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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第16回

マリアの話を通して、新型ウィルスのパンデミックを機に、各国でも子どもと大人の思いが違うことに気付かされた。
そのことを考えている中に僕はふと、数年前の夏に長野県の安曇野で開催された、タオライアーの製作イベントに参加したときのことを思い出した。たしか3泊4日ほど滞在して、ライアーかタオライアーを製作したのだ。マリアはまだ10歳か、そのくらいの年端も行かない子どもだったため、僕とミッチーが交互に保護者としてイベントに参加した。
この時、ライアーかタオライアーの製作を手解きしてくれた講師はドイツ人男性だった。あいにく名前を失念してしまった。ドイツ語訛りの英語を一生懸命に話しながら、通訳の女性を介して意思疎通をしていた。
製作イベント会場は、安曇野の大きな古民家を綺麗に改造したところだった。イベント初日に通訳の女性は、白っぽい麻か木綿の生成りのゆったりしたワンピースを身に付け、白い小花を使った花冠のような髪飾りを付けていた。女性は初対面のご挨拶代りにと、タオライアーをゆったりと奏でながら、よく響くアルトの美しい声でハミングを披露してくれた。それを見て、どこかで見覚えのある姿だと思った。それより数年前に中伊豆の友人の別荘に滞在した時、早朝の散歩で出会った、北欧の少女たちとマリアの姿にそっくりだった。よく似たワンピースを身に付けた北欧の少女たちがタオライアーを奏で、マリアが透き通るようなソプラノを重ねた映像が、僕の脳裏に蘇ってきた。たしか、その前日は、三人で作った白つめ草の花冠を被り、よく似た白いワンピースを身につけていた。
通訳の女性は九州のどこかの県に本拠地を置いていて、ライアーとタオライアーを製作指導しているが、日本各地に呼ばれては演奏会も行なっているとのことだった。
初日のイベントで、午前中の概要説明と製作実技が終わると、昼食時にマリアは突然、こう言った。
「お父さん、今日はマリアとっても嬉しいの。だって、レムリア時代の懐かしい人たちに会えたから。レムリア時代の友人や仲間が集っているイベントに連れて来てくれて、ありがとう。」
それを聞いて僕は驚いて飛び上がりそうになった。思わず、こう答えていた。
「え、マリアは今日、レムリア時代の懐かしい人たちに会えたんだね。どうして分かったの。」
「だって、みんな同じような格好をしているでしょう。」
昼食をとる会場は、ライアーを製作している部屋の隣にある、囲炉裏を囲んだ板張りの部屋だった。参加者が囲炉裏を囲むように座って、昼食をとっている。僕は、他の参加者たちに気づかれないよう、ゆっくり視線を上げて囲炉裏の周りを見渡してみた。
「あ、本当だ。」僕は小声でマリアに賛同した。
参加者はほとんど女性だったが、揃いも揃って麻か木綿の自然素材でできた、ゆったりしたワンピースを身に付けていた。ワンピースでなければ、ゆったりしたブラウスに、ゆったりしたパンツ姿だった。髪飾りも、お揃いのように麻か木綿の縄のようなものを結ぶか、小花の花飾りを付けていた。中には花冠を被っている、中高年女性もいた。

かく言うマリアも、木綿の白いゆったりした長いワンピースを身に付け、今日は両耳の上に小花の髪飾りを付けている。
「ね、みんな【リラ】っていう星から地球に生まれて来たの。私たち、ライアーハープはリラの星で奏でていて、地球のレムリア時代にも奏でていたの。今日から、あの時奏でていた懐かしい楽器を作るので、みんなワクワクしているのよ。」
「え、そうだったんだ。リラっていう星から地球に来た人たちが集まってきたんだね。レムリア時代にも一緒だったんだね。」
「うん、リラは日本では琴座って言われてるのよ。お父さん、琴ってハープのことでしょ。」
「あ、琴はハープだ。本当だ。」
僕はあまりのことに驚いて、小学生の男の子のような受け答えをしていた。

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