勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第14回 茅野カエデ(雪村あかり=磨瀬榛名)その4

「はるるん、今日はなんか色っぽいね」
楽屋で準備していると、美咲が話しかけてくる。
「さっきから、私に話しかける人は一様に『今日の磨瀬ちゃん色っぽい』って話しかける。マジでうざい。
「ははーん」と、美咲は私は横目でじろりと睨む。
「磨瀬様、夕べはなんかありましたね」
「ななな、何でもないわよ!」
「ほんとー? あやしいなあ」美咲は、笑いをかみ殺しながら私に近寄る。
「だから、なんでもないってば!」私は必死に抗弁するが、美咲には通じない。
「みんなには黙ってあげるから、お姉さんにいってごらん」
美咲がこんな調子で話しかける時は、絶対自分が納得するまで引き下がりませんよ、という意思表示の表れだ。
私は腹を括り、夕べの出来事を洗いざらい話した。
「だろーと思ったー。だって今日のはるるん、メチャクチャ色っぽい。肌の輝きが全然違うもん」
根掘り葉掘り聞いてくる美咲に、私は「時間押してるんでしょ?」と警告する。
「しまったー、もうギリギリだー」
慌てて美咲は準備していると、彼女のマネジャーが楽屋に来て、美咲に出番が近いことを告げた。それじゃ後で話そうねと、美咲はあたふたと楽屋からスタジオに向かった。
彼女がスタジオに向かった後、私は改めて楽屋の鏡で、自分の姿を見つめてみた。
自分では、まだ色気という点では他のトップ女優の域には達していない。
だが、何かが違うのは確かだ。
いわれてみれば、今日はお化粧のノリがいいような気がする。
そして改めて自分の肌を確かめてみると、確かに昨日とは違う雰囲気がでている。
自分が言うのもなんだが、肌の輝きが違う。柔らかさが違う。透明度が違う。
ああそうか、これがあの時彼らが言っていた「色気」というものなのか。
たった一晩男と寝ただけで、オンナというのはこうまで変化するのかと、我ながらびっくりしてしまうのだった。

