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砂民

月が大きな夜に思う
その黄金の下にあるものを
いにしえのべドウィン
遊牧の民の足跡

漆黒の砂漠で
冷えた砂が波立ち震えるのは
いったい誰のせいなのか
べドウィンが愛した家族の砂海

ウードの弦を爪弾く人に拒まれた
何を知りたいのかと

遥か昔
絹の道しるべを背中にしょったひとりの男が
祈りの言葉を口にした

男が縛りあげたものは
伝統と争い
男がもたらしたものは
繁栄と不自由

ひと足ふた足と
やおら進む時間に引き摺られ
気高き炎を内に秘めたまま
やがて彼らは遊牧を見限った

べドウィンの家族が捨てたものは
砂に埋まり幻とささやかれたのだろう

気まぐれなラクダが空を見る

ご覧
かつて手を差し出せば届く程だった黄金の月
今は砂だけが砂だけが広がり

怖れにも似た純朴な涙が
儚い夢を閉じようとしている

そしてわたしは今日も月を眺めながら
見た事の無い記憶を
遠ざけた

べドウィン族
アラブ一帯の砂漠の遊牧民

イスラムと呼ばれる社会ができる前、アラブを代表する人達だったと言われるべドウィン。

伝統を重んじる彼らも歴史の重なりの中で徐々に砂漠の遊牧を捨て、町に移り定住者となっていった。


月の砂漠を見つめるひとりの人、という視点で書いてみました(妄想)

現在、ほとんどのべドウィンはイスラム教の熱心な信者だと言われています。
難しい地域です。
ただひとつの事象が原因だとか言うわけでは無いのが本当のところ。時代の流れの中で複雑に絡まった糸が、遊牧を捨てさせたようです。


#詩で語る物語 #詩 #月の砂漠

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