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点字タイプライター Light Brailler

先日、点字専用のタイプライターを手にい入れました。もう文字通り、点字を打つためのタイプライターです。

特に点字を使う必要が生じたわけでもなく、深い理由も何もなく、たまたま手に入れたものなんですが、かなり面白い(興味深い)デバイスでしたので、ご紹介しようと思います。

なかなかに面白かったので、動画撮ってYoutubeにアゲてみました。

完全に自己満足100%です。
今後も面白いデバイスを見つけたら、色々調べて動画にしようかなと思います。

きっかけ

きっかけは純粋に興味本位で、
「珍しい機械がジャンクで安く売ってるな。試しに買ってみるか」
というものです。

あえて言葉を選ばずに率直に書けば、
・興味本位
・面白半分
・つい出来心で
の3つ以外が思いつかないようなきっかけでした。

以前から「電気を使わなくても動く機械」が大好きで、タイプライターも現役で使っている僕が
「点字タイプライター」
と言う言葉に惹かれたのは、ある意味必然だったかもしれません。


点字タイプライターって?

手に入れた点字タイプライターはLight Braillerという機種で、通称「カニタイプ」と呼ばれるものらしいです。
左右に3本ずつ出たキーがカニ足のように見えることからそう呼ばれるのかも。

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原理は至極単純で、
・1つのキーに1本のピンが連動する
・キーを押すとピンが下に下がり、紙を押して印をつける
・1〜6個のキーを押すと、『カーソル』(このカニ足がついた部分をあえてそう呼びます)が右から左へ1文字分スライド
・残り5文字分になったら鈴がなる
・行末まできたら、『カーソル』を掴んで左から右へスライドさせる(いわゆるキャリッジ・リターン)
・右手側にあるダイヤルを回して、業送りをする(いわゆるライン・フィード)
と、割とシンプルで分かり易い構成です。

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我が家に届いた時には
・キーが押せない、恐ろしく硬い
・キーを押しても『カーソル』が一切動かない
・とにかく動作が固く、そして手応えが恐ろしく重い
という状態。

壊れている、というよりは、長年使われなかったせいでグリスか油が固着してしまった状態なようです。

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軽くミシン油を染み込ませた綿棒やティッシュで拭いて全体を清掃し、構造上おそらく摩擦が生じるであろう箇所に軽く注油します。

しばらく放置した後にガチャガチャとキーを動かしてみたところ、固着部分が動くようになったのかスムーズにキーを押せるようになりました。
カーソルも「軽くキーを押しただけ」で1文字分ちゃんとスライドするようになっています。

このモデルはかなり古いものであるようで、ネットなどで「Light Brailler」というキーワードで調べると、ベース部分が金属でできたタイプが検索結果として表示されます。

手元にある機種はベース部分が木製で、シリアル番号的な番号が3桁。何時ごろ造られたのかは解りませんが、おそらくは相当古い部類に入るかと思います。

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カーソルの動く方向と、ピンが紙を押す方向から考えて、おそらくこのタイプライターは「左右で裏返しにした状態で打刻する」というタイプ。
他の機種では、「上下で裏返しにする」というタイプもあるようですが、我が家のタイプライターは
・紙の裏側からピンで髪を押して凸部を作る
・裏側から打つが、右→左へとカーソルが動くので、文字の左右が逆になるだけで上下の点の配置は逆にならない
という具合です。

例えば、「かいりきくまおとこ」と打つ場合には

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上段が「読む方の点字」、下段が「書くときの点字のガイド」のような具合です。

下段は上段の鏡文字になります。

この点は、点字タイプライターのカーソルがどの向きに動くか、キーとピンの配置がどうなるかで変わってくるようです。

行送りは「上から下へ」と進むイメージですので、タイプライターに紙をセットする際は、紙の上部=1行目が向こう側に出るように配置します。

点字のお勉強

この記事を書いているのは、点字の勉強というか『点字はどう構成されているか』を調べ始めて3日目、動画を撮ったのは二日目の時点ですが、ピン配置と五十音がシステマチックに関連づけられているお陰で、かなり覚えやすいです。

濁点や半濁点、「しゃ」「きゅ」「にょ」や「じゃ」などの拗音の表現ルールや「っ」の表現を覚える必要がありました。
また、点字独特のルールで、例えば「上昇気流」は「じょうしょうきりゅう」とは打たず、「じょーしょーきりゅー」と表記します。

あとは「てにをは」の「は」が「わ」になるなど、表音文字のみでの表現をする上での注意点が色々あるようです。
例文として「今日は上昇気流が強く、入道雲を見上げることになった」という文章の場合、
「きょーわじょーしょーきりゅーがつよく、にゅーどーぐもをみあげることになった」
と打ちます。

点字の点には左上から左下に向かって1、2、3。右上から右下に向かって4、5、6という番号がついています。
濁点、半濁点はそれぞれ「文字の前に濁点の印」、「文字の前に半濁点の印」を打つことで表現します。
なので、「が」の場合は

