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掌編 のの様


神話部お題作品 お題「試練」
作中に出てくる「のの様」とは仏様を敬う幼児語です。ただ日本らしく「神様仏様、そしてご先祖様」と言う意味合いで使われる場合が多いようにも思います。

掌編 のの様


わたしの名前はかおると言います。幼稚園の年長組になったばかりの頃のお話をさせてくださいね。
わたしが通っていた幼稚園は、木々が青々と気持ちの良いお寺さんの中にありました。
仏様がどんな方なのかわかるはずもない子供でしたが、大好きな園長先生が紫の袈裟を着てお話をしてくださいます。

「皆さんが手を合わせれば、そこにはいつものの様がいらっしゃいますよ」

幼稚園では年に一回のお遊戯会の時に、白いドレスを着た4人の年長組の園児によるのの様への献灯献花の式があったんです。
わたしはそれに憧れていました。

「お友達と、お父さんお母さん達がたくさん見ている前でのの様の歌を歌いながらお供えするのだから、恥ずかしがらないでできる子じゃないとね」

何かの折に、担任の飯村先生が笑いながら話していた事を、わたしはずっと覚えていました。
たくさんの人が見ている所で歌を歌う。年長組さんにもなれば、かえって恥ずかしいと言う気持ちがでてきます。でも恥ずかしがらないで歌えないと、あの役はできない。
まるでもう選ばれたかのようにドキドキしていたのですからおかしなものですね。

ある時、みんなで遊んでいると、ふと本堂に繋がる建物に目がいきました。大階段を登ると広い廊下があって、まるで、そう、そこがステージのように見えたのですよ。

ーーあそこで歌を歌えたらーー

そう思ったわたしは、恐る恐る階段を登っていました。園長先生のお話を思い出して手と手を合わせました。

ーーのの様ーー

「今から歌を歌います!みんな聞いてください!」

わたしは大きな声を出しました。

「かおるちゃんがお歌を歌うって!」

先生方がみんなに声をかけて集まって来ます。わたしはドキドキが止まらず、足がすくんでいました。

「かおるちゃん、すごいね〜、何のお歌を歌うの⁈」

……え、どうしよう、何を歌えば……

頭が一杯になっていたのでしょう。勿論のの様の歌を歌えば良かったのに、幼稚園中のみんなが集まってきたために、訳がわからなくなっていました。そして咄嗟に言ってしまいました。

「西郷光彦の星のフラメンコを歌います!」

「わ〜すごい!」


のの様は頑張って歌ったわたしを立派だったと思ってくれたのでしょうか。
わたしに与えられたのは、白いドレスの役では無く、卒園式園児代表の、いわゆる答辞の大役でした。

『手を合わせればいつもそこにはにこにことしたのの様がいらっしゃる』
きっとそれだけで良いのでしょうね。


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歌を探したのですが無くて、曲だけですが…😆


#mymyth202210   #掌編 #そこそこ実話

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