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松本幸四郎さん、苦戦

空席が目立つ初春大歌舞伎第3部

1月の歌舞伎公演が終わったので、第3部を振り返ってみようと思いました。
第1部の「卯春歌舞伎草紙」「弁天娘女男白浪」を先に観て、違う日にこの第3部のみを観劇しました。
目的は役者ではありません。通しで「十六夜清心」が上演されるという点です。
歌舞伎の演目はたいてい人気のある幕の一部しか観られないのでこうした機会は貴重なのです。


恋に溺れて寺を追われた僧・清心を松本幸四郎さん、清心を思い、廓を抜け出した遊女・十六夜を中村七之助さん、そして白蓮を中村梅玉さんが勤められました。
幸四郎さんと七之助さんはともに初役です。
片岡仁左衛門さんに清心を習い、十六夜の役については坂東玉三郎さんから指導を受けたお二人。その成果はいかほどなのか期待が高まります。

会場を見渡すと、土曜日の夜というのがあまりよくないのか、客の入りは3分の2程度でしょうか。1階席の真ん中のいい席や花道付近も空席が目立ち、やや寂しい印象を受けます。第1部が満席で華やかだったのを見ている分、今回は対照的に静けさを感じるとでもいいましょうか。2階の座敷席も空いているのが残念でした。
過去の舞台を振り返ってみると、これまでも第3部は演目によっては玉三郎さんでも空きができたほどなので(このときは急遽仁左衛門さんが休演となり、演目が変わってしまったのが原因だったと思われます。それでも舞台はとても素晴らしいものでした)、中堅を担っていく世代にとっては今後の課題の一つなのかもしれません。

「十六夜清心」は心中から始まる珍しい物語です。
序幕「稲生川百本杭の場」の前半、心中に至るまでを、清元の名曲とともに美しく踊ります。 

没後130年の節目を迎えた河竹黙阿弥の作品で、上演頻度の高い稲瀬川から百本杭の三場だけではなく、大詰までを上演されることで前半と後半のガラッと違った劇的な変化、展開を楽しませてもらいました。
とくに七之助さん演じる十六夜が前半の可憐な娘からタカリ強請りを生業にする女に変わった落差は興味深いものでした。

特筆すべきは、派手さはなくとも舞台を引き締める中村梅玉さんの存在です。
人間国宝ならではの重厚感とともに、初役の二人を引っ張っていきます。

立ち居振る舞いや踊りなどともに美しい幸四郎さんと七之助さんのお二人。
それだけに幸四郎さんの声が残念でなりません。あの独特な甲高い声。台詞を聴きながらもどうしても耳に障ります。
現代劇ではまったく気にならないのに、歌舞伎になるとしっくり入ってこないのは私だけでしょうか。

過去に観た「歌舞伎NEXT 阿弖流為」ではまだそこまで違和感を覚えなかったのですが、伝統的な歌舞伎の演目になるとほかでも感じてしまいました。それでも主役ではない分、今回のように気になってしまうほとではありませんでした。
とくに今回は七之助さんと相対する場面が多かっただけに、余計に目立ったのかもしれません。

高麗屋3代のこれからは染五郎さん頼み?

1月27日の千秋楽で第2部出演中の松本白鸚さん休演が告知されていました。
今回は、新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者に該当すると判断されたそうです。
とはいえ、昨年11月の團十郎襲名披露公演の口上も途中で休演されていたのでご体調が心配です。
私が観に行った日は、白鸚さんは出演されていてしっかり勤めておられたのですが、御年80歳。ご無理はしないでいただきたいと思います。

2018年1月、高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」の開演前。祝幕

歌舞伎の舞台にかんして言えば、お元気なころから台詞が聞き取りにくかった白鸚さんですが、台詞の少ない役で登場されると、その存在感は素晴らしく、舞台が引き締まります。

2018年の高麗屋三代襲名披露公演で上演された「寺子屋」は、白鸚さんの当たり役・松王丸。こうした白鸚さんに合った役を無理のない範囲でやっていただきたいと思うのです。


それで言えば、同じく襲名披露公演の夜の部で観た「勧進帳」では、幸四郎さんの弁慶と染五郎さんの義経は襲名披露ということで大甘に見て「がんばってください」と思ったものでした。
幸四郎さんの弁慶はやはりあの声が合っていません。
12歳の染五郎さんには重責でした。なかなか厳しいものがありました。
が、あれから5年。昨年6月には主役として舞台を任せられるほど(過去の夏の市川團子さんとの共演の舞台を除く)松竹が期待しているのがわかります。


NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の木曽義高役で注目を集めた染五郎さん。
以前から雑誌や化粧品のイメージモデルなど歌舞伎以外の場で「美男子」として話題を呼んできました。
願うは、海老蔵さんのようなわき道にそれずに歌舞伎への道をまい進していっていただきたいと願うばかりです。

さまざまな経験は役に立つと思われます。
若いころ、父親の幸四郎さんは劇団新感線の舞台にも立っておられました。演技は決して悪くないのです。ただ歌舞伎では悪役が向いている気がします。
寺島しのぶさんとの一件が女性たちの不信感として根強く残っているとは思わないのですが、何度か歌舞伎座で主演を務めている舞台の入りはあまり良くないようなので、真剣に親子共演が客を呼ぶ起爆剤になるのではないかと思われます。

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