見出し画像

【下書き供養】映画「TAR/ター」を観た。

【このnoteは23年5月の下書きを供養する投稿ですw】

何だか難解との声もあるようだけど、自分がクラヲタだからか、ちっともそんなことなかった。
そもそもお話自体はすごくシンプル。
アメリカの5大オケで常任を務め、今はベルリンフィルのシェフである女性指揮者「リディア・ター」。
頂点を極めた彼女がちょっとしたきっかけでキャリアにほころびが生じ、失墜していく。
基本はそれだけのこと。
ものすごくシンプル。
もちろん、だからこそ栄光からどんどん落ちていく過程を長尺(上映時間約2時間40分)でじっくり描けるのだと思う。

あと、あまりジェンダー視点で観ない方がいいと感じた。
「女性指揮者」である意味は実はあまりないんよね。
レズビアンであることも含めて。
むしろ主人公は、男性以上に「旧い男」。
ある種「戯画的」とすら感じるくらいに。
・自分のお気に入りを楽団にねじ込む
・パートナーとの公私混同
・同僚や部下、学生への高圧的な当たり
・車に乗ったら猛スピード
・女性を取っかえ引っかえ

全部全部「マッチョ」な態度。
モラハラ・パワハラ・セクハラのオンパレード。
支配欲と独占欲。

養女ペトラの通う学校で、彼女を虐めてる子にドイツ語で圧加えるとき、
「私はあの子のパパよ」
というのがすごく印象的。
あとチェリストのオルガとのランチで、国際女性デイを全く知らないことが分かるくだりも。
ペトラとの人形遊びで、彼女が全部の人形に鉛筆を持たせようとするのに対して
「民主主義じゃないのよ」
って言うのも示唆的。
オケの投票に対して取っていた態度と対になっている。

そもそも「BPOで団員ゴリ押し」と聞けば、クラヲタならカラヤンの「ザビーネ・マイヤー事件」を思い出すわけよ。
そう考えるとターって完璧に「帝王」なのに、どっちかと言うと割に穏やかな(あくまでカラヤンとの相対的な比較で)アバドやレニーに寄せようとする姿勢に苦笑いしかない。
特にアバドのマラ5ジャケをそっくり真似ようとするのは完全にカリカチュア。
余談だけどあのシーンでドゥダメルのジャケが「とても自然」ってのめっちゃ笑えたw

とにもかくにも、ケイト・ブランシェットありきの映画。
上記したように「男以上に男性的」に演じているのがすごい。
そして指揮を少しかじった身から見ても指揮がとにかく上手い!
まあちょっとツッコミたい……というか「あれじゃあ弾け/吹けないよ!」ってシーンもあったけど(笑)。
オケのリハで流暢なドイツ語と英語を「交ぜて」しゃべるあの感じもすごくリアル。
英米人の指揮者がが独墺系のオケでリハしてる映像とかでよく見るやつ!

しかし「良い人」が1人もいない映画である。
その意味ではとにかく「胸糞系」(もちろん褒めている)。
女関係も含めて、何でも許してくれていたコンミスのパートナー、シャロンも結局は利害が一致していたからつながっていた。
財団の支援者のカプランはどうしようもない小物。
優秀な秘書・フランチェスカも結局は面従腹背、嫉妬に負ける裏切り者。
オルガがしたたかな上にどうしようもない性悪女なのは見ての通り(演じたソフィー・カウアーさんは実は本物のチェリスト。演技上手すぎでしょ……)。

【「映画」として上手いなぁと思ったところ】
・冒頭のチャット(SMS?DM?)画面の意味が終盤で「あ……」って分かるのに鳥肌
・エンドロールを最初に流してしまうところ(もはや「エンドロール」ではないのかもだけど)

【クラヲタ的につらつら思ったり突っ込んだり】
・マーラーで「全集9曲のBOX」って聞くと「『大地の歌』はもちろん、『嘆きの歌』も無しね」「10番の1楽章は入れたの?」「1番の花の章は録った?」とか矢継ぎ早に考えた(厄介)
・劇中、過去に指揮者が起こしたセクハラ問題への言及で、レヴァインやデュトワの実名挙げてくるの刺さる……
・フルトヴェングラーの非ナチ化裁判の話が出てくるくだりも重い
・そもそも「フィクション」なのに劇中言及される演奏家や指揮者が実在の人たちばかりだからこそこの「リアル」が生まれるんだよな
・ちなみにパワハラとか言い出したらトスカニーニやセルのこと考えたら(以下自重)
・「フィクション」としての演出だから面白いけど、いくら何でもマラ5冒頭、舞台袖では吹かさへんやろ……(苦笑)
・BPOのシェフともあろうものが、いくら仕事部屋とは言えあんなこ汚いアパートに住む?
・オルガの奔放さというか自由さを表すのに「デュプレのエルガーをYouTubeで見た」まではまあアリかな、と思ったけど、いくら何でもBPO受けるくらいのチェリストがバレンボイム知らないとかありえる?(苦笑)
・実業家でマーラーが好き、だからカプランはやっぱりキャプランがモデルなのね(あんなに小物ではないと思うけど)

【おまけ】
この3年くらい、ドイツ語学び直ししてて良かったなぁと感じた。
ドイツ語にはあまり字幕が出ないんだけど、何となく分かるとこ多かったし。
なお一番笑ったのはアダージェットを練習している時ターが団員に言う
「Vergessen  Sie Visconti !」(爆)

【以下メモ】
・MTTのタコ5w
・レニーのチャイ5で泣いてるやつ、ヤングピープルズコンサート?
・バイセクシャルのレニーが「師匠」というのも歪んでていい。それも結局「嘘」だったらしいけどそれは流石にバレると思うからちょっと無理あるよなぁ
・「堕ちた」先がフィリピンってのもなぁ……ちょっとモヤる。てかほんとに現地にレズ風俗とかあるの?(5番、はちょっと露骨で引いた)
・フィルムコンサートもまぁそんなバカにしたもんでもないけどね(とは言えあのオチには唖然とした)
・ナディア・ブーランジェ、そう言えばレニーの先生だったな
・マラ5、唯一終楽章だけが練習含め映像に出てこない無い意味
・盤売らずにデジタルだけ、ってのが「時代」すぎる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?