮放免者――。収容者や仮放免者の置かれている状況は過酷を極め、生命の危険にさえ晒されている。いまだ退去強制手続きの対象となっていない非正規滞在者を取り巻く環境も、2000年代初めまでの「黙認・放置」の緩やかな排除の時代から一変し、就労の場や生活の場からの徹底的な排除が進行している。

 このような非人道的な事態を前にして、一刻も早い長期収容者の解放、収容処遇の改善が求められる。しかしながら、たとえ収容を解かれたとしても、「不自由」な身であることに変わりはない。仮放免者も含め非正規滞在にある者の「権利」には制約があり、安心して日々の生活を営み、日本での将来を思い描く「自由」はない。彼/彼女らの「不自由」を解消する方法は「、帰国」か「正規化」かの二者択一であり、迫害におびえる難民申請者など帰国を選択できない者にとっては「正規化」以外の道はない。

在留特別許可による正規化

 日本では、期間を定めて正規化の申請を受け付けるアムネスティが行われたことはなく(注)、出入国管理及び難民申請法(以下「入管法」)第50条に定める在留特別許可が、正規化の手段として用いられている。従来、法務省は「法務大臣の裁量」として、その基準を明示していなかったが、2004年より許可事例を、06年より不許可事例を毎年HPで公表するようになり、さらに、第三次出入国管理基本計画(05年3月)等をうけて、06年10月、「在留特別許可に係るガイドライン」(許否判断にあたって考慮されるべき積極要素と消極要素を列挙)を策定・公表した。加えて、09年7月、新しい在留管理制度を構築するために入管法が改定された2日後、改定入管法の附帯決議を受けてガイドラインが改訂された。表1は、ガイドラインや許可・不許可事例等をもとにまとめた、現行の在留特別許可の類型とその事例である。

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 在留特別許可件数は、半減計画の翌年の2004年、13,239人と過去最高を記録したが、直近の2018年は1,371人とほぼ10分の1に減っている。在留特別許可の主たる対象である「不法」残留者数が減少しているとはいえ(2004年1月:219,418人⇒2018年1月:66,498人)、明らかに正規化率は低下している。

 その理由として、半減計画以降の徹底的な排除により、非正規滞在者が以前のように「日本社会とのつながり」を形成することが難しくなり、新たに正規化の対象となる外国人が減少傾向にあることに加えて、半減計画の目標達成のために――つまり、非正規滞在者を削減するために――、在留特別許可が積極的に活用された結果、当局が在留特別許可の対象とみなす人は既に正規化されたことを指摘できるであろう。実際、2004年から5年間で49,343人が正規化されている(同時期の送還者数は159,980人。1952年から18年までの67年間の正規化は累積177,389人)。

 第四次出入国管理基本計画(2010年3月)でも、「在留特別許可の透明性と予見可能性を確保し<中略>在留特別許可の対象となり得るものについてはこれを適正に許可し、その法的地位の早期安定化を図っていく」ことが示されている。だが、在留特別許可の線引きの明確化は、対象ではないと判断された残余の「不法性」を強調し、当局による排除が正当化され、強行されることになる。

(注)近藤は、諸外国における正規化を、1「一般アムネスティ」(一定の申請期間のもと一斉に、一定の要件を満たす者に対する正規化)、2「在留特別許可」(申請期間を設けることなく個別に、特別な事情に応じて行う正規化)、3「特別アムネスティ」(一定の申請期間のもと、個別の事情に応じて行う正規化、1と2の折衷)の3つに分けている(近藤敦2010「一般アムネスティ・在留特別許可・特別アムネスティ」近藤敦・塩原良和・鈴木江理子編著『非正規滞在者と在留特別許可』日本評論社)。

正規化から排除された人々

 そして、今まさに長期収容や仮放免の過酷な状況に追いつめられているのは、正規化から排除された人々である。

 表2は、移住連関連の組織や個人が支援している非正規滞在者等を類型化したものである。日本人と事実婚にある者や同性パートナー(類型A、法的婚姻ではないために在特類型aから排除)、摘発/裁決時には幼かった子どもが、すでに高校生や大学生になっている長期滞在家族(類型B、在特類型bから排除)、あるいは、親が帰国することを条件に子どもに対してのみ正規化の可能性が提案され、分離される家族(類型B、在特類型bから排除されfとして正規化)、在特類型に該当するものの「不法」入国や過去の退去強制歴、刑罰法令違反等の消極要素が過大に考慮され正規化から排除される者――。

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 09年の改訂から10年以上が経っているにもかかわらず、この間、ガイドラインは見直されていない。むしろ、以前ならば在留特別許可がえられたであろう者に対して退去強制令書が発布される事例も少なからず報告されている。半減計画の目標が達成され、かつ、18年12月には、新たな外国人労働者の受入れを可能とする改定入管法が成立したことを受け、当局は、仮放免者や収容者をはじめとする退去強制事由該当者の排除を一層強化しているようだ。だが一方で、追い込まれてもなお、帰国を選択できないのは、表2で示すような「特別な事情」があるからにほかならない。政府が非正規滞在者等の一掃を企図するのであるならば、半減計画後の一定期間、在留特別許可を積極的に活用した「経験」を参照することは、有効な方策となるはずだ。

 主権国家として、すべての非正規滞在者等を正規化することは困難であり、正規化には必然的に許否の線引きが伴うことは事実である。けれども、頑なに排除を強行する現在の方針では、双方がいたずらに疲弊するのみで、問題解決に至らないことは明らかである。人権という視点に立ち、線引きの妥当性を検討することこそ、重要ではないだろうか。

 今こそ、生命を賭してまで帰国を拒絶する彼/彼女らの訴えに耳を傾け、日本での滞在を求める事情を十分に斟酌し、正規化の枠を拡大することを強く求めたい。そのうえで、非正規滞在者等を生み出した責任の一端が当局の対応にあることを鑑みれば、現行の在留特別許可に加えて、諸外国の事例を参考にしつつ、アムネスティの実施を議論する必要があるだろう。

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