塔2024年2月号気になった歌10首⑥
「検診」は、特定の病気を見つけるための検査。検診帰りに早速ハイボールを飲んでいる姿に、生きる力とちょっとした諦めを感じる。健康に気を付けたところで、病気になるときはなってしまう。ちょっとしたことに怒ったりするのはやめて、何もかも笑って済まそうという心持ちを見習いたい。
叶わないとわかっていても、心のどこかにこびりついてしまっている夢。主体は、そんな夢を晩夏に置き去って、身軽になって秋に向かおうとしている。「挑む」という言葉に妙がある。夢を真にあきらめるのはとても難しいのだ。
自分が生まれていないくらい昔に作られた短歌(和歌)を誦んじる主体。短歌(和歌)という形式が続いