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『燻るあなたへ』が燻っていたこころに火をつけた

(この記事はラブライブ !サンシャイン!!の二次創作小説『燻るあなたへ』の感想記事です)

2019年12月30日、令和最初の年も終わりそうな日に僕は有明の逆三角形の下にいた。
コミックマーケット97の3日目に参加するためだ。
そこで一冊の薄くない薄い本と運命的な出逢いを果たしてしまったので感想記事を書く。書かねばならないと僕のこころが燃えている。

それがこの『燻るあなたへ』だ。

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著者は耀斗氏。
だいぶ手の込んだ告知サイトがあったのでリンクを張っておく。委託情報も載っているのでみんなポチろう。

薄くない薄い本の熱量はやばい

特に決まった目的の本もなくコミケ会場をうろうろしていた僕がなぜこの本を手に取ったのか、それはやはり厚さだ。あと表紙の千歌の顔がいい。

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そのへんの本屋で売ってるような鈍器と並べても遜色のない厚さだ(約780ページ)。
薄くない薄い本というのは、経験上熱量がとんでもない。何年か前に手にしたにこぱな合同誌もやばかった。

そして実際に読んだ結果、とんでもない熱量にあてられてこの記事を書いているわけだ。

時空のはなし

この本自体の紹介をする前にラブライブ !サンシャイン!!(以下!!!)の時空について説明しなければならない。

皆さんご存知の通りとは思うが、!!!は媒体によって設定が地味に違う。
最大派閥のアニメ時空、
原作の公野櫻子氏(通称GOD)が直接手掛けるG's時空(僕はG's時空が正史だとか言い出すタイプ)、
沼津の狂犬国木田が毎回のように暴れているCDのドラマパート時空なんかがある。

なお、これらは僕が勝手にそう呼んでいるだけなので、外で「ドラマパート時空の果南、任侠ものをAqours内で流行させようとしてない?」とか言って相手が頭にハテナマークを浮かべて通じないとかそういうことがあっても自己責任だ。

まあ、二次創作でもアニメ時空の設定をベースにしているものが大多数だと思う。
が、『燻るあなたへ』はG's時空、それもメンバーの学年設定が現在の各学年3人ではなく最初期の3年2人/2年4人/1年3人という設定を採用している。

現在の設定は公式サイトなりなんなりを見ればわかるので違うところだけを書き出すと
・黒澤ダイヤが2年
・津島善子が2年
・渡辺曜が1年
となっている。

また、全体的にG's時空がベースのため、鞠莉が果南&ダイヤと幼なじみだったりはしない(G's時空のかなまりの関係性いいよね……いい……)

廃校決定からはじまる物語

アニメ時空しか触れていないひとは意外に思うかもしれないが、アニメ以外では廃校を覆すことができない状況からAqoursの物語がはじまる。
それは『燻るあなたへ』でも同様だ。

高海千歌がμ'sの動画を見て自分もこんなふうに輝きたいと衝撃を受けるのとほぼ同時に浦の星女学院の廃校が決定する……そんな第1話から始まり、仲間を集めてゆき時にはバラバラになりかけつつも、自分たちが確かにそこにいたという証を残すためにラブライブ !で優勝すべく必死に活動していく。

テレビアニメの1クールぶんというのを意識していると思われる全13話構成だが、劇中でAqoursのオリジナル曲が初披露されるのはアニメ版とは違いだいぶ遅いタイミングだ。初期の段階では他のグループの曲を借りて活動していくなど、アニメとかではあまりできないよなあという演出をみせてくれるのは非公式な媒体ならではという感じでニヤニヤさせてくれるし、アニメ版で披露された曲を別解釈の経緯で作っていくというのも実によかった。

また、キャラクター描写もとてもいい。
アイドルに興味のないダイヤが加入した直接の理由である千歌との勝負(公式サイトのキャラ紹介にはまだちゃんと残っている設定だぞ)に至る経緯には納得しかなかったし、君のこころは輝いてるかい?の事故……自己紹介で一言言及されただけのしたっぱリーダーというワードを1話かけて描いたところは思わず泣いた。

ぶっきらぼう気味な口調の花丸(やはりこれも事故紹介のイメージが近い)の死に対する感覚--そこなの!?と思うひとも多いと思うが、我々[誰?]の間では国木田くんの死生観は一般人とは異なるというのが通説[要出典]だーーや、断片的に語られる梨子の音ノ木坂時代の話(これがまた本当にうまい)、梨子とはまた違う内浦の外からきた人間としての視点と、アニメ版の設定を若干アレンジした立場による鞠莉の葛藤、千歌と曜が1歳差である設定をいかした高飛び込みまわりのエピソードもよかったし、元々内浦在住勢のなかで唯一の3年生であるという立ち位置な果南の心情描写もとてもよかった。

ルビィのアイドル好き設定も十分活かされていて、そのうえ公式媒体でもときたま顔を覗かせる"家のあれこれ"にも触れているのがポイント高かったし、本作の前日譚にもなっているらしい『Ruby』もメロブで委託されているっぽかったのでポチろうとしたら既に在庫なしで泣いた。

そして、津島善子さんの描写についてはもう何度ありがとうと言えばいいのか分からない。仲間に不幸なことが起きたときに「……何よ。私は、なんでこんな時に不幸じゃないのよ……」と呟いたり、別の場面でも不幸を全て自分に集めて周囲を幸福に導こうとする姿などは、彼女が善性の塊であると信仰している僕によく効いた。それはもうとてもよく効いた。本当にありがとうございます……

本作とは関係ないが、全人類は!!!のファーストファンブックの95ページを読んでくれ。

燻るあなたとは

タイトルを見たときからずっと思っていた。燻るあなたとは誰なのか、と。
Aqoursのメンバーたちだろうか。それは間違いないだろう。なんたって、彼女たちが全編にわたって燻っている姿を描いたのがこの作品だ。
だが、それだけではない。

だ。

世の中ではアニメ時空設定が共通認識めいているなか、でもG's時空設定が一番しっくりくるよなとか言っている僕だ。津島善子さんの不幸体質は単なるギャグ要素ではなく、彼女の善性を象徴するもののひとつであると信仰している僕だ。
本作はそんな僕に対して「じゃあG's設定、それも初期設定をベースに最初から最後まで走り抜ける姿を見せてやるよ」と言わんばかりの物語を叩きつけてきた。
しかも、あとがきに「あなたのための物語」と書かれていては、燻っていたこころに火がついて感想を書きたくなってしまうに決まっている。というわけでこの記事を書いてしまっているという現在に至るわけだ。

僕に限らず、G's設定のAqoursが好きだというひとは大なり小なり!!!に対する燻るこころをもっていると思う[要出典]が、本作はまさしくそんなひとに向けた物語だと僕は思う。

ひとまずここまで。




物語の始まりと結末について

ここから『燻るあなたへ』の始まりと結末に関するネタバレ全開の感想を書いてゆく。
改行しまくった先から始めるが、未読のひとは今すぐ読むのをやめてほしい。














始めよう。

途中で出てくる梨子の音ノ木時代の話などからも「もしかしなくてもこれは」と思わせるところはあったが、本作においてμ'sとAqoursは完全に同世代のスクールアイドルだ。
公式媒体でもスクスタ時空では同世代となっている両グループだが、Aqoursの物語の始まりにはμ'sの存在が絶対に必要だ(と僕は思っている)。

そういう点で本作の時系列の組み方は非常にうまく、Aqoursの物語は6月に千歌とルビィが公開されたばかりだったμ'sの"これからのsomeday"の動画を見たことをきっかけに始まる。この時期だとμ'sもまだフルメンバーではないが既に名前は決まっていて、同世代のグループとして活動させるにはギリギリの絶妙なタイミングだと思う。
梨子がμ'sの名前を聞いても反応が薄かったのは、グループ名が決まったあたりの時期にはもう転校の準備やらなんやらでそっちに気を配れなかったのではという妄想が捗ってよい。

※なお、μ'sの活動の軌跡はおおむねアニメ版と同じだと僕は仮定している。

基本的に両者は交わることなく話が進むが、終盤でついに直接激突する。
第二回ラブライブ!決勝という場でだ。
憧れだった存在が、届かないと思っていた星が、最強の敵として立ち塞がるという展開は予想はしていたがやはりたまらない。

結果としては、μ'sが優勝、Aqoursが準優勝という形でAqoursは敗れ去ることになるが、まあ矢澤は大銀河宇宙No.1アイドルなので……

矢澤は置いておくとしても、環境の違いはやっぱり大きいよなと個人的には納得はできた。
まず、活動開始に数ヶ月の差があるし、なによりμ'sにはすぐそばにA-RISEという非常にレベルの高いライバルがいたからだ。
どんなものでも、目に見える競争相手がいるかどうかというのは結構差がでると思う。

かくしてAqoursは優勝できず、自分たちはそこにいたんだという存在証明をできなかった……とはならなかった。
確かに敗北はしたが、その輝きは遠く離れた北海道の地に届いた。
ラブライブ!決勝後、同世代ではなく数世代下の存在としてAqoursの過ごした土地を見ようとSaint Snowの2人が内浦へやってくるのだ。
Aqoursは確かにそこにいたと、伝わった。

また、千歌から聖良に語られる"ご褒美"で浦女が在校生が全員卒業するまでの2年だけ存続することになった件は、多少ご都合主義っぽくも感じるが、ここまでの物語を読んでいればそれくらい彼女たちに報いがあってもいいじゃないかと思わせてくれる。

そして、物語は千歌が聖良たちを巻き込んでスクールアイドルフェスティバルに行こうとするところで幕をおろす。

劇ラ!のあの光景のなかにAqoursもいたんだと、今ならそう思える。


当初の想定よりだいぶ長くなってしまったが、これにて『燻るあなたへ』の感想記事を終わりにしたい。
素敵な物語を本当にありがとうございました。


最後に、僕が本作を読んだ2020年1月頭というこのタイミングには奇跡を感じずにはいられない。
なんたって、あと少ししたらラブライブ!フェスで全スクールアイドルがSUNNY DAY SONGを歌う姿を見ることができるだろうから。

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