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おばちゃんとお地蔵さん《詩で綴る物語》

峠のお地蔵さんが微笑んだ
きっとたくさんの子供に囲まれますよ、と

それは三年前の嫁入りの日
頬をそめて俯いて
しずしずと進む道中で
にこやかに笑うお地蔵さん

なんのことやら罰当たりな
結局三年子が授からず
泣く泣く里へ返されるとは

それでも再び繰り返す
きっとたくさんの子供に囲まれますよ、と
相も変わらずのお地蔵さん

流れる月日に父母が亡くなり
出戻り女は肩身も狭く
何故か兄を父、兄嫁を母と呼ばされて
かしずくように仕えてきた
兄嫁は子だくさん
乳やる姿を見せられながら
わたしは子守りに精を出す

ウマズメのただ飯食らいと
世間様から陰口たたかれても
子らはわたしになついてくれた
B29が街を真っ赤に燃やした日
わたしは子らの手を引き走って逃げた

わたしはただの「おばちゃん」と
そう呼ばれて幾年月
育った子らはまた子を持つ身
何故か甥を兄さん、甥嫁を姉さんと呼びながら
わたしは子守りに精を出す

いつしか「おばちゃん」はわたしの愛称になり
陰口消え去りご近所さんにもそう呼ばれた
子守りの子らはすくすく育つ
かわりにわたしの腰は曲がっていった
育つ子らがかわいくて
昔話におはじきお手玉
曲がった腰で子らの手を引いた
相も変わらずのおばちゃんと呼ばれて
子らはわたしになついてくれた

子らは立派な大人になり
わたしはひとり歩くのがやっとになった

大人になった子らのひとりが嫁にゆき
かわいいぼうやが授かった
かわいいぼうやに餅をしょわせて
よちよち歩けるようになった頃
わたしは歩くことすらままならなくなった

離縁を言い渡されてより
60余年の年月を
おばちゃんと呼ばれて過ごしてきた
そして

やがてわたしにもお迎えがきた
かわいいぼうやは
クシャクシャなわたしの手を握り
回らぬ口で「おばちゃん」と言ってくれた
わたしは残る力で
その小さな手を握り返した

峠のお地蔵さんは幾度となくわたしに微笑んだ
きっと
たくさんの子供に囲まれますよ

(身内の実話を元に作りました)

ウマズメ(石女)は旧時代の差別用語です。「三年子無きは去る」同様、そう言った言葉が使われていた時代が長くあったと言う意味で、そのまま使用しました。


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#詩 #物語詩 #note商店街 #三年子無きは去るという時代も実際あった

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