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たった5秒の繰り返し


1972年にNHKで「タイムトラベラー」というドラマが放送されていました。
ヒットドラマでした。少なくともわたしの小学校では、ミラクルヒットでした。最後のせつない別れ方が、微かに今も思い出されます。
筒井康隆の時をかける少女が原作です。

小学校6年だったか中学に入ってからだったか、ある日家の近所の交差点を渡っていると、前から来るロングコートを着た男性とパツっと目が合いました。
瞬間意味がわからず、わたしはじっと見つめていました。考えてみれば随分と失礼な話ですが、それに気が付いた男性も怪訝な顔でわたしを見つめ返していました。

(え~!ケン・ソゴル…… !)

タイムトラベラーで主役のケン・ソゴル役を演じていた木下清さんでした。
どこからどうみても間違いようが無く、それほどわたしは見つめていたということです。
その後も夕方その交差点ですれ違うことが何度もあり、わたしはじっと見つめる、ケン・ソゴルもおかしな女の子を見つめる。そんなシーンを繰り返していました。

後から聞いた話しによると、俳優だった木下さん、割と近くに住んでいらしたようで、この偶然は不自然なことでは無かったのですが……

その時のわたしはそれまでは感じたことのない感情に出くわしていました。
物悲しく終わったタイム・トラベラーの世界に、引きずり込まれたかのようでした。
常に5秒程度です。すれ違うたび5秒。それだけの時間でしかなかったのですが、いやそれだけの時間だったからでしょうか、憧れと切なさと息苦しさを感じていました。これまでまじめに考えてみたことは無いのですが……

もしかして、わたしの初恋相手は『ケン・ソゴル』ってことですか?



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