ここは私のディストピア。
この星で1番見晴らしの良い場所は、私の椅子があるこの丘だ。小さなこの星の隅々まで見渡せる。
少し離れた所には、誰も座ることのない椅子がポツリポツリと間隔をあけて置いてある。椅子の数は全部で8脚。
私はこの星で、とうとう1人になってしまった。
・
「ほら、ぼーっとしてないで!」
最年長の元気な女性が私の肩をどんっ!と叩いた。
「この星を発展させるためにみんなで積極的にアイデアを出し合おう!」
花や木をたくさん植えて、緑豊かな星にしよう。
観光地を作って人をいっぱい呼び込もう。
小さくてもみんなに愛される素敵な星にしよう。
たくさんのアイデアが出る中、一人がこう言った。
「私たち8人のための特別な場所が必要じゃない?」
・
こうしてこの見晴らしのいい丘には、8脚の椅子が置かれた。
丘の上の椅子は、少しずつ発展していく星を眺めるのにうってつけだった。
私の植えた草花が風に揺れて、この星を訪れる人を笑顔にしている。そんな様子を見るのは楽しかった。
しかし、問題はある日突然起こった。
「なんで私の椅子はあの人よりも後ろなんですか?」
実際には私が突然だと感じただけで、私が気づいていなかっただけで、もっと前から問題はあったのかもしれない。
言い争いによって大きく深くなっていくお互いの溝をどうすることもできないまま、8脚の椅子をめぐって起こった争いに疲れた人が、一人、また一人と星を去っていった。
人が足りなくなると、星の管理も手が回らなくなった。そしてさらに人が減っていった。
「この星はもう終わりだ。君も早く新しい星を探さないと、この星と一緒に滅ぶことになるよ。」
去っていく人を淡々と見送っていた私にそう声をかけてくれたあの人は、別の星では幸せにやっているのだろうか。
空になった椅子を見つめても答えは返ってこない。
ふと、金木犀の花の香りが強くなったような気がした。私が植えた金木犀だ。
みんなに愛される、みんなを笑顔にできるそんな星にしてあげたかった。でも、もう止めよう。
さっき水を止めてきた。そのうちみんな枯れていく。
私が最後に残ったのは責任感が強かったからでも、星への愛が強かったから、というわけでもない。
正直なところ、ただなんとなく、ぼんやりと毎日を送っていただけなのだ。
そんな私の罪滅ぼしとして、せめて滅びゆくこの星の最後を共に過ごすことにした。
寂しい最後でごめん。でも最後まで一緒にいるから許してほしい。
私ももう少しだけ、ここからの眺めを楽しんでいくとしよう。
それじゃあ、皆さん、さようなら。
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