勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第6回 青山ブルーマウンテン その6

「お待たせー!遅くなってごめーん!!」
彼氏さんがやってきたのは、私がパスタセットを食べ終え、ダージリンをすすりながらまったりしていたときでした。
仕事ではいつもやりとりしているのですが、夜に会うのは本当に久し振りです。
彼の顔を見た私は、彼に飛びつきそうになりました。
「ご飯食べて、その後まったり過ごしていたからね~。気を遣わなくていいよ」
「悪い。ぼく会社からそのままここに直行したから、なにも食べていない」
「じゃあなんか食べようよ。今晩は長くなりそうだし」
最近はデートもままならなかったから、その分たっぷりサービスしてもらうからね。
彼は上着を店内にあるハンガーに掛け、席に座るなりメニューを見て
「なに食べようかな……」とつぶやいています。
私が隣から
「このお店、カレーもおいしいよ」と口を挟むと
「じゃあマスター、カレーセットお願いします」と頼みました。
「かしこまりました」
「飲み物、なに飲んだの」と、彼は私に尋ねます。
「ダージリンだよ」
「マスター、ぼくも同じもので」
「かしこまりました」とマスターは、上品な声で返事をしました。
私は視線をカレに向けて話しかけます。
「ずいぶん遅かったのね。そんなに仕事たまっていた?」
カレは大きなため息をつき
「休日だというのに会議だよ。ぼくが担当している新人の原稿入稿が遅れ気味でさ、何度もせっついているんだけどちっとも進捗しない。このペースでは雑誌の発行に間に合わないというんで、その穴埋めをどうするかで話し合っているんだけどさ……」
ははぁ、あの新人を担当しているのですか。
その作家に関してはいろいろよくない噂を耳にすることが多いです。
さぞかし、ストレスもたまるでしょう。
私も連載を何本も抱えていますが、原稿を落としたことはおろか、カンヅメの経験もありません。
まあ、日頃の行いがいいですからね。
枕営業? 彼氏が担当だからお目こぼししてもらっている?
ハハハ……ご冗談はやめてください。
「それで、結論は出たの?」
「いいや全然。別の原稿を充てるべきだという人間と、彼を信じるべきだという意見でもめてさ。後半は怒声が飛び交う修羅場の展開さ。上司からは『こうなったのもお前が悪い』って詰められるしさ……イヤになるわ」
「あなたはどう思っているの?」
「彼に関しては、ぼくはもういい加減に見切りをつけるべきだと思っているし、今日の会議でも再三そう主張したんだけどね。何度注意しても当人は馬耳東風、反省の色がないばかりかああだこうだと言い訳ばかりは超一流。文才はあるのは僕も認めるけどさ、最低限のルールを守ろうという意思がまるでない。こんな調子ではサラリーマンになっても、結果は見えている」
「そんな子、さっさと切ればいいのに」
「そいつを推しているのが上司なんだよ。無能なのにやたらと威張りたがる上に、人を見る眼が全然ない。しかも決定権を持っているのはそいつだし、上層部のゴマスリもうまいときている。おまけに『俺は有能だ』と思っているから始末に負えない。他のみんなは、このバカ上司のことをクソミソに貶しているよ」
「だろうね」と、私はあいづちを打ちます。
くだんの人物は、私もよく知っております。
言動も態度も尊大で、おまけにパワハラの常習犯。上にはこびを売り、下の人間をいじめても平然としている。
私も今の雑誌に連載しはじめた頃は彼が編集長を務めていたのですが、何かにつけてケチをつけるので、ストレスがたまっていたものです。その頃から社内では浮いた存在だったのですが、今もそうなのですね。全く困ったものです。
「他の原稿の当てはあるの?」
「それなんだけどさ」と、彼氏は私の目を見据えます。
「以前君が書いたけど、いろんな事情でボツにならざるを得ないエッセイがあっただろう?それを使わせてもらえないかな~ってさ……」
「な~んだ。それだったら是非使ってよ、あのエッセイ」と私は笑顔で応じます。
「でもさ、それには条件があってさ……」
「なに?」
「彼の開けた穴を、ずっと埋めなければいけないというものなんだ……」
