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夏に至る(病)3

どこにも行かない。外は暑いから。
降り注ぐ熱射から逃げるように引きこもる。
夏のクーラーは苦手。自然に逆らうようにゴーゴーと嫌な音を立てる空調機。この空調からなにか地球に良くないものが排出されて、熱空気も出して、そして地球環境に深刻な影響を及ぼして、そして…などと考えてしまう。肌に直接吹きかかる冷たい風に当たると、それだけで疲れてしまう。身体に嫌な感覚が残る疲労。
だから夏は窓を全開にして扇風機がパタパタと生温い風をかき混ぜる、そのくらいでちょうど良いのに。そのちょうどよさを許してくれないほどに熱射が容赦なく射し込み、身体を焼いていく。

外に出たくないのに、部屋にもいたくない。ちょうどいい場所が見当たらない。もっと、もっと夏は心地よい場所だったはず。極彩色の瑞々しさに囲まれて全ての感覚が冴え渡る、夏特有の生命感に溢れる感覚。毎年夏が近づくたびに心が豊かになっていくのを感じて嬉しくてひっそりと微笑んでいた。でも今年は感じない。色も付いてない、真っ白に眩しくもない、ただただ熱に冒されて早く過ぎることを願うだけの時間。

冷えた水を飲んでも美味しいと感じない。ただ、生きていくための水分補給。生きていくための生存。生きて、存る。そこに意味はあまりない。

夏から締め出されている。夏の居場所はもうない。夏にならないと生きていけないのに、夏の真ん中では生きていけない。いまはもうどこにでも行けるのに、どこにも行けない夏。

部屋にいて眠れもせず、いつの間にか数時間経っている。ただ生きているだけの時間。夏なのに、生きていない、夏に至る病。


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