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コンパクトだけど華やかさは一貫していたんじゃないかな 映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」感想

 北極百貨店のコンシェルジュさんを見てきました。正直原作も映画化も知らなかったんですが、先々週ガルパンを見に行ったら予告編でよさそうだと思い見に行った次第です。
 「お客が動物だけの百貨店」「新人のコンシェルジュ」「中でも絶滅種のお客さまは…」みたいなキーワードが出てきた予告編だけで、中身は予想できましたが、それでも華やかさは一貫させていたんじゃないでしょうか。
 以下、ネタバレだらけです。

よかったところ

 まずこれは全編通じてですが、百貨店というだけあって画面全体がずーっと華やかなんですよね。欧米にあるような百貨店の風景が連続していて、色んな動物が歩き回っている中を秋乃さんが走り回るという、絵としての華やかさは一貫して楽しかったです。秋乃さんを含む百貨店側の人間たちの動きは少々オーバーで誇張されているんですが(お辞儀の仕方然り、フロアマネージャーの神出鬼没然り)、そういうオーバーな動きが滑稽になりすぎないギリギリの範囲で、動物たちの中で埋没しない動きになっていたのはよかったと思います。
 そして「絶滅動物のために人間が罪滅ぼしをする場」という側面を全面に出し過ぎなかったことが、華やかさを保つために一役買っていたと思います。作品で割と重大なテーマなんだと思いますが、これを強調しすぎると秋乃さん含む人間たちが、過去の人類たちの贖罪を担わされている理不尽さが前面に出ますからね。エルルさんとトキワさんの舞台裏でのわずかな会話に収めたのは正解だったでしょう。
 中盤の山場の二つの「必ず」の約束(ニホンオオカミのプロポーズを必ず成功させる・バーバリーライオンの香水を見つける)も、前者を給仕長のやらかしを契機にしたものよかったです。前者まで秋乃さんに担わせたらトラブルメーカーの側面が強くなり過ぎました。
 まとめをゴクラクインコさんのオーダーに持ってきたのも大正解でしょう。バーバリーライオンのカップルにお願いして、ゴクラクインコの娘さんに北極百貨店を見学させる動画を作る展開はちょっと涙腺に来ましたね。
 こう考えると「シナリオとしての塩梅」みたいのは上手くできていたと思います。

悪かったところ

 冒頭に書いた通りですが、「筋書きが予測できる」ところはどうしようもないとしても、秋乃さんが解決に至る筋道がかなり唐突だったのは気になりました。
 例えば、最初のワライフクロウ夫妻の接待。「女性は悩んだもう一つに後ろ髪を引かれる」というのはわかるんだけど、それが絵や台詞として出てこない。ニホンオオカミのプロポーズも、きっかけとしてウーリーさんの氷の彫刻は出てくるんだけど、「氷の彫刻が溶けだして指輪がジャストタイミングで出る」閃きみたいな場面がない。バーバリーライオンの香水のオーダーとして、「生産中止となった香水をロートルコンシェルジュが奥様のネットワークを駆使して調達する」ところが、ギリギリかなあって。でもこれも一言でも秋乃さんと丸木さん(退職したけど繁忙期にヘルプに来るロートル)の会話が欲しかったな。
 そしてもう一つ、「北極百貨店で働くインセンティブ」がかなりきわどいというか、「幼少期に迷い込んだ北極百貨店で抱いたコンシェルジュへの憧れ」に押し付けているのは気になりました。ここは表裏一体というか、先にも書いた通り「絶滅動物への奉仕」みたいな側面を出しすぎると理不尽さが際立ちますから難しいんですけど、「何でこの人こんなに一生懸命働いてるんだろう」っていうのはちょっと引っかかりましたね。全体的なテーマとの関係で明確に描くのは相当難しいと思いますけど。

まとめ

 全体的なアニメの作りとしては十分楽しめる佳作だったと思います。涙腺ゆるゆるおじさんなので、最後のゴクラクインコさんのオーダーのところはずっと泣いてました。ただ、じゃあ何度も映画館でリピートするかとか、円盤を買って見返すかというとそうでもない、本当に「佳作」だと思います。でもよかったところも多いので、一度映画で見るのもいいんじゃないでしょうか。老夫婦で見に来られた方もいましたし、割と上の世代にも刺さる内容だと思いました。
                               おわり


 


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