俺のアンビエントミュージック5選

音楽系VTuberっていうと実際に曲を作ったりライブをやったりするVTuberを皆さん想像すると思いますが、そんな中に「音楽について講釈垂れるだけのVTuber」がいてもいいんじゃないかと思っている系VTuber・身代亜土夢です。音楽やってなくても音楽について書く人を音楽ライターっていうじゃないですか。そういう感じで。ダメですかそうですか。

今回は個人的な観点におけるアンビエントミュージックについて語るというか、好きな作品をただ羅列するだけの記事になると思います。

「好き」の発見

ていうかまず音楽というものの認識の大前提として、ボーカルのないインストゥルメンタルな音楽を(普段無意識に耳に入る映像やゲーム等に付随したBGMを除いて)日常的に聴くということにすら戸惑いを覚えるような、もっといえばカラオケで歌えるような身近な歌モノ以外は『音楽』の範疇に入らないよ、といった感覚の人も割といるんですよね実際に。俺の兄なんかまさにそんな感じで、俺とは音楽に対する考え方が根本的に違うんだろうなという事例を幾度となく感じた記憶があります。そういった考えを別に見下したり非難したりしようという訳では断じて無いことを今回は強調したい、というか俺も元々はそういう考えを持っていたと思いますし。そもそもこの日本という国に生まれ育って普通に生きてれば大体の人が無意識的にそうなるのはごく自然なことだろうとも思っていまして、じゃあなぜそう思うのかという話は今ここで始めるとこの記事の方向性が明々後日の方向に飛んでしまうので後日改めて本腰入れて別記事として考察させていただきます。いつだか分からないけどいつかやります。たぶん。

俺の場合、このアンビエントというジャンルに出会って大好きになったことでその「カラオケソングこそ音楽」的観点から一歩踏み出して一気に視界が広がったような感覚を覚えた気がします。ていうか何なんですかね、あの「自分は絶対これが好きだ」というものに初めて出会った時のあの喜びと同時に湧き上がる「うわーやべえもん見ちゃった」みたいな感覚。「これついて行ったらすげえとこまで行っちゃいそうだな」「こっから長げーぞ」みたいな、ある種の諦めにも似たあの感覚分かりませんかね。何なんですかねアレ。

俺が音楽を語る時の目的の大部分はその感覚を誰かと共有したいから、というのもあるかもしれません。そして今日もこうして何か書いてるわけですが。

アンビエントって何だ

アンビエントミュージックと聞いてどんな音楽を思い浮かべるでしょうか。直訳すれば環境音楽ということなんですが、そんなん言われてもどういうものだかサッパリわかんないですよね。なんか小難しそうだしこの時点で別にいいやってなっちゃうかもしれません。

個人的にはアンビエントミュージックとは端的に言うと「聞き流せる音楽」「心地いい時間を作るためのBGM」、もっといえば「世界観没入音楽」「現実逃避できる音楽」だと思っています。音楽的特徴を具体的に挙げるなら、歌詞を伴ったボーカルは無く(SE的なボイス、コーラス的なものはよく用いられている)、主張の強いメロディーも無く(たまに美メロで泣かせにかかるものもある)、多くが長尺(10分以上のトラックはザラ、たまにアルバム60分以上を一曲だけで貫く作品も)といったものがあります。スタイルはアーティストごと・作品ごとに非常に多様で解釈も様々で、生楽器や音響効果を使っているものからダンスミュージックのトランスやハウスから派生した電子音楽、少ない音数でゆるやかに進行していくものもあればほとんど展開の無いものもあったりで非常に自由度が高いジャンルといえます。

この音楽におけるアンビエントという概念を形作り広めたのが元Roxy MusicのBrian Enoで、確か事故かなんかで入院していて身動きもとれずベッドで寝ていた時に傍らにおいてあったラジオが聞き取れるか聞き取れないかぐらいの音量で延々流れていたのを聴いていて着想に至った、みたいな話だったと思うんですがうろ覚えなんで詳しくは調べてください。彼の『Music for Airports(空港のための音楽)』(1978年作品)が現代的なアンビエントミュージックの原点だと言われているので資料的に聴いてみるといいんじゃないでしょうか。実際に空港で流れたこともあるらしいです。

