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“ミフネジン”という男

今日は私の弟の話をします。

尊敬する選手は誰かと問われると、皆さんは誰と答えますか?
人によって様々ですが、それはベテラン選手だったり、コーチだったりすると思います。
私にとって、それは弟です。

私たちは双子ですから、体重、身長、肉のつき方はほぼ同じです。当然、動きもかなり似ています。
競技に関わっている者であれば私たちの動きの違いに気づくでしょうが、初見の人には分からないと思います。私たちは幼い頃から一緒に練習してきましたし、お互いの動きを見て育ってきたので、似るのは当たり前です。

しかし、私は絶対に「ミフネジン」にはなれません。

私から見て弟はどんな選手かというと、とにかく規格外。何にもハマっていないし、誰にも真似できません。もちろん、双子の私ですら。
動きもそうですが、私は彼の競技者としてのメンタリティの部分にそれを強く感じます。

とにかく変なヤツ

福岡県でほぼ二人だけで練習していた時から、私は弟が折れた時を見たことがありません。やると決めたことは意地でもやり通しますし、常に他選手よりも前に出て、「俺がやる」「俺が決める」というスタンスを崩しません。
その常に突っ込んでいくスタンスは、彼の動きにも色濃く出ているかと思います。

RPGでいえば、彼は常に「ガンガンいこうぜ」がかかった状態で武術しているような感じですね(笑)エネルギッシュかつ豪快で、全段通してとにかく攻め続ける彼の動きはみていて気持ちが良いです。また、常に動き続けるので一部の選手たちからは、「体力無限」と称されています。私もそう思います。
私の動きも彼と同じように思われるかもしれませんが、それは私が彼に憧れているからです。だからこそ、私も攻めていない動きは好みません。

ちなみに、彼自身体力はありますが、どちらかというとフィジカル的な優位性は私の方
にあると思います。しかし、彼は持ち前のガッツで動き続けるので、一度乗ってしまえば私より疾い速度で私よりも動き続けます。

また、私が彼に対して真にすごいなと思うのは、彼の一貫性です。たとえ体が疲れていても、どんなに周りの士気が下がっていても、それらとは無関係に彼は自分で決めたことはやり通します。我が弟ながら“意地でもやる”という意志は人並みはずれているなと、競技以外の面でもそう思います。

福岡で二人だけの自主練をしている時でも、「自主練でのインテンシティじゃねえ」と呆れ返るほど彼は動き続けていました。自選難度に上がったばかりの頃の私がハードな練習でもついていけたのは、単純に弟の練習に合わせていた時よりハードではないと思えたからです。
※「インテンシティ」とは、サッカー用語でプレーの激しさや強さを表す言葉です。武術には本来用いません。

一時期、空気を読まない彼のハードな練習に対して周りの子から白い目を向けられることもありましたが、彼は全く気にしていませんでした。
彼自身、周りの反応をわかった上で練習の強度を自ら上げていたのだと思います。これはなかなか出来る事ではありません。
そして、もちろん東京に行ってからも彼のスタンスは変わっていません。
貫き通すことで、彼の動きは年々凄みを増しています。

福岡にいた時から変なヤツでしたが、東京に行ってからも一貫して変なヤツであるミフネジンを私はリスペクトしています。

印象に残っている棍術について

2019年の上海で行われた世界大会で弟が魅せた棍術は、今でも私の脳裏に焼き付いています。衝撃でした。

この大会が自身のキャリア初の国際大会となった私達は、当然ですが非常に緊張していました。特に、彼は初日の種目でチャレンジした難度を失敗してしまい、サブコートでの練習でも難度の調子は良くありませんでした。

そして迎えた最終種目。彼は難度を決めきることはできませんでした。
こういう時、もちろん周りも落胆しますが、一番精神的ショックを受けるのはいうまでもなく失敗した本人です。
「やってしまった」という邪念が頭をよぎり、その動揺がさまざまな形で動作に出ます。一流の選手ほど失敗を引きずらずに動作をまとめますが、多くは“攻めきれてない動き”になってしまいます。

しかし、彼の場合は違いました。難度のミスを吹き飛ばすような、攻めて、攻めて、攻めまくった動きを最後まで続けました。
失敗した直後から鬼の形相で棍を握りしめ、体ごと叩きつけるように棍を振り、失敗を全く恐れずに全速力で足を動かしていました。

この動きに私は圧倒され、「あ、すげえなコイツ」と終始感嘆していました。
大舞台で失敗してしまった直後に、周りをビビらすようなあの攻め方はなかなかできません。あの棍術は、幼少期から貫いてきた彼の信念に基づくものであったと思います。

私は、自分の全てを曝け出しているような、妥協のない動きが大好きです。
上海で彼がやったような“一切の妥協がない動き”は、今でも私にとっての指標です。

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