掌編 イエイエの赤
神話部お題「花」
実際の伝承から心の動きの部分中心に作り変えています。
【イエイエの赤】
風使いのマカニカウは光を帯びて輝く真っ赤な花を見つめる。そしてそっと手を差し出し、その艶やかな赤に触れた。
「一体俺はいつイエイエを失ったのだろうか」
ハワイ島の精霊がひとりの小さな女の子を授けたのは、島に暮らすカウキニとパカヒ夫婦だった。名は花のイエイエに因んだラウカイエイエと言う。
子供のいなかった夫婦は大層喜んで、女の子を大切に育てた。
「マカニカウ待って〜」
この島では人と妖精が集う。
イエイエはいつも近所に住む少し年上のマカニカウの後を追い、鳥の精や鯨の精達と遊んだ。とりわけ花の精が住む森がお気に入りだった。
「僕は風使い。イエイエが呼べばいつだって力になるさ」
それがマカニカウの口癖だった。
波にさらわれた時も、崖から足を滑らせた時も、妖精達の知らせを受けた彼は風に乗りイエイエを助けに向かった。
抱き起こす彼の腕の中でイエイエは目を覚ますのだった。
美しい娘に成長したイエイエがある日を境に塞ぎ込み、マカニカウにこんな事を言った。
「カウアイ島に住むカウェロナと言う男の人が夢に出て来たの。彼はわたしの結婚相手らしいの…… どうしよう。遠い島に住む知らない人よ…… 」
「え…… よし、僕が見つけ出してきてあげるよ」
マカニカウはそう言った。
その言葉を聞いてイエイエはマカニカウの目を見てこう言った。
「なぜ…… 本気なの?」
そしてマカニカウは旅立った。
「いいんだよ、俺はいつだってイエイエの力になるさ」
カウアイへの旅は過酷だった。カヌーは何度も鮫に襲われた。嵐にも合った。
ようやくカウアイ島に着くと、見かねた鳥の精達がカウェロナを探し出してくれた。聞けば彼の耳にも美しいイエイエの噂は届いていたと言う。
こうしてイエイエとカウェロナは結ばれ、その祝宴の席で再びイエイエはマカニカウと向き合った。
「ありがとう。これからは彼と生きていくわ」
数年が過ぎた。今イエイエは冷たくなった体でマカニカウの腕の中にいる。ひとりで浜に出て、運悪く海蛇に噛まれたらしい。
「何故助けを呼ばなかったんだ。お前はいつだってひとりじゃ駄目だったのに」
マカニカウはイエイエを森の女神ラカの元へ運んだ。
一年が過ぎ、森の中ではイエイエが美しく真っ赤な花を咲かせていた。これを見たマカニカウは、イエイエの花を抱き寄せて泣いた。
ーー これからは彼と生きていくーー
それは後悔の涙だった。
ハワイでは森とフラの女神ラカに、イエイエの花を捧げる風習があると言う。
(了)
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使って良い画像が見つからなかったので描いてみた。こんな感じの花みたいです。
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神話部お題「花」の掌編です。
実際の神話に、かなりの妄想を肉付けして行き違った恋のお話に作り変えています。
また、伝承ではイエイエを授けたのは精霊では無く女神ヒナです。
詳しくはコメント欄にて。
小説本文は1000文字以内におさめています😅
#mymyth202204 #掌編
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