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転換期の夢と志の記録。ロックンロールのレジェンドを中心に観た『リバイバル69~伝説のロックフェス~』

ウッドストックと同じ1969年、カナダで開かれたロックフェスを捉えたドキュメンタリー映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』(原題:Revival69:The Concert that Rocked the World』)がが、10月6日(金)よりよりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほかで全国公開される。

チャック・ベリーやリトル・リチャードといった50年代のスターと共に、彼らに憧れたR&Rの申し子ジョン・レノン、そしてドアーズ、アリス・クーパーらが同じステージに立った奇跡の一日。会場のトロント大学のキャンパス内にあるバーシティ スタジアムに詰めかけた観客は2万人~2万5千人とも言われる。

この日の映像は全くの未公開ではなく、プラスティック・オノ・バンドのステージをおさめた『スウィート・トロント』はじめ、個別のアーティストによってメディア化されたものもある。
そこに今回は『モンタレー・ポップ・フェスティバル’67』やディランの『ドント・ルック・バック』を撮影したD・A・ペネベイカーによる未公開のコンサートやバックステージの映像を加え、より現場のライヴ感を伝えてくれる。

アリス・クーパー、ザ・ドアーズのロビー・クリーガー、アラン・ホワイト、ラッシュのゲディー・リー、シカゴのダニー・セラフィン、クラウス・フォアマンらのインタビューに加え、アニメーションを用いた仕事現場の再現もアクセントになっている。

ジョン・レノン、レジェンドの参加。新人アリス・クーパー大暴れ。
歴史は終わり、そして始まる。

若者たちによって企画されたこのローカルなコンサートは、ローリング・ストーン誌によってロック史上2番目に重要なフェスティバルに選ばれることになった。

その理由はいくつかある。

ジョン・レノンの参加。ビートルズ解散が決定的になった。オノ・ヨーコ、エリック・クラプトン(g)、クラウス・フォアマン(b)、アラン・ホワイト(dr)らによるプラスティック・オノ・バンドが初お披露目。(音源は『平和の祈りをこめて Live Peace in Toronto 1969』に)

チャック・ベリー、リトル・リチャード、ボー・ディドリー、ジェリー・リー・ルイス、ジーン・ヴィンセントというロックンロールのレジェンド5人が顔をそろえたこと。

無名だったアリス・クーパーが、ニワトリ投げ込み事件で一躍脚光を浴びたこと。

局部露出の疑い(実際はなかった)でウッドストックなどにも出演できなかったザ・ドアーズがトリを務めたこと。

観客がライターやマッチに火を灯して、出演者を歓迎するパフォーマンスをしたのもこの時が初めてだった。

歴史は終わり、そして始まる。
過去と未来を結ぶ、まさに転換期、発火点だった。
この歴史的瞬間と舞台裏のバタバタを目撃できるのが、この映画というわけだ。

ただ音楽が好きな20代の若者たちによって
奇跡は生まれた。

このフェスをプロデュースしたのは、ジョン・ブラウワー(John Brower )と ケニー・ウォーカー(Kenny Walker)という20代の若者たち。
ロックンロールのレジェンドたちを呼んで原点回帰のフェスを開催しようとの想いから企画始まった。

合言葉は「1955年にタイムスリップしよう!」

すでにチャック・ベリーを招いたフェスを成功させるなど実績はあったものの、企画はかなりの冒険だった。レジェンドたちに加え、シカゴやドアーズをブッキングしたもののチケットの売り上げは今ひとつ。
そこでロックンロールのレジェンドたちを愛するジョン・レノンに白羽の矢が立ったわけだが、そこは一筋縄ではいかない。
「ゲット・バック・セッション」を終え、平和のためのベッドインをするなど最も熱い時期にあったヨーコ・オノを伴っての出演。プラスティック・オノ・バンドは、初ステージ、ほぼぶっつけ本番だった。

来るのか来ないのか、何を歌うのか歌わないのか。
バイカーが先導しての会場入りは圧巻だ。

しかしラジオのDJや音楽ライター、映像スタッフらが共感し、協力し、奇跡のようなつながりからフェスは歴史をつないでいく。

こうした“裏方”たちの情熱は、大切なもう一つの音楽史だ。

知らない人にこそ感じてほしい!
ロックンロール・レジェンドたちのぎらぎらした熱


ロックンロールの誕生をどこに置くかはさまざまな考え方があるが、50年代半ば、若者が夢中になる音楽は確かに変わった。カントリーでもブルースでもロカビリーでもなく、新しい価値観を感じた人たちは肌の色に関係なくぶっ飛ばされた。
チャック・ベリー「メイベリーン」、リトル・リチャード「トゥッティ・フルッティ」、ボーディドリー「Bo Diddley」あたりがラジオのスイッチを入れれば一斉に日常に流れ込んできたんだから、想像するだけでくらくらする。

そのチャック・ベリー、リトル・リチャード、ボー・ディドリー、ジェリー・リー・ルイス、ジーン・ヴィンセント。この5人が揃うというだけで私のようなオールド・スクール・ファンには気絶モンだが、当時彼らはすでに“過去の人”。その多くはラスベガスで開かれるようなショーで生計をたてていた。

そんなこともあって、2万の観衆を前に気合いは半端ない。全員が「メイン・アクトはオレ!」ぐらいのプライドを容赦なく放つ。他のドキュメンタリー同様、演奏が一部なのは残念だが、その片鱗だけでもタダ者でないオーラにくぎ付けだ。

特に私を興奮させたのはボ・ディドリー。
晩年もカリスマ性は衰えなかったが、40代そこそこのボーのはむせ返るよう。重量感たっぷりの、どくどくと脈打つリズムには、ルーツ・ミュージックの全てが詰まっている。

陽が落ちてから現れたリトル・リチャードもスターのオレ様を見せつけてくれる。キンキラの衣装とピンスポへのこだわり。あわや出演不可に?!
暗くてよく分からないがホーンの入ったバンドのアンサンブルも心地よい。自分のバンドだろうか。

ジェリー・リー・ルイスの、キザでちょいワルなムードとピアノ・パフォーマンスも期待どおり。
チャック・ベリーもダック・ウォークを見せて気を吐く。自分のバンドではないのがちょっと残念だが、サポートを命じられた若者の緊張と歓びの表情が印象的だ。

そして<ビー・バップ・ルーラ>のジーン・ヴィンセントのバックは、アリス・クーパー・バンドが務める。

彼らのレコードは今「オールディーズ」の棚にあるのかもしれない。でも決して懐かしいだけの音楽ではないことをこの映画で若い世代にも実感してもらえればと思う。

行動しなければ、偶然も奇跡も起きない

もうちょっと演奏をたっぷり観たいというのも本音だが、それは各アーティストのDVD等にまかせ、ここは若者たちが一つのライヴを作っていくドキュメンタリーとして楽しみたい。

ビートルズの解散もいくつかの偶然が重なったとされるが、誰かが行動しなければ偶然も奇跡も生まれない。
そして歴史に残るショーも、誰かの思いつきから始まったとしても信ずる人たちを巻き込む力があればこそ生まれるのだ。

やはり若い人の推進力はすごい。純粋に関心させられる。

この映画を観て、好きな音楽を紹介するために何か行動を起こしてみようとする人が一人でも2人でも生まれたらよいな。

資料協力・(株)ポイントセット

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