#随想011 Rainについて(1)

大江千里さんの代表曲といえば、平成の時代では格好悪いふられ方だった。これは間違いない。何しろ最大のヒットシングル曲、リリースした1991年頃は千里さんは乗りに乗っていて、テレビにも頻繁に出演していたし、盛大なコンサートが開催され、タモリがこの曲で千里さんのモノマネをしていたことでも有名だ。2011年にはモテキというテレビドラマおよび映画でも挿入歌として使用され、話題となった。

そして、時は流れて令和の時代となり、今の千里さんの代表曲はRain、と言えるかもしれない。

槇原敬之さん、秦基博さんら錚々たる歌手の方々がカバーし、SNSなどのインターネットの波に乗り、令和の老若男女の人の心にRainが持つ物語の美しさが届いた。

Rainの良いところは様々あるが、私の好きなポイントは、主人公の男の人があんまりいい人じゃないというのと、歌を聴くだけで情景が見えるというところ。

千里さんの曲に出てくる人たちは、時に利己的で、他人には厳しく、理性が感情に負けているときがあり、これこそが人間だといえるような、泥臭いところがとても好きである。

Rainの主人公も全然丁寧な恋愛をせず、お相手の女性を怒らせてしまい、雨の中去っていく彼女を口笛を吹きながら追いかけてゆく。

これだけ書くとなんてダメな男!!となるが、冒頭の2行

「言葉にできず凍えたままで

 人前では優しく生きていた」

このフレーズだけで、主人公の生き様が見事に表現され、親近感が沸き、彼女に冷たくしている主人公を許してしまう。それどころか、主人公に感情移入してしまい、まるで自分が雨の中へ消えてゆく恋人を追いかけている気分になってしまうのである。

千里さんは人間の良いところも悪いところもすべてお見通しで、だからこそ人間の心の美しさに気付くことができるのだろう。そして、誰よりも美しいメロディに乗せて、5分ほどの曲の中に人それぞれの人生を閉じ込めることができるのだ。

長くなってしまったので、Rainのお話は明日に続きます。明日は大村雅朗さんのことについても触れられたらいいな…と思っています。

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