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うすく広く電気料金に乗せれば=NHKETV特集「膨張と忘却」をみて思うこと


「うすく広く」電気料金に乗せれば19兆円なんてすぐ

3月2日に放送されたNHKETV特集「膨張と忘却 理の人がみた原子力政策」という番組の中で、「19兆円の請求書」という内部文書により再処理事業からの撤退を訴えた経産省の役人はある有力政治家にこう言われたという。
「君らが言っていることは全部正しいな」
「でもねえ、これは神話なんだ」
「嘘を承知で、できる、できるって言っていればいいんだ」「うすく広く電気料金に乗せれば19兆円なんてすぐに生み出せる
これを聞いた役人は「結局国民よりも自分たちの飯の種とか立場とかを優先しているんです。『金』と『嘘』と『おまんま』がぐちゃぐちゃになって固まっているんです」と感じたそうです。

六ヶ所再処理工場の総事業費は14兆7千億円に

この番組は、長年国の原子力政策の制定に関わってきた吉岡斉氏が残した「吉岡文書」を解読したもの。その中で2004年、吉岡氏も参加していた「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(長計)策定会議」の前に行われた秘密会議の資料をNHKが入手。長計策定会議の前に秘密会議ですり合わせが行われて、すでに再処理維持の方針が決定されていたことがわかりました。
吉岡氏は、全量再処理と使用済核燃料直接処分のコストを比較して、政策を決めるべきだと主張していましたが、圧倒的な賛成意見多数で再処理維持を決定しました。吉岡氏はこの決定過程を「恣意的だ」と批判しました。

「できる、できる」と嘘をつき続けて20年

この裏会議から20年、六ヶ所再処理工場は、26回の完工延期、総事業費は14兆7千億円にまで膨らみ、MOX燃料の工場の費用も加えると17兆1千億円にもなりました。
高速増殖炉もんじゅが廃炉になっても、政府は核燃料サイクルの破綻を認めず、いまだに全量再処理方針を変えていません。この時決められた「使用済燃料再処理積立金」は、福島原発事故の影響で東電が財政難に陥り、再処理積立金を取り崩されて負債返済に当てられることのないように、より不透明な「再処理拠出金」という制度に変わって「うすく広く」電気料金から回収されています。

過去分で「うすく広く」すべての需要家から回収

再処理積立金という制度をつくる時、再処理工場の廃止のための費用=バックエンド費用をこれまで計上してこなかったとして、原発運転開始から2004年までのバックエンド費用分を「過去分」として徴収することになりました。電力自由化にともない、原子力発電事業とは無関係な新電力からも、送電線の使用料である託送料金から回収することにしたのです。まさに「うすく広く」です。この案が提示されると、審議会で、新電力会社や消費者団体の委員などは反対しましたが、賛成多数で押し切られました。結局「今回で過去分の請求は最後」として、過去分を15年間にわたって「うすく広く」託送料金から回収されることが認められてしまいました。

もうひとつの「うすく広く」=福島事故賠償の過去分

それから15年後の2020年、ふたたび「過去分」として託送料金から「うすく広く」回収される制度が始まりました。今度は福島原発事故の損害賠償金の「過去分」2.4兆円です。これまでは原発事故の賠償金の設定額が足りなかったので、過去に遡って回収するというのです。40年間、1kWhあたりにすれば0.1円以下の金額ですが、送電線を使う全国すべての消費者から、原発が嫌だから新しい電力会社に乗り換えた消費者からも「うすく広く」回収しています。この制度を審議した委員会でもやはり反対の声が出ました。「過去分」の請求は再処理の時に「これが最後」といっていたではないかという声もありました。でも2005年のは再処理の過去分で、今度のは賠償の過去分だとして、新たな「過去分」回収が認められてしまいました。原子力会計の世界では困ったら「過去分」を持ち出して、うすく広く回収することになっているようです。
https://www.cao.go.jp/consumer/history/06/kabusoshiki/kokyoryokin/takuso/doc/007_20200807_shiryou2_1.pdf

「原子力関連の賠償過去分・廃炉会計費用 に係る措置について」資源エネルギー庁より

長計策定会議という茶番

この番組で、公式な長計策定会議の前に行われた秘密会議について、2004年1月29日午前8時から10時「原子力を巡る勉強会」という会の参加者の座席表が映るのですが、その中に前田委員、並木部長、豊松支配人という名前がありました。当時の肩書きを調べてみると、前田肇は元関電副社長で当時は特別顧問、原子力委員をやっていました。並木育朗は東電元執行役、豊松秀己は当時関電支配人で核燃料サイクル推進室長、1億円以上の不正金品を元高浜町助役から受け取った人物です。
長計策定会議は、第1回が2004年の6月21日に行われ、再処理維持の長計案が提示されたのが2005年7月。意見募集のあと9月29日、第33回の最終会議で、再処理路線を維持する「原子力政策大綱」が決定されました。1年以上もかけた33回の 策定会議は、この番組の中で伴当時委員も怒っていましたが「すべて茶番だった」ということです。

