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被災した人々に届けた 「公開修復展」

絵のお医者さん表

絵のお医者さん裏

 2019年秋に、御船町恐竜博物館交流ギャラリーを会場に、「熊本地震 田中憲一の画を救う会」の主催、御船町、同教育委員会、恐竜博物館、(一社)アートネットワーク熊本みふねが共催になり、「絵のお医者さんがやって来た ―岩井希久子・熊本地震被災作品・公開修復展 」が第61回熊本県芸術祭参加事業として開催されました。会期は、10月12~14日(特別内覧会)、10月26日~11月4日の間、国際的な評価も高い絵画保存修復家会の岩井希久子、岩井貴愛の二人が会場で、熊本地震で被災・大破した油彩画の「公開修復」を行なうという日本の美術文化史では初の、世界でも稀な展覧会になりました。


 会場には、修復が終了した田中作品4点、修復途中の2点、被災を免れた2点、脱酸素密閉状態の2組(4点)を展示し、これに加え、これまでのレスキュー活動の経過を解説したパネル等と共に映像資料として、「平成28年熊本地震の記録」(熊本博物館:製作)、「2016年7月御船町作品レスキューの記録」(佐々木紳:撮影)、「岩井希久子修復の記録①ゴッホ《ひまわり》②グエン・ファン・チャンの絹絵 ③国吉康雄《クラウン》」等をループ再生しました。


 また、貴重な修復道具(OPTIVISION、刷毛、注射器など19種、64品)や素材の展示も行いました。さらに活動の理解促進のため『田中憲一作品集』などの閲覧コーナーを設置し、会場には主催者であるメンバーが常駐。鑑賞ツアーも随時行ない、修復を手掛けながら、岩井希久子さんも来場者の質問に気さくに答えていました。本活動関係者による鼎談も行われ、会場は来場者との交流の場となりました。加えて、運営資金調達のため恐竜がモチーフの募金箱の設置と、田中作品をデザインしたTシャツなども販売。会場では、「御船美術館をつくる会」の地元ボランティアスタッフが日替わりで運営など全面的に協力し、来場者と関係者、スタッフ等の相互の積極的な交流が見られました。


 12日間の入場者数は2,107人(御船町32%、熊本県内51%、九州内13%、中国・四国2%、関東以北も1%の来場)でした。団体鑑賞は小学生168名、中学生129名、高校生81名。会場ボランティアは、高校生22人を含む108人の地元住民が参加。メディアへの露出は、日経電子版を含む新聞6紙で9回。BS局を含む3社のニュース番組で報道されました。


 多摩美術大学教授で美術批評家の椹木野衣さんは、年末の読売新聞文化欄「回顧2019アート」で、国内の「今年の展覧会ベスト4」にこの展覧会を選出。椹木は、「熊本地震の被災地、御船町でたった9日間だけ開かれた有志による小さな展覧会は、熊本の郷土史や戦後洋画史の歩み、修復の最新テクノロジーやアートにおける新しい集合知や想像力のあり方と自然災害の交点をめぐって、見る者に様々なインスピレーションを与えてくれる。」と高く評価されました。さらに、この展覧会は、熊本県文化協会から「第61回熊本県芸術文化祭奨励賞」を受賞しました。


 現在、この時修復され蘇った田中憲一の大作《海の骸B》は、画家・執行正夫の大理石モザイクの遺作である、浜田知明の《飛翔》の大壁画と共に、御船町カルチャーセンターホールに、「御船町の復興のシンボル」として展示されています。

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