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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第34回

「そうですね、今回みなさんと一緒に仕上げるタオライアーの名前を【ドルフィン】としたのは、おっしゃる通り私たちが地球に初めて転生して来た時、イルカだったからですよ。」愛さんはいつもの通り、おっとりした口調で答えてくれた。
僕以外、参加者がみな、うなづいて聞いていた。隣に座っているミッチーの横顔をそっと見ると、どこか懐かしい思い出に浸っているように、遠い目をしていた。イルカだった頃、レムリアに生きていた頃を思い出しているのだろうか。
マリアが突然、愛さんにリクエストした。
「愛さん、あの曲を演奏して頂けませんか。」
「ああ、あの曲ね。」愛さんはゆっくりした動作で、タオライアーを置き、ライアーハープに持ち替えた。
愛さんは目を瞑り呼吸を整えると、ゆっくり目を開けて周囲を見回した。優しい倍音で紡がれたのは、【蛍の光】のメロディだった。愛さんが声を出すのと、僕以外のみながそれぞれハミングで、さまざまな対旋律や通奏低音のように歌い合わせた。
中には、鯨やイルカの鳴き声のように聞こえる声も混じっていた。
今ここにいながら、はるか昔に共に生きていた時代にタイムスリップしたようだった。僕の脳裏に突然、ギリシアのパルテノン神殿のような大きな建物が幻のように現れた。その神殿の奥の方からしずしずと歩みを進めて来たのは、ミッチーと幸子そっくりの二人だった。二人とも白いゆったりした衣服を纏って、手にはライアーハープを掲げている。二人は神殿の階段状のところに腰を掛けると、ライアーハープを奏でながら歌い始めた。階段の下には大勢の人々が集まっていた。二人の演奏に合わせて歌い出し、やがて大きな声の合唱となった。
「あ」僕は突然、大きな声を上げてしまった。
突然、そこで映像が途絶えたからだった。
僕はこちらの世界に戻って来た。みんな目に涙を浮かべて、僕の方を見てうなづいた。
愛さんの演奏も、合唱も終わっていた。僕は、自分が目撃したあの場面がレムリアの最後の場面だったのだと、悟った。

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