原子力小委員会やGX実行会議でも

この話は決して過去の話ではありません。今も原子力小委員会などで同じようなことが起きています。昨年2月に原子力小委員会で賛同を得られたからと、内閣官房のGX実行会議が原発回帰の基本方針を決めました。

GX推進に向けた基本方針(2023年2月)では
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/kihon.pdf

「東京電力福島第一原子力発電 所事故の反省と教訓を一時たりとも忘れることなく、「安全神話からの脱却」を不断に問い直」すと言いながら
「エネルギー基本計画を踏まえて原子力を活用していくため、原子力の安全性向上を 目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。 そして、地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉 への建て替えを対象として、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も 踏まえつつ具体化を進めていく」として、原発の新増設にまで踏み込んだ方針を決定しました。

「原発はグリーン」は不誠実  福島を忘れたのか

以下は原子力小委員会のメンバーである原子力資料情報室の松久保さんの記事です。

2023年1月26日 毎日新聞
有料記事なので、原子力小委員会に関する記述部分を以下貼り付けます。
==原子力小委員会をはじめ、エネルギー関係の経産省の審議会を見ると、再生エネルギーの関係者が少なく、原発を含めた既存のエネルギー関係の代表者が多い。業界の既得権益を守るために、再生可能エネルギーを増やすのではなく現在のシステムを維持する方向の主張をし、それがそのまま政策決定に影響していく。
原子力小委員会(専門委員含め21人)でも脱原発を訴えるのは私ともう一人ぐらいだ。ごく少数の意見なのでノイズにしかならない。
政策の幅が狭すぎて議論がなさすぎる。国民のコンセンサス(総意)は原発は将来的にはやめていこうというものだ。しかし、このような委員構成ではそうした国民の意見はまったく反映されず、原発はずっと使うという結論しか出てこない==

核燃料サイクルは回らないのに原発は止められない?!

「できない」ことを「できる」と言って嘘をつく役人が出世して、本当のことを指摘する役人は異動させられる。
審議会のメンバーは原発ムラ人が多く配置され、事前の根回しで結論は決まっている。
基本方針案のパブリックコメントは募集するが、どれだけ反対意見が多く集まっても無視する。
こういう姿勢は20年前から何も変わっていません。
童話の「裸の王様」では、小さな子どもが「王様は裸だ」と叫べば、大人たちは真実に気づくのですが、現実は「再処理はできない」といくら叫んでも「『金』と『嘘』と『おまんま』がぐちゃぐちゃになって固まっている」人たちが押さえこんでしまいます。
あれほどの過酷事故が起きてもなお、原発再稼働をすすめる人たち、事故から13年経って、福島原発事故をなかったことにしようする人たちが、日本のエネルギー政策を動かしています。
今年正月の能登地震がわたしたちに教えてくれました。地震列島日本で原発は無理です。

 脱原発しかありません!


*1 「膨張と忘却」理の人が見た原子力政策

*2 福島原発事故の賠償費用は13.5兆円から15.4兆円に増額されました。増額された内訳は賠償指針の見直しが約0.5兆円、ALPS「処理水」賠償が約0.3兆円などとなっています。事故炉の処理費用を加えると総額は約23.4兆円にもなり、今後も増え続けることが予想されます。
詳しくは以下に書きました。

*3 GX実行会議
「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を実行する」という会議です。

*4 原子力小委員会
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/index.html

原子力小委員会の委員名簿 

*5 福島原発事故賠償「過去分」とは別に、もうひとつ原発の「廃炉円滑化負担金」も託送料金から回収されています。政策変更により、事業者の計画より早く廃炉にした原発に対して、廃炉費用が十分に用意されていない部分を託送料金から回収することが認められてしまいました。
これらの託送料金からの回収について、裁判も起こされています。九州の生活協同組合グリーンコープです。以下 引用です
「30余年にわたる脱原発運動の一つの到達点として、「生活に必要な電気を自分たちでつくる」発電所事業と「原発フリーのグリーンコープでんき」の小売事業に踏み出しました。二つの事業を進めていく中で、「託送料金問題」と向き合うことになりました。託送料金は、私たちが電気を使う際の「電線使用料」のことです。その中に、本来入るべきではない原発を維持するための費用(電源開発促進税・使用済燃料再処理等既発電費)、そして2020年10月から「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」が託送料金に上乗せされています。(グリーンコープでんきは、訴訟をしていることから契約者から徴収はしていません)
私たちグリーンコープはその託送料金になぜ原発関連の経費が上乗せされるのか、2016年から検証を続け、やはり「原発関連経費の託送料金上乗せは、おかしい」と考え、経済産業省やグリーンコープのエリアの大手電力会社を尋ねて、私たちの要望やお願いを届けました。しかし、理解は得られず、最後の手段として裁判に訴える道を模索してきました。2年半にわたる組合員検討を経て、2020年2月12日にグリーンコープ共同体臨時総会を開催し、「託送料金訴訟」に踏み出すことを決めました。

*6 「脱原発へ!関電株主行動の会」のニュースに書いたものに加筆しました。

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