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となります。


点の番号で言うと「5」が濁点の記号、「6」が半濁点の記号です。
音を伸ばす長音は「2+5」
促音便の「っ」は「2」
拗音を示す記号は「4」を文字の前に打ちます。

濁点と拗音が混じった「じゃ」などは

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→濁点+拗音+「さ」、で「じゃ」の表現になります。

例えば、「蒸気」を点字で表すと、まず「じょーき」と言う読みになるので

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と言った具合です。

難しいのが「分かち書き」

いまだにルールを把握し切れていないのが、「分かち書き」と言うものです。
点字は表意文字である漢字を使わず、表音文字だけで表すものですので、適度に区切って書かないと非常に読みづらいものになってしまいます。

例としては…

「てんじわひょーいもじであるかんじをつかわずひょーおんもじだけであらわすものですのでてきどにくぎってかかないとひじょーによみづらいものになってしまいます」

と、こんな具合。
平仮名表記にして句読点を省くと、とんでもなく読みづらい文章です。
そこで、文節で区切ってスペースを入れると、

「てんじわ ひょーいもじで ある かんじを つかわず ひょーおんもじ だけで あらわす ものですので てきどに くぎって かかないと ひじょーに よみづらい ものに なって しまいます 句点」

と言った感じになります。

スペースを入れない表記と比較すると、かなり読みやすくなります。

これと同じように、点字も文節で区切ってスペースを入れて打ちます。このことを『分かち書き』と言うそうです。

基本的な分け方としては、自立語、自立語+付属語で分けるのが良さそうです。

いざ実験

では、分かち書きした文章を点字で作ってみるとどうなるか、試してみます。

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なんと便利なことに、「点字フォント」と言うものもありますので、そのフォントで作成したもののスクリーンショットを貼っています。

流石に身の回りに点字の校正が出来る方がいないので、正しいかどうかは定かではありませんが…

実際にタイプライターで打ち込むときは、凹面=裏側から打ち込みますので、左右逆になります。なので、打ち込む際には

こんな具合になります。

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これに従って打ち込んだ紙を左右で裏返しにすると、正しい配列で点字が出てきます。

文章自体はちょっと違いますが、打った例が

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こんな具合です。
今回使った紙は、B5サイズの90kg上質紙でしたが、ほぼコンプリートで貫通してしまいます。

110kgとか150kgくらいの厚みの紙でないと厳しそうです…。

じゃあ点字を覚えるのに必要な時間はどれくらい?

点字タイプライターが届いて、調整して普通に使えるようになってから四日ほど、毎日30分くらいニュース記事などをガシャガシャ打ち込む、と言う作業をしてみました。

最初は
「えーっと…『や』はどれだっけ」
「しまった、コレは『は』じゃなくて『わ』だった」
「…半濁点はこっちだったかな」
「『て』と『も』と『み』と『ち』って紛らわしいいいい!」
と、手が止まる時間がかなり長かったんですが、次第にスムーズに打てるようになってきています。

もちろんミスなく丁寧にを心がけつつも、ちょいちょいミスが発生してはいますが…

それに、今の時点ではほぼ『鏡文字』で点字を覚えているような具合なので、ちゃんと点字を学べているかと言うと甚だ怪しいです。

目視で読む分には鏡文字ではなく、ちゃんとした向きで読めるようになってきてはいますが、記号と数字、アルファベットは全くダメな状態。

手で触って読めるか、と言われるともうビタ一文読めません。
なかなか難しいですが、ただ表音文字の記録方法としてはとても洗練されたモノだなーと感じてます。


現時点で視力は両目ともに2.0。まだ老眼も始まっていない(と信じたい)です。
今のところ点字を読めても打てても、実生活で何か役に立つか? と言われたら
『何の役にも立ちません』
と答えざるを得ないのが実情です。

ただ、今現在の時点で、僕を形作る知識や技術のほとんど、8割強ほどは仕事にも実生活にも何の役にも立たないものばかりです。
ですが、これまで家庭内や仕事で、イレギュラーな事態が起きた時に身を助けてくれたのが、何の役にも立たない「ジャンク知識」や「ジャンク技術」でした。

点字に関する知識なども、今は全く何の役にも立たないですが、ひょっとしたら役に立つ日が来るかもしれません。
スムーズに点字の読み書きが出来るようになれば、点訳のボランティアなどで役に立つかも、と思ってはいますが……


技術屋としても、この点字という表音文字の表記方法はシステマチックで非常に面白いな、と感じます。
6ビットの信号で音を表す、と考えれば、ある意味これはデジタルの信号を人間が直に読み込むという、非常に珍しくそして効率的なものでもあります。

新しいもの好きな割りに古い機械が大好物、と自分でも厄介だなと思う趣味趣向ですが、点字タイプライターはそんな趣向にもぴったり合う、貴重なものかもしれません。

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