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【無料公開】仮放免不許可取消しを求める一斉訴訟報告

M-netにこれまで掲載された記事のバックナンバーから、一部の記事を無料で公開します。今回は入管長期収容問題についての連載第4回目です。
(初出:Mネット2020年4月号 特集「どうする?入管収容施設での長期収容問題〜その実態と解決に向けて」)

                  ハマースミスの誓い・弁護士 本多 貞雅

一斉訴訟の提起

全件収容主義と闘う「ハマースミスの誓い」(ⅰ.)の活動の一環として、2019年4月25 日、仮放免不許可処分に対する取消訴訟を東京地方裁判所に一斉に提訴した。当初提訴した原告(被収容者)は、収容期間が3年を超える2人を含め7人であった。
 平成30年2月の入国管理局指示(ⅱ.)以降、仮放免が許可されづらくなり、収容期間が目に見えて長期化するという異常事態を司法の場で打破したいという気持ちからの一斉提訴であった。

ⅰ.   2014年10月設立。https://www.facebook.com/hammersmithpromise
ⅱ.  平成30年2月28日付け法務省管警第43号法務省入国管理局長指示「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」


弁護団の主張

 我々が主張した要点は次の通りである。

① 人身の自由が原則であって、合理性を欠く拘禁、恣意的拘禁は禁止されること
 人身の自由は、憲法、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という)において保障されるものであって、外国人であっても当然に保障される。人身の自由が原則であることから、それを制約する拘禁は例外でなければならず、適正さを欠く拘禁、恣意的な拘禁は禁じられる(憲法31 条、自由権規約9条1項)。
 入管法においては、入管収容が人身の自由の制限であるにもかかわらず、その目的や要件について明文規定が定められておらず、それ自体が法律の重大な不備である。もっとも、入管法に明文規定が存在せずとも、上記のとおり憲法、自由権規約等の上位規範が示すところの制限に服し、適正さを欠く拘禁、恣意的な拘禁は許されない。

② 全件収容主義は誤りであること
 被告(国)は、「一連の退去強制手続は容疑者の身柄を拘束して行うのが原則」であるなどとして、無条件、無期限の収容が可能であるかのような主張をする。しかしながら、収容令書による収容を定めた入管法39条1項も、退去強制令書による収容を定めた同法52 条5項も、いずれも収容することが「できる」と定めているにすぎず、被告(国)が標榜する「収容前置主義」や「原則収容主義」(国はかつて「全件収容主義」と主張していた)は、形式的な根拠、実質的な根拠のいずれもない。むしろ、退去強制手続中であることのみを根拠とする無条件、無期限の収容は、適正さを欠く拘禁、恣意的な拘禁に当たり、憲法31 条、自由権規約9条1項に反し、許されない。
 近年、被告(国)が行っているように、入管収容の目的を行政機関が自由に設定・変更したり、収容期間をその時々の判断で伸縮したりすることは、行政機関が自由に拘禁の要件を定めるに他ならず、一般市民にとって予測可能性を欠く「恣意的な拘禁」にほかならない。

③ 収容の目的は「逃亡の防止」に尽きること
 退去強制令書による収容の目的は、「強制送還を円滑に行うために逃亡を防止すること」であり、それに尽きる。退去強制手続の目的は、その名のとおり対象となる外国人の退去を強制する強制送還であって、収容ではない。収容は強制送還を実現するための手段にすぎない。
 すなわち、入国警備官は、退去強制令書を執行するにあたり、「速やかに」強制送還をしなければならないが(入管法52条3項)、「直ちに」送還ができない場合は、「速やかに」強制送還するまでの間に限って収容ができるとし(同条5項)、さらに(速やかに)強制送還ができなくなった場合は放免をすることを定めているのである(同条6項)。
 これに対し、被告(国)は、「在留活動の禁止」なる概念を持ち出し、外国人の「在留活動を禁止」することも入管収容の目的である、という主張をする。
 しかしながら、禁止すべき「在留活動」が一体何なのか、内容・範囲・禁じることによる効果が全く明らかでないことに加え、入管法には「在留活動の禁止」という目的が明記されていないことからすれば、かかる目的は、本来の入管収容の目的には含まれておらず、被告(国)が後発的に主張し始めた独自の見解である。

④ 相当性を欠く収容は許されないこと
 入管収容の目的は「強制送還を円滑に行うために逃亡を防止すること」であるが、拘禁が人身の自由の原則の例外であることからすれば、常に最小限に留めるべきであり、代替的手段が存在する場合(保証金の納付、制限住居の指定、入管への出頭日時の指定などの条件など)、収容が長期に及ぶ場合、健康状態が悪化し収容に適しない場合は、手段としての相当性を欠くため、収容は違法となる。
 同時に、手段としての相当性を欠く収容は、対象者に受忍すべき以上の不利益や苦痛を与えるから、人道的配慮の見地から身体の解放をすべきである。
 各原告は、上記の主張をベースとした上で、それぞれの個別的事情(収容期間や健康状態など)を加えて主張していった。

現在までの状況

 提訴は続き、大阪、福岡での提訴もあった。報道(ⅲ.)に触れて訴訟を希望する人もいた。
 本稿執筆時点で、当初7人のうち2人が判決までに仮放免許可を得られた。当初7人以外の訴訟についても、訴訟中に仮放免が許可されたとの報告はあり、提訴による一定の効果は出ていると実感している。しかしながら、判決が出た2件については、いずれも請求棄却であった。
 判決は、「退去強制令書の執行による収容には、当該外国人の本邦における活動を制限する目的が含まれている」、「収容期間が長期に及んでいるのは、原告が退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、本邦からの出国を忌避していることにも原因の一端がある」などと、我々の主張を正解せず、被収容者が置かれた状況に無理解で不当といわざるを得ないものであった。

ⅲ https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/immigration-long-term-detention

求められる司法救済としての機能

 仮放免不許可取消訴訟の実質的な勝訴判決(ⅳ.)は筆者の知る限り1件のみであり、一斉提訴後の勝訴判決はまだない。長期収容の入管問題に携わる弁護士としては、引き続き、裁判所を粘り強く説得していかねばならないことを痛感している。
 また、提訴から判決までに早くても10ヶ月程度を要している現状では、そもそも人身の自由に対する司法救済としての機能を果たしているとはいえない。当初7人のうち2人は、これ以上の収容に耐えられないとして、自ら帰国を決意し、判決を待たずに帰国した。
 刑事事件における保釈では、同じく人身の自由が問題となるが、保釈請求から数日で許否が決される。入管収容による身体拘束が「個人の生命を奪うことに次ぐ人権に対する重大な侵害」(ⅴ.)であることに鑑み、速やかな手続の実現が必要である。

ⅳ 東京地方裁判所平成30年8月28日判決(裁判所ウェブサイト)。控訴はなく確定。
ⅴ 東京地方裁判所平成14年3月1日決定(判例時報1774号25頁)

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