「う~ん」私は頭を抱えたくなりました。
「あのエッセイって、連載だとどのくらい使えたっけ?」
今度は、彼氏さんが頭を抱えます。
「せんせ~。時分の書いた原稿の字数くらい覚えておいてくださいよぉ」
と嘆くと
「さすがですね~。売れっ子先生は、いうことが違うわ~」と、嫌みったらしく応じます。
「じゃあ、私が売れっ子作家でなくなったら、私との関係を清算するの?」
と、私も負けずににらみ返しました。
「おお、こわ。そんなこと思ってないのに」彼氏さんは首をすくめます。
「ほんと~?」
「それはともかくとして、さ」彼氏さんは、話題を変えようと必死です。
「ずっと埋めるとなったら、続けられる自信あるの?」今度は、彼氏さんが私をにらみ返します。
「う、う~ん……それはちょっとなんとも……」
「ほら、ね。二つ返事で引き受けられないだろ?僕としても、これ以上君に無理をしてもらいたくない」
「適任者いないの?」
「僕の知る範囲では、いないな……みんな一杯一杯の状態だし」
「渋谷凛なんてどうかな?」
渋谷凛というのは、かつて一世を風靡したアイドルグループ「newgenerations」のメンバーです。今はアイドルから卒業し、マルチクリエイターとして今一番勢いがある若手として世間に知られております。
「僕、渋谷凛とつながりがないんだよ。君はあるの?」
「代理店の人が知っていると思う。私の知り合いは代理店の人が多いから、会う機会があったら聞いてみるね」
ああそうだ、思い出した。
「凛ちゃんが、芸能関係に人脈を持っているから、彼女にも訊いてみるね」
「かたじけない。よろしく頼むわ」と、彼氏さんが頭を下げます。
ちょうどそこへ
「お待たせしました。ご注文のカレーセットでございます」というかけ声と共に、マスターがカレーセットを持ってきました。
「ほら来たよ。暖かいうちに食べちゃいな」
「そうだね。いただくとするか」というなり、彼はカレーを口に運びます。
「ウメー!!」
「でしょでしょ。おいしいでしょう?」
「うんうん」と、彼氏さんはにっこり微笑みながら、カレーを頬張ります。
私はその横で、その他諸々の雑事処理のために、パソコンを開きました。
「お前、どんだけ仕事を抱えてんだよ」彼氏さんは、呆れたという表情を浮かべます。
「仕事を効率的に進めるためには大事なことなの」と私は応じます。
やがて
「あーおいしかった」と、彼氏さんは満足そうな表情を浮かべます。
彼氏と2人で、どうでもいいことをぐだぐだと話していると
「よろしかったら」と、マスターがグラスの入ったお酒を差し出しました。
「私の得意先が持ってきてくれたコニャックなんだけど、飲んでみない?」
「いいんですか?いただきます」
「ごちそうさまです」
彼氏さんは私に向き合うと
「それじゃ、乾杯しようか」といいます。
「そうだね。それでは今日はお疲れ様でした。乾杯!」
2人はゆっくりと、グラスのコニャックを口に含めます。口の中にいい香りが広がります。
「おいしいー!!」と、ワタシは思わず叫びました。
「上品な味だ」と、彼もつぶやきます。
「お気に召したようで何より。でもこれはアルコール度数が高いから、飲み過ぎると悪酔いしますよ」とマスターが忠告します。
「そうだね。二日酔いしたら元も子もないからね」と彼氏は苦笑します。
「じゃあ、このグラスが入った分だけ飲んで、外に出ましょうか」
私の提案に、彼氏様も同意します。
マスターとたわいもないおしゃべりをしながら、グラスに残っているコニャックを飲み干すと、2人は上着を羽織りました。
彼氏様がお会計を済ませると、マスターはありがとうございましたと、深々とお辞儀をして私を見送りました。
マスター、こんばんはどうもありがとう。また来ますわ。

私はラビットハウスを出てすぐ、彼の手をそっと握った。向こうも私の意図に気がついたのだろう。自分の腕を私の腕に組むと、私の掌を強く握ってきた。
「ねえ……これからどこに私を連れて行くの?」
彼はフフフと笑いながら
「高級ホテルだよ。今晩はそこでステキな夜を過ごそう」
といった。

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