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『楽園とは探偵の不在なり』感想

クローズドサークルの王道ミステリ。
に見せかけて、救いを求める人間の苦悩を描いた、迷える子羊の物語。

装丁デザインが最高過ぎて思わず手に取った作品だったけれど、結果的に大正解だった。
デザインに興味のある方はぜひ本を触ってみて欲しい。紐が青いところにやたら感動してしまった。

現代日本に「天使」と呼ばれる未知の生命体が、降臨してから、倫理観や秩序がこれまでと全く変わってしまう。

「天使」は意思疎通はできず、普段は鳩の様にその辺にいるが、1人で2人以上の殺人を犯した人間を地獄に落とすという習性をもつ。つまり、2人殺したら罰が下るけど、1人までは殺しても罰が下らない世界。

常世島に集められた11人。
そんな世界で、起こるはずもない連続殺人の真相を暴くのが、主なストーリー。

世界観設定がかなりSFじみているので、ミステリの筋書きは王道にしてバランスを取っているように感じた。
この辺りのバランス感覚は『屍人荘の殺人』を思い出させる。本格ミステリでありながら、大胆な世界観設定。違う点は、人の罪や苦悩をテーマに描いたという点だろうか。

ファンタジーと言ってしまえば、それまでだけれど、ひとことで言い表せないリアルさと、不条理さをこの作品は描いている。

殺人がほとんど起こらなくなった世界で、探偵としての意義を見出せず、燻っている、なんとも自己肯定感の低い主人公からも新しさを感じた。大切な人を失った悲しみから、天国の存在を求めた主人公は、今作の舞台である、常世島に足を踏み入れる。

お洒落なタイトルも読み終わってからだと、哀愁を感じずにはいられない。

本としては綺麗にしめてあると思うけれど、まだ解決してない部分がたくさんあるので、もしかしてシリーズものなのかも。

続きがあればぜひ読みたい。

2021/05/15

『楽園とは探偵の不在なり』 斜線堂有紀

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