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最強主婦と笑って言った

ひょんなことで知り合った女性がいる。

彼女は6年程前に銅版画を習い始めたと言う。
夢中になって工房に通っていたが、お金が無かった。旦那さんの収入がその当時不安定で、彼女自身が働くも、銅版画を作るためにの銅版が買えなかった。
好きで、やりたくて、そんな彼女のひたむきさに工房の先生がひとつのアイディアを出してくれた。
厚紙とコンクリートボンドを使う版画の技法。
これなら続けられる、そう思った彼女は2年後に個展を開くと心に誓い、それを諦めないために近くのギャラリーを予約してしまった。

彼女は京都に住んでいる。平凡で日々の暮らしを『おもろく』したいと願っている、わたしより少々年配の一主婦だ。
好きな事は、とことん好きで。
彼女は見事に個展を開いた。

そして更にその2年後、今度は東京で個展を開くと決めて、資料を持って夜行バスに乗った。
生活は消して楽では無かった。
それでも版画と、もうひとつ、好きなイラストを描くことを止めようとは、微塵も思わなかった。
おもろく泣き笑い。一生懸命やって、自分が人生の主人公や!と、奮闘を続けた。
2年後の予約をした彼女は、描いた。思うようにならなくても、尚思うように描いた。
一昨年、約束の個展を東京日本橋で開く事ができた。
大成功だった。

そして彼女の夢は、そこで止まりはしなかった。
いつかお金をいただいてイラストを描きたい。
そう誓っていた。
還暦近くの夢をまた持った。
ある日、カフェギャラリーに飾ってあった彼女の絵を見て連絡をくれたのが、出版関係のとあるデザイナーさん。
本に挿絵を描いてみないか、と。
昨年の秋から夢中で取り組み、先日その本が発売された。

こどもみらい叢書シリーズ
第1巻
「おいしい育児」
佐川光晴 著
世界思想社

著者の佐川先生に、サイン入りの本を戴いたと大興奮。「とても素敵なイラストを描いていただけて」そんな言葉を貰ったと喜んでいた。

喧嘩をしては仲直り。
いつも『おもろい』の人生に、無くてはならない彼女の旦那さん。彼女は旦那さんに感謝しつつ、諦めんで夢叶えたるぞ!と踏ん張れば、人生の主人公でいられんのや、と今、怒涛のような日々を振り返っている。
おもろい最強主婦や、と。

個展でお会いした時「京都に来たら、ボロだけどウチに寄ってや。京都は冬が一番よ」と言われて、わたしは「京都の冬は寒いですよね」と返した。
「そう、芯から冷える。だから人が寄り付かんでどこに行ってもゆっくりできる」ワッハッハと笑いながらわたしの肩をポンと叩いた。そう、アレだ。おばさん独自の少し身を乗り出して、手首を降るやつ。
今頃、次のどんな夢を考えているのやら。

わたしは今、頑張れば夢叶うと言いたいのでは無い。
京都で今日も『おもろい』を演じている、彼女の話をただ、書きたかった。

おめでとう、にかえて。


#エッセイ

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