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ある日の朝
その日の朝、ざわざわするような、はたまたツーンと鼻の奥が痛くなるような雰囲気の中で、小学生の末娘、美香は何かを言いたいような、少しもじもじと落ち着きのない様子を見せていた。
「この家ともお別れね、お父さん」
妹が寂しそうに言う。
親戚やら、ごく近しい人達やらが涙声を漏らしていた二日前とは違い、しんみりとした妹の言葉すら悲嘆に暮れた感じとは言えないものがあった。
「お父さんは還っていくの。見送りに涙は欲しがらないかもね」
誰かがそう言葉にしたかどうか…… けれど少なくともわたしはそう思っていた。
しばし住みなれた我が家で過ごした後、父は自分の通夜葬儀のために車に運ばれて斎場へと向かった。
父が出て行き、後に残った家族が炬燵を囲んだ時、美香がようやく口を開いた。
「あのね、おばあちゃん、昨日夢におじいちゃんが出てきたの。みんなここに座っててね、真ん中におじいちゃんがいて、でね、おじいちゃんが言ったの。さあて、そろそろ行こうかって。みんな今とおんなじように揃ってて、だから夢とそっくりで不思議だったの」
その美香の話を聞いて母は勿論、わたし達は皆少し口元が緩んだ。
「そう、美香ちゃん、おじいちゃんはちょっと勝手だね、でもおじいちゃんらしいね」
母はそう言って美香を抱き寄せた。
お父さんは、やっぱりただ還っていくだけなんだ。それが今なんだぞって笑っているのかな…… あ、いや笑ってはいないか。
ただ普通にしてた。
きっとそうなんだろう。そういう人です、あなたは。
梅の花が香る季節。17年前のその日は、穏やかに晴れて気持ちの良い朝だったと、ほんの時折わたしは思い出す。
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