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豚ステーキの解禁日。 【食エッセイ】

鶏肉、牛肉、豚肉。

たまに、ラム肉。

スーパーのお肉コーナーで見かける、レギュラーメンバーたち。


私は、迷わず鶏肉を手に取る。
胸肉、もも肉、ささみ…
一通りの部位を冷蔵庫あるいは冷凍庫に常備しておきたい。そうすれば、どんな料理にもだいたいは応用が効く。

牛肉はステーキやブロックが安くなっていれば、たまに買う。

ラム肉は夫が苦手なので、滅多に買わない。(私は好きなのでひとりこっそり食べている。)

豚肉。牛より安いし、鶏にはないバライティがある。これがあれば料理の幅がうんと広がるだろうに、と思う。

けれど、私はそれを手に取らない。





ここ数年、豚肉を避けてきた。

嫌い、なわけじゃない。

過去、お付き合いしていた男性の影響で食べれなくなってしまった。


彼の信仰をなるべく尊重したいという一心で、
生活などの習慣をひと通り試してみた。

お酒_完全には無理だった。料理酒まで徹底しようとすると、大抵の日本食がNGになってしまう。アレンジしながら調整はしたものの、ストレスは計り知れない。

断食_やってみたけど、どうにもならなかった。お腹空きすぎて泣けてきた。私は食べることに人生を捧げ過ぎてきたのだ、と気づいた。

豚肉_これならいける、と思った。私は鶏肉が好きだし、わざわざ豚肉を選ぶ必要もない。

何もできそうにないので、
せめて豚肉を食べない、これをやってみよう!
と、鼻息荒くルールを課した。



消去法でネガティブな選択。
それでも自分の中の”普通”を変えてみることに、少なからず、ワクワクしている私がいた。

今思えばそれは、

筋トレをライフワークをしているムキムキのお兄さんが、鶏胸肉とブロッコリーを主食としているかのような、

田中みなみさんを崇拝している女性たちが、こぞってグルテンフリーを求め出したかのような、

フットワーク軽めの選択だった。



彼と生活を共にしなくなったというのに、
習慣化したことを元に戻すのは容易ではなかった。

信仰をしていたからではない。
彼に未練があったからでもない。
(いや多少はあったかも知れない)

ただ、食べることが怖かった。


幸いにも、日本には食べるものがたくさんある。
わざわざ豚肉を選ばなくても、生きていける。

そうして、また時が過ぎた。


次第に、いつまで食べないつもりだろうと、フランスかぶれしてる自分にゾッとし出して、

少しずつリハビリを始めた。

ハム、ソーセージなどの加工食品、

豚汁に入れるバラ肉。

これくらいなら大丈夫、
美味しい、とも思えるようになった。

それでも、大きな塊(=ステーキ)にはどうしても慣れず、
目があわないように、ひたすら避けてきた。





転機は、突然訪れる。

先日、半年前から通っていた職業訓練校を無事終了した。

後ろ髪をひかれながら、生活が変わっていくのには、まだちょっと名残惜しい。

そんな想いの延長と、お祝いを兼ねて。
クラスメイトと少しばかり豪華なランチで打ち上げをすることになった。

ひっそりとした、隠れ家フレンチレストラン。

シックなインテリアと漂う高級感が、好奇心を掻き立てる。


今日のランチメニューは…どれどれ。

  • 鶏もも肉のロースト パプリカクリームソース

  • 自家製ハンバーグ ビーフストロガノフ風

  • 豚のロースト プラムクリームソース

  • お魚の香草パン粉焼き トマトクリームソース +500円


文字だけで、美味しさを味わえるこの高揚感。

鶏もも美味しそう!でも、お家に帰れば、鶏肉はストックがある。ステーキは週1で食べてるし…

ハンバーグも然り。せっかくなら家で食べれない、物珍しいものをいただきたい。

お魚料理。うーん、+500円かあ…。集団でランチのとき、会計が厄介だしなあ。

そうなると…
残すは豚。しかもロースト…
私が避けてきたメイン料理。

なしなし!
いや待てよ…プラムクリームソース。これはいただいてみたい。プラムをソースにしてるのよねえ。どきどき

この豚のステーキなら、いけるかも…


プラムクリームソースの誘惑に負け、注文を。

あとは流れに身をまかせるのみ。

サラダ、スープから始まり…


お待ちかねのメイン🍽️
いざ…

ぱく。

もぐもぐ。


「おおお美味しい…」


こりゃまいりました。
肉厚ステーキが運ばれてきたときは、動揺した。
でもね、プラムクリームソース。君がよかった。ありがとう。

こうしてころっと、克服を遂げたのだった。


「食わず嫌い、だったのかもなあ」

昔は気にせず食べていたというのに、変な話。
人との出会いや環境の変化で、また変わってくることもあるのだろう。

でも、

ネガティブな選択はとりたくはない。
消極的な自分は、この機に卒業をして、

ポジティブな気持ちで、心ときめく方へ
進んでいきたい。




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