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『水商売をやめてくれないか』を聴くたびに

鬼龍院翔の曲が実は好きで(といっても全部は聴けていない)、『君のスカートが短くて』とか『パーティを止めないで』(これはヒプノシスマイクの曲)、普通に『女々しくて』も好き。彼の書く男の、柔らかい、それこそ女々しい部分を曝け出した、針で刺したらパンって弾けて血が出てきそうな感性、解像度の高さにいつも新鮮に驚く。

その中でも最近『水商売をやめてくれないか』をよく聴いている。私は水商売がすごく身近な環境で育ってきて、今も周りに水や風など夜職経験者が多い。なので、夜の蝶をしている女の気持ちは多少わかる。その……生々しい、様々な屈折した感情や価値観を、人並み以上に見てきている。

そして、それに嫉妬する男たちの話も聞いてきた。それは本当に交際している相手のこともあれば、いわゆるガチ恋と呼ばれる疑似恋愛に本気になってしまったお客様の場合もあるけれど、「水商売をやめてくれないか、僕以外見ないでくれないか、他の男に触られる、考えただけで死にそう」という歌詞はまさに、といった具合。

けれど私は同時に、男性も恋愛感情を持つという事実を信じられていない。

子どものころからひとつ、明確に、疑問視していることがある。それは、男の人にも私が持つのと同じような恋愛感情があるのかってこと。相手のことを考えると苦しくて、幸せで、涙が出そうなぐらいになにかを愛おしく思うような気持ちって、あるのかってこと。

(中略)

女の子にそういう感情があるのは、ごく自然にイメージができる。私と他人はちがうから、もしかすると世界の誰も私とおんなじ感情を恋愛感情とは呼んでいないのかもしれないけれど、ともかく想像できる。でも、男性がそれを抱くということ、面白いぐらい想像できない。

『世界の半分を占める人たち』

私の父はかなり嫉妬深く母をひどく束縛していたし、女友達の惚気や男友達からの恋愛相談も聞いているし、私自身男性との交際経験があるし、弟もいるし、とにかく頭ではわかっている。あるらしいということが。でもやっぱりわかってないんだな、とこの曲を聞くたびに思い知らされる。

P.S.
死ぬほどウザくてごめん
でも言わずにはいられなかった
君が笑顔を売り払うたび、
僕との笑顔が安くなる気がしてしまって…
とはいえしっかり働いている君に
ろくに働いていない僕が言えたことじゃなかったね
ねぇ、君は僕に不満はある?
あったらどうか、言ってほしい
嫌なところがあったら直すから
ずっと一緒にいたいから…

最後のこれ、これを聴くたびに、ひとりの女にそんな執着して、水商売をしていることを理不尽に詰るわけでもなく、自分の嫌なところを直してまでずっと一緒にいたいと思うような、そんな強い……まさに恋愛感情というものが男にもあるんだ、と思う。

普通のラブソングはなんというか、生々しさがなくて、男が歌っていようと女が歌っていようと変わらないのだけれど、鬼龍院翔のつくるそれはあまりにも生々しくて激しい。あるんだよ、こういう感情が、あるに決まってるだろ、私にそう語りかけてくる。

ああそうか、死にそうになっちゃうんだ。他の男に触られるだけで。不安になっちゃうんだ。ビジネスで男と話しているだけで。地元に連れて行きたいんだ、そんな女を。花屋なんてどうだろうか?まるで夢みたいなことを言う。それこそが水商売なんてもう、やめてよ、その感情を際立たせる。

結局恋愛感情なんて個人差だから、鬼龍院翔のそれが全てではないことはわかる。けれどこの、書いてるだけでストレスで吐き気がしてきそうな歌詞が、私の脳を変性させる。

今からでも、この世界の約半分を占める、男という人たちのことを知りたい。

私たち女と同じ人間だということを、知りたい。

『世界の半分を占める人たち』

誰も彼も人間なのだ。この曲を聴くたびに、私は何もわかっていないのだと思い知らされる。



というわけでぜひ聴いてください。おすすめです。

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