5年前のあの一夜を思い出していたら、タクシーはいつの間にか目的に近づいている。ここだったら、もう歩いてでも十分だ。
すいません、ここで結構ですと運転手に告げた私は、料金を払って領収証を受け取ると、タクシーから降りてラビットハウスに向かう。
土曜日の夜にもかかわらず、人気店が軒を連ねる繁華街は、沢山の若者やカップルでごった返している。私は人混みをかき分けつつ、目的地へと足を運ぶ。
やがて目的地に着いた私は、静かに店のドアを開ける。
「ガランガラン」ドアに付属する鐘が、元気よく鳴り響く。
「やっと来たようだね」
「おっそーい! みんな待ってたんだよー」
「やっと来たようだね」
私を待っていた連中が、私が店内に入ってくるのを確認すると、一斉に声を上げる。
今日のメンバーは渚、園田海未、高坂穂乃果、不破優月、菅谷創介、滝野純一、そして私。渚以外は、芸術関係の仕事をしている面々だ。
海未と優月は広告代理店、純一はテレビ局で私が出演する映画「栄光からの転落」の企画制作に携わり、創介と穂乃果は、私の出演している映画の美術スタッフである。
私が席に着くなり、渚が私に
「ビール飲むよね?」と声をかけてくる。
うんと私が言うと、彼はビールピッチャーから中ジョッキに、なみなみとビールを注いだ。
「それじゃあ、今日の主賓がご到着したので皆さま、乾杯といきますか」と渚が声を出すと、他のメンバーも一斉に「賛成!」を声を上げる。
「それでは皆さま、映画のヒットを祈願しまして……乾杯!」
「乾杯!」
「カンパーイ!」
一同でジョッキをならし、ビールを一気飲みする。私も喉が渇いていたから、ビールを半分ほど飲み干した。
「ああ、おいしい! 仕事の後のビールって最高!」と、私は独りごちる。
「この楽しみがあるから、お酒はやめられないのよねー」と、優月もそれに続く。
「二人とも、だからといってお酒に飲まれないようにね」
やんわりとした口調で海未が口を開く。
途端に周囲は「海未は真面目だなあ」と合いの手が入り、海未は声の出た方角をにらみつける。声の主は、あっという間に表情が硬くなった。
私が今回出演する映画「栄光からの転落」は、たまたまデビュー作がベストセラーになったばかりに、周囲から「天才作家」とおだてられた新人作家が、周囲からちやほやされるうちに言動・態度共に増上慢になり、それが災いしてスランプに陥った時に周囲から見放され、転落への道を辿るというストーリーである。
もともとミュージカル出身で、近年では舞台演劇の世界でも確固たる地位を築きつつある新進気鋭の俳優・虎石和泉が主演を務め、彼と4人の女性が濃厚な絡みを演じることに、芸能メディアは注目を集めている。
この映画に出るメイン女優は私と美咲の他に、アイドル出身で、近年は舞台を中心に活動する天海春香と、「ろこどる」(ご当地アイドル)からスタートし、実績を重ねてきた宇佐美奈々子だ。
「それにしても、こんな形ではるるんと一緒に仕事をする日が来るなんてねー」
海未がしみじみとした口調で、私に語りかける。彼女とは大学の同級生で、在学中は一緒に遊んだ仲だ。
社会人になってからはしばらく疎遠だったが、彼女が今の部署に配属になってからは、再びプライベートでも一緒に遊ぶ機会が増えた。
彼女が和泉の今カレである事を知っているのは、私だけのヒミツだ。だが個人的には、和泉の女性関係はかなり派手で、彼女は弄ばれているのではないかと、個人的に危惧しているのだが。
「ベッドシーンを演じることに、抵抗はなかったの?」海未が尋ねる。
「まあね。中学時代はカネで胸囲を買いたいと思っていたし、女優に復帰してからもあちこちで色気ゼロだと馬鹿にされていたからね。それを思えば、スクリーンで脱ぐことなんか何でもない」
と、私は答えた。
続けて穂乃果が尋ねる。
「他の3人は、ベッドシーンを演じることにについて何か言っていなかった?」
「なにもいっていなかったね。それどころか3人とも、演技の幅を広げるいい機会だとか、アイドルから脱皮できるからいいやと口にしていたし」と、海未が答える。
「仕事であの3人と接してみたんだけどさ」純一が口を挟む。
「テレビで見る以上に、あの3人は色気ムンムンだったよ。誰かさんと違ってさー」
「中学時代と比べたら、はるるんの体つきは別人なんだけどねー」
茶化すような口調で、渚が茶々を入れる。彼が私の本名を口にするのは、私と二人きりになった時だけだ。お前ら、私の中学時代のトラウマをさらりと突きやがって。
「えっ? 中学時代のはるるんってどんなんだったの? 興味あるなー」
「なぎさー、中学の頃のはるるんってどんな子だったの?」
海未と穂乃果が、興味津々といった表情を浮かべる。
「あの頃はいろいろあったよね、純一」
「ありすぎだよ。あれだけのことが1年のうちに起こったことだなんて、今でも信じられないけどね」
渚と純一が、ニヤニヤしながら私に話しかける。
これをきっかけに、私たちは学生時代の話で盛り上がった。
私たちの中学時代の担任が「殺せんせー」という人で、実は私の会社の研究室の実験台になっていたこと。
海未と穂乃果のスクールアイドル時代の苦労話。
純一が身を以て経験した、吹奏楽部の表と裏。
考えてみればこの映画に出ている春香と奈々子それに美咲も、ここまでくるのにかなり苦労している。
ちょっと売れたからといって人気があると勘違いし、あっという間に消えていったアイドルや俳優・女優たちを、私は沢山見てきた。
彼らが転落するたびに「自分はああなるまい」と気を引き締め、言動行動に十分気をつけているつもりの私だが、それでも私を気にくわないと思っている連中は沢山いる。
夜が明ければ、自分もあっという間に仕事を干されるかも知れないのだ。そんな世界で、私は子役時代を含めて10数年間も仕事をしてきた。
料理を口にしつつ話の輪に適当にあいづちを打っていたら、海未のケータイがなった。
「もしもし、あ……うん、今みんなと飲んでいるところ。今そっちは?」
口ぶりからはおおよそ察しがつく。今カレの和泉からだろう。どうやらこれから会えないか? と誘われているようだ。
「わかった。じゃあ今からそっちに行くから」
電話を切ると、海未は私たちに向き合った。
「ごめん……急に仕事の打ち合わせがはいった」
「この業界も大変だねー」真姫が、のんきそうな口調で海未に話しかける。
海未は大急ぎで身支度を調えると
「みんなごめん、この埋め合わせは次にするから」
とウィンクすると、自分の飲み代を机の上に置いてさっさと店を出た。
「海未ちゃん、大変だなー。身体壊さなければいいけど」
渚が心配口調でつぶやく。
「ええ、そうね……」私も調子を合わせる。
もっとも私が思っているのは、別の意味もこめられているのだが、今は言うまい。
「あれ、凛ちゃんからメール来ている。どんな要件だろ?」
ケータイの画面を見ながら、真姫がぼそりとつぶやいた。
「凛ちゃんって、生論社書籍出版部の真手凛さん?」私が真姫に尋ねる。
「そう。その凛ちゃん。渋谷凛の連絡先を知らないかって」
真手さんとは、彼女が女性向け雑誌「ne-ne」にいた時に、一緒に仕事をしたことがある。
「彼女のことは気になっているんだけど、まだお会いする機会がない」と真姫がいった。
「春香と凛は知り合いだったはず。私、春香に連絡先を聞いてみようか?」
「わぁー、助かります」真姫が即答した。
そしてラビットハウスに残った面々は、夜遅くまでワイワイと騒いだのだった。

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