個人的にイーノの良さが分かったのはアンビエント作品をかなり聞き漁ってからだったので最初に聴くもんではないと思うんですけどね。これをいきなり素の状態でパッと聴いて「やっぱよくわかんないからいいや」ってなってしまう人も多いかもしれません。ただこの作品も聴くときに聴けばめちゃくちゃいいんですけどね。休日に昼寝でもしながら流してみたらどうでしょう?ていうかアンビエント全般に言えますね「寝ながら聴く」。お昼寝用、睡眠導入音楽として抜群に効果を発揮するのがアンビエントです。

俺的アンビエント観

アンビエントにもいろんなスタイルがある、自由度高いという話は既にしましたが、その中でも個人的に好きなのはジャケットや曲名で世界観に入り込むような、いわば仮想現実系の作品です。この呼び方は今勝手に名付けました。

つまんない、憂鬱な時間に再生すれば目の前に文字通りのここではないどこかが立ち上がり、そこに連れて行ってくれるような音楽。俺がアンビエントを聴く時に無意識に求めているものがそれで、お気に入りの作品もその傾向がかなり強いです。「この音楽が流れるような空間はどんな場所なんだろう?」という想像をして聴けば何倍にも楽しめる感じで、アンビエントというのはリスナー側の想像力にかなり依存したジャンルといえるかもしれません。普段夢見がちなあなたにうってつけの音楽といえます。

講釈長くなりましたが、そういうことを意識して聴けばハマるかもしれない作品をここからどんどん挙げていきますので興味があれば是非触れてみて欲しいです。

1.Ishq『Orchid』(2001年)

はい、俺がアンビエント教に取り憑かれた原点と言える作品がコレです。ジャケットそのままの世界観を詰め込んだ傑作で、まさにここではないどこか――自然豊かな楽園を一人であてどなく彷徨うような体験が味わえる、約一時間の幻想散歩。そんなアルバムになっています。マジで損しないので、休日のんびりしたい時なんかにぐだっとしながら聴いてみてください。俺の言いたいことがきっとわかると思います。個人的に栃木県の塩原という温泉で有名な土地にガキの頃からよく家族旅行で連れて行ってもらってた(というかそこぐらいしか連れてってもらえなかった)んですが、そこで見た山々なんかを思い浮かべながら聴いたりします。

作者はIshqというソロプロジェクトの人で、元々はダンスミュージック畑の人だったらしいのですが激しいダンスに疲れ果て、山奥に移り住み引き籠るようにしてこのアルバムを作り上げたとのこと。ダンスフロアとは別の落ち着ける休憩場所でクールダウンすることを『チルアウト』といい、それが転じてそういう場所で流れるような音楽自体をチルアウトミュージックと呼ぶそうです。このチルアウトという概念とアンビエントは密接な関係を持っているという人もいたりいなかったり。

アーティストのIshqは俺がこのジャンルにおいて絶対的とも言える信頼を持って追いかけている人であり、この人が関わる作品なら脳死的に聴きたいという欲に支配されています。名義やスタイル含めて多岐に渡る彼の作品群もBandcampという素晴らしいプラットフォームによってかなり追いやすくなっていて、この時代に感謝せざるを得ません。Bandcamp最高説的なものもいつか記事にしたいと思ってます。BandcampとDiscogsだけでいくらでも徹夜出来ますからね。なんかアルバムの話じゃなくBandcampの話になってますが音楽紹介なんてタイトルと作者提示して「聴け」で終わる話ですからね大体。(記事自己否定)

Ishqは現在Virtualという個人レーベルを運営していて個人作品はすべてそこから発表しているんですが、その唯我独尊的な活動スタイルと作品群はいつ触れても惚れ惚れしてしまいます。Virtual設立以降は本作とはまた違った音響作品的な作風が打ち出されていて独自の世界を広げています。『Deep Space Objects』なんかは一面の青空が広がる高原のような仮想現実空間にいて、そこで起こるさまざまな現象を静かに観察しているような世界を想像出来て気持ちいいです。


2.Solar Fields『Leaving Home』(2005年)

このアルバムは宇宙旅行といった感じがぴったり来る感じです。小さな宇宙船に一人で乗り込んで地球(Home)を離れて船内から窓の外の星々を眺めているような、そんな風景を想像しながらいつも聴いています。かと言って決して冷たいとか寂しいといった感触ではなくて、むしろ有機的というか温かみすら感じるのがSolar Fieldsの作風だと思います。

『コンタクト』(1997年作品)という地球外生命の実在性をテーマにした映画が好きなんですが、そのクライマックスで主人公が宇宙に行くシーンなんかも思い出したりして。宇宙に思いを馳せる映画が好きな人にはきっと刺さるアルバムだと思います。

Ishqと並んで自分の中で無条件で信頼出来るのがシネマティック(映画的)で良質な作品を大量に産み出すレーベル『Ultimae Records』であり、そのUltimaeの中心メンバーなのがこのSolar Fieldsです。3Dアクションアドベンチャーゲーム『ミラーズエッジ』のサウンドトラックを手掛けているので一部で有名な人です。Ultimaeの作品はとにかくジャケットデザインの統一感が素晴らしく、上に挙げたリマスター版よりもUltimaeのオリジナル版のジャケのほうがアルバムに合っているので是非見て欲しいですね。

Solar Fieldsの宇宙的作品では2003年の『Blue Moon Station』もおすすめです。こちらはどちらかというと叙情的な本作よりもSF的なイメージが強く展開も大きい印象なので、こっちから聴くのも全然ありですね。


3.Carbon Based Lifeforms『Twentythree』(2011年)

『Leaving Home』がなんの迷いもなく宇宙に解き放たれる感覚なら、こちらは寂しげな山奥で暗くなる空を定点観測しているような気持ちに囚われる作品です。これもオリジナルはUltimae Recordsから発表されていて、まさにその時のジャケットがイメージそのものを100%可視化しています。

俺の性癖のひとつに「大型パラボラアンテナが好き」というよくわからないものがあるのですが、何を隠そうこのアルバムジャケットが発露のきっかけだったりします。そこからさっき挙げた映画『コンタクト』に興味が湧いて観るきっかけになって(宇宙調査に使うでっかいパラボラアンテナが謎の音を受信して――という話なので)…と繋がっていくという至極どうでもいい話。

Carbon Based Lifeformsは二人組のユニットで、Solar Fieldsが優しく温かみのある作風ならこちらはどこか物憂げで孤独感を掻き立てるような、それでいて孤独であることをむしろ肯定しているような感じを受けます。一人でいいんだ、というか孤独であることを楽しむ、孤独感と親しむ、そんな時間を過ごしたいときにCBLの音楽を聴くととても捗る気がします。その最たるものが同年2011年発表の『VLA』というアルバムで、なんと1時間丸々展開らしい展開も無くただひたすら音響的な持続音が鳴り響くだけというあまりにハードコアなドローン大作。(Twentythreeに収録されている『VLA (Edit)』はこちらを短くカットしたもの。これが60分ずっと続きます

アンビエントを愛するようになるとこういったアレな作品さえも喜んで通して聴ける感覚になってしまうので、たまにふと我に返ると「俺何聴いて喜んでるんだろう」と冷静に思ったりします。かと言ってCBLってそんなんばっかなのかといえばそうではなく、2010年の『Interloper』なんかはかなりメロディーもあったり感傷的だったりしてとても聴きやすいので初心者にはこっちをすすめるべきかもしれません。


4.Shpongle『Are You Shpongled?』(1998年)

俺の偏った音楽観の中でもトップクラスに重要な位置にいるのがこのShpongleであり、その中で最も好きなアルバムがこの1stになります。

地球上のいつかの時代のどこかにいたかもしれない謎の民族集団が夜な夜な興じる儀式、そこで奏でられる怪しげな民俗音楽――怖いもの見たさで覗いてしまったが最後もうそこから離れることも出来なくなる、そんなアルバムとしか言いようがありません。クライマックスの『Divine Moment Of Truth』一度聴けば二度と忘れることが出来ない呪いのような音楽で、その昔『Flashback』というファンメイドFlashアニメに(もちろん無断で)使われて大きな話題になったので知ってる人もいるかも。

こんなもん正直入門編みたいなノリで聴かせるようなもんじゃないんですが、Ishqを紹介するならShpongleも出さなきゃ嘘になっちまう、というよくわからない個人的な感情から出させて頂きます。これがアンビエントかといわれれば議論の余地があるのかもしれませんが、一応『アンビエントサイケ』『サイケデリックアンビエント』というジャンルの最右翼みたいな扱いを受けているので強引にねじ込みます。

というかShpongleを語るならアンビエントの流れよりも本来ならばゴアトランス/サイケデリックトランスの括りで語るべきなんですけどね。Shpongleはゴア/サイケトランスというジャンルの形成~黎明期にシーンの中心で活躍していた二人のアーティストからなるユニットなんです。ソロや別プロジェクトでもジャンルの歴史に残る名盤を作ってきた二人が手を組んだ夢のタッグという感じで、世界観の構築やアイディア出し・フルート演奏を担当するRaja Ram(TIP Recordsというゴアサイケ専門レーベルを作っていろんなプロジェクトをやってた人、通称ラジャ爺)というおじいちゃんDJとトラック制作の大部分を引き受けるSimon PosfordHallucinogenというソロプロジェクトでゴアトランスの代表格だった人)というナイスミドルのコンビです。

出自のジャンルにしては珍しく、ライブでは大掛かりな編成のバンドを引き連れてまさに楽団みたいな公演をします。実は俺も2014年の来日フルバンド公演を観に行くことが出来て、その時の体験はかなり経った今でも俺の中で特別な記憶としてずっとあります。音楽に感動するってこういうことかって何度も思ったあの夜はまさに俺にとってのDivine Moment Of Truthだったなと(やかましいわ)

Shpongleに関しては他の作品もおもしろいものばかりで、それこそ全作品紹介とかしたいのですが今回はやめときます。

5.『The Mystery Of The Yeti』(1996年)

今回最後に紹介するのはShpongleのプロトタイプともいえる作品で、まさに聴く映画といった趣の怪作。タイトル通り「山奥に伝説のイエティを探しに行く」というストーリーからなるコンセプトアルバムで、後にShpongleを結成する二人をはじめとしたゴアトランス黎明期を支えたオールスター陣が参加しています。

人の声や足音・環境音や民俗的な歌声などが次々と現れては消えて想像力を掻き立て、その場にいながらにして未開の地のイエティが潜むと言われる山奥探索に意識を飛ばされるような感覚はこのアルバム以外では味わえないと思います。何か危ない言い方ですけど音の中にそういうおクスリ的な何かでも仕込んでるとしか思えないほどです。アンビエントは聞き流せる音楽だと前述しましたがこの作品だけはトリップする感覚で臨んでほしいところ。

序盤のフィールドレコーディング風・非音楽的な作風から一転して中盤からはシンセによる壮大な演奏が始まり、気が付けば神聖な山の頂でついにイエティと出会う様子がまざまざと脳内に浮かぶ感覚は何十回聴いても飽きが来ません。これは部屋の中で聴いていても周囲の環境を作品内世界へ一変してしまうという意味での環境音楽、アンビエントミュージックなのかもしれません。うまいこと言うね。言えてないね

いかがでしたか?

まとめサイトってなんで必ずいかがでしたか?って聞いてくるんですかね。文字数稼ぐためとか聞いたことありますけどそれにしたってバリエーション無さすぎますよね。読んでる人間馬鹿にしてるんですかね。それとも書いてる人間が馬鹿なんですかね。

ネット上に音楽レビュー数あれどこんなニッチなレビューしてるページもなかなか無いんじゃないかなと思うんですが、書いててめちゃくちゃ楽しかったのでまた違うジャンルや括りで書きたいですね。5選とか言っといて付随して後から何枚か付け足してるんで5選じゃ収まってないですけど。

紹介した作品の中で一曲でも好きになってもらえたらうれしいので是非コメントとかTwitterにリプとか頂ければなと思います。みんなで音楽語ろう。

ではまた後ほど。

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