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夏はコーラを飲みたくなる。

”おーい。”

さっきまでコーラを飲んでいたコップの中から、小さな声が聞こえる。

”少し話しがしたいんだ、僕がとけてなくなるまでの少しだけ。”

コップの中の氷が私に話しかけているようだった。

夢でも見ているのかと何も言えずに氷を見つめていると、その様子を「イエス」と受けとったのか、小さな氷は一人で話し始めた。


”今思えばいい人生だったと思うんだ。喫茶店のおしゃれなコーヒーの氷になりたかった、なんて文句を言ったこともあったけど。

やってるうちは気づかないもんなのさ、それが幸せなことだってこと。僕もコーラがなくなってから気づいたよ。なんだかんだ言ってもコーラを注がれていた頃は楽しかったな、ってさ。”


”ほら、角が丸くとけて、体もずいぶん小さくなった。僕はもう消えてなくなるんだ。”


そう話す氷の様子が少し寂しそうに見えて、私は思わず「冷凍庫に戻してあげようか?」と声をかけた。


”長生きだけが幸せじゃないさ。”


と、小さな氷は小さな声でそう言った。

「じゃあ、もう一度、貴方がとけてしまう前に、コーラを注ごうか?」と聞くと、


”今はこの景色に満足しているんだ。”


と、氷は言った。

少し悲しそうな顔をした私に気づいた氷は、気持ちは嬉しいよ、と付け加えた。


”遠慮しているわけじゃないんだよ。コップの淵からこちらをのぞき込む君の顔がよく見える。何も無くなって初めて見える景色だ。

僕が最期に見る景色だ。”


小さな氷は、ふぅ、と一つ大きく息を吐いた。


”時間をくれてありがとう。君と話していたら、気持ちが落ち着いてきたよ。

僕はもう大丈夫だ。”


コップの氷がカラン、と涼しげな音をたてた。

それきり氷が話しかけてくることはなかった。

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