夏の終わりの音楽紹介2022

日本の気候ってデジタル処理にでもなった?
身代亜土夢です。

つい先日まで「暑さで死ぬね。死にたくないね」って言ってたのに急に涼しくなってびっくりしますね。この夏何かやったっけ?って思い返してみても特に夏らしいこと何もしなかったなという感想しか出て来ませんが、そんな過ぎゆく夏を今更惜しむような気持ちで夏の終わりに聴きたくなる音楽を思いつくまま挙げていきます。

Fennesz『Endless Summer』

この記事を書くにあたって真っ先に思い浮かんだのがこちら。グリッチ・エレクトロニカの名手Fenneszによる2001年の名盤です。
タイトルは「終わらない夏」ですが、収録曲はピークを過ぎゆっくりと暮れなずむ夏への郷愁を現したかのような物悲しくも心地よいノイズ混じりのノスタルジーに溢れたものばかり。少し抑えめのボリュームで流しながら作業や娯楽に没頭していれば、ふとした瞬間に「ああ、なんだかんだ言って今年の夏もなんか良かったな」と得も言われぬ気持ちに包まれます。心地良い時間のお供に。


Cell『Live at Kumharas』

知る人ぞ知る優良アンビエント職人Cellがイビザ島の有名チルアウトバー・Kumharasで披露したLive Mixを収録した2007年作品。このnoteでも度々言及しているフランスの名門レーベルUltimaeから発表されています。
イビザの広大な海に沈んでいく夕陽を眺めながらこんな音楽を流したらどれほど感動できるのだろう?と思いますが、イビザなんて行ったことない人間が狭い自分の部屋で聴いても充分に感動できる名作です。シンセサイザーやコンピューターを駆使して作られているのに極めて有機的でスピリチュアルに感じられるのが、この手の音楽の不思議なところだよなーと常々思います。


VIDEOTAPEMUSIC『世界各国の夜』

個人で収集した古いVHSビデオテープから音や映像をサンプリングして作品制作やライブ活動を行う異色のミュージシャン/映像作家・VIDEOTAPEMUSICによる2015年の傑作。
今のここではない、過ぎ去りしいつかのどこか。行ったことも無い場所で流れていた音のはずなのになぜか懐かしさを感じる、日本的なノスタルジーをあの手この手で刺激してくるエキゾチックミュージックが満載です。彼の作品に触れて俺が感じるのは、記憶も定かではないガキの頃に連れて行ってもらった家族旅行を収めたホームビデオを偶然見つけてそれを実家の居間でぼんやり見ているような感覚といえるでしょうか。
最近では平成すらもレトロの括りに入れられ始めているそうですが、ここにあるのはそんな軽薄なカテゴライズで一瞬のネタにするにはあまりにも濃厚な、かつて確かに存在していたはずの誰でも持っている「あの日」の記憶を呼び覚ます、不思議で愛おしい音楽です。


猫 シ Corp.『Palm Mall Mars』

夏場に駅や電車の中で見かける浴衣の女性、というものに俺はかなり強烈な「良さ」を感じます。ただ浴衣を着ている女性が好きというわけでもなく、浴衣という日本的でありながらも非日常的な姿をしている女性が、現代的であり日常的な駅や車内という空間にポンと佇んでいる、そのミスマッチ感がとても良いと思うんです。
そんな俺のフェチズムを狙い撃ちしたジャケ画像の本作は、奇妙な世界をアンダーグラウンドで広げ続けるVaporwaveというジャンルにおいて一種の様式美的地位を確立したサブジャンル・Mallsoft、その代表格といえる猫 シ Corp.の最早お家芸の域に達した混じりっ気なしの王道Mallsoftアルバムです。
商業施設に流れているBGMのみならず訪れた買い物客の賑わいや雑踏までもを丸ごとパッケージングして音楽と言い張ってしまおうというあまりにラジカルなジャンルではありますが、空間そのものを切り取って仮想現実的な作品にするという発想はある種『アンビエント』というジャンルの先祖返りともいえる、そこがおもしろいなと個人的には思います。


Ishq『Summer Light』

俺にとってIshqはふとした瞬間に帰りたくなるような自分だけの隠れ家のようなアーティストで、そんな彼が『夏』を凝縮して一時間の聴覚体験として発表した本作。
空気の音や木々のざわめきなどに紛れて微かに聴こえる「音楽的な何か」。その全ての調合が素晴らしく、何も手を施されていないようでいて実はしっかりとした「作品」として聴き手に訴えかけている、その絶妙な塩梅が本当に職人技としか言いようがありません。聴こう。


それではまた。

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