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一人芝居「止まない雨の家」がとても良かったレビュー

止まない雨の家を観劇してきました。
雨の日にたまたま通りがかった小劇場で、運営のお姉さんに声をかけられての観劇でした。ほんとは観る予定はなかったんですが、その日は雨が降っていてチケットもたくさん余っているし雨の日割りでチケットも安いとのことでお姉さんにごり押しされる形での観劇となりましたが、本当に観れてよかった。
ネタバレありのため、観劇予定の方はブラウザバックお願いします。

こんなとこに劇場あったっけ?というようなほんとに小さな劇場でした。チラシを受け取って中に入ると、客席の真ん中に舞台があり、それを見下ろすような形で四方に客席が4列ずつ組まれていました。
どこに座ろうかかなり悩む配置でしたが、先にちらほらと座っているお客さんがいたので、その方たちから距離を取る形で席を決めました。確か、入口入って右側の上の方に座ったと記憶しています。

客席後方の壁は真っ黒に塗りつぶされていて、場内はひんやりとして静かで、遠くから外の音なのか、音響なのか分かりませんが雨の降る音がずっと流れていました。
事前情報なしに観に来てしまったのので、いただいたフライヤーを読むと男性の俳優さん(名前は失念しました、すいません)の一人芝居とのこと。

ひとりの男はただ雨が止むことを願っていた。
この国の雨がやまなくなったのは、天の上の神様が泣いているからだと言うやつもいる。じゃあ神に祈ればこの雨はやむのだろうか。
止まない雨によって衰退していくだけの世界で、あなたと彼はどんな未来に向かっていくのだろうか。

「止まない雨の家」フライヤーあらすじより

フライヤーに一通り目を通し顔をあげると、いつの間にいたのか一人の男が舞台に置かれていた黒い箱に座り手を組み目を閉じていた。お客さんも少し増えてきて、満員、とは程遠かったが10数人は入っていたと思う。

と、黒服のお姉さんが客席わきから出てきた。肩に斜めに掛けた黒い小さなカバンには緑の養生テープがぶら下がっており、いかにも裏方というような恰好をしている。
お姉さんは客席をゆっくり見回し小さく会釈をした。
「本日はお足元の悪い中、ご来場いただき誠にありがとうございます。本公演は1時間半を予定しております。途中休憩はございません。上演中音や光の出る機器、スマートフォンの電源はあらかじめお切りいただくようお願い申し上げま…」
「おいっ、そこに誰かいるのか?!」
言葉を遮るように舞台上の男が立ち上がり、お姉さんのいる方を怪訝な表情で見つめている。お姉さんはしまった、という表情をして客席に急いで頭を下げるとそそくさと退場していった。
お姉さんの退場と同時に客席の照明が暗くなり、雨の音が一瞬大きくなった。
「いるわけないよな。誰も。俺はこの雨で頭までおかしくなっちまったのか。」
はぁ、と男はため息をつくとぐるっと一周客席を見回した。
「雨は今日もやみそうにねぇか…。ネットショッピングで買ったこのお札まったく役に立たねぇじゃねぇか!祈っても祈ってもずっと土砂降りだぞ!」
ポケットから紙のようなものを出し床に投げつける。おそらく男がネットショッピングで買ったというお札なのだろう。
「数日前から物流も雨のせいでストップしてネットショッピングも出来なくなった。もうこの世は終わりだよ!俺の人生最後の買い物が変なお札になっちまった!」
泣きながらお札に怒る男の様子が少し滑稽に思えたのか、客席からクスクスと小さな笑い声が出た。
「誰だ!」
笑ってしまったお客さんの方を向き、舞台上の男が大きな声をあげた。

驚いて固まるお客さんを前に男は演技を続ける。
「やっぱり今日はおかしいぞ。家の中にいるのに、誰かの気配を感じる。」
そういって神妙な顔で舞台上を歩き始めた。
「泥棒か?この時勢だ、うちにはなにもないぞ!」
とファイティングポーズをとっている。演出にしてはずいぶんと長い間男は舞台上で、ここかっ!などと言いながら黒い箱の後ろをのぞき込んだり、なにかを警戒しながら歩き回ったりしていた。
私は何を見せられているんだ、といい加減その演技に飽き始めていた頃に、客席わきから最初に出てきたお姉さんが私たちに謝るようなしぐさをすると
「いや、私たちは神だ。」
といった。

男は動きを止め、目を見開いた。
「神…」
はっ、と何かに気づいたような顔をした男は先ほど自ら投げ捨てたお札のところに駆け寄ると
「まじもんかよぉ~!」
とお札を大切そうに持ち上げほおずりをした。

そして舞台上で正座をすると
「このたびはこんなせっまい所によくぞお越しくださいました!もうね~足元が悪い中ありがとうございますぅ~。祈り続けたかいがありました!ささっ、神様の偉大な力とやらで、この雨すぱっと綺麗に、止ませちゃってください!」
そういうとにっこり笑う男。

少ししてきょろきょろとあたりを見回すと
「ぜんぜん止んでないじゃないですかぁ~!冗談きついですって!ゴットジョークってやつですか?」

「ただじゃだめってことですか?!もう、この雨神様の涙って言われてるんですよ!いい加減泣き止んでくださいよ!」

と、その後男は客席から聞こえてくるささいな音を神からの啓示として受け取り、雨を止ませるために色々な手段を試していく。その中で男の置かれた状況や雨が降り続けて衰退している国の様子などが徐々にわかってきて、最後には男に心から同情し早く雨を止ませる方法を見つけたいと、私も周りのお客さんも前のめりになって男の演技に見入っていた。雨が降り続けている謎についても少しわかったようなわからないような…いろんな人の考察を聞きたくなる作品です。「止まない雨の家」は舞台上と客席の一体感がとても心地よい作品でした。
物語の結末についてはぜひ皆さんも見て考えていただけたらと思います。

あ、そういえば作品の中で少し不思議だな、と思ったことがあって、それは男が神様の涙の理由を見つけてなんとか泣き止ませれば雨がやむのでは?と考えたところなんですが、順番にお客さんの方を見ながら、神様もいろんな理由で泣くんだな、とかって話しかけていくシーンがあったんです。
で、私の方を見て
「仕事がつらいのか、神様の仕事って大変そうだもんな。」
って言ったので、ちょうど転職したばかりで仕事がつらい自分のことを言い当てられたようで驚きました。まぁありがちな理由なのでたまたまだとは思うのですが、その時の男の目をずっと忘れられずにいます。

私が泣くと雨が降ってあの男が困ってしまうと思うと、まぁ仕方ないから泣かずに頑張ってやるか、という気持ちにもなったりして。私神様だし。そんな気持ちになった作品でした。

あのあとフライヤーもいつの間にかなくしちゃって、劇場もどこだったか忘れちゃって、もうどこの誰の作品かもわからないんですが、同じ作品をどこかで観た方がいたらご一報お願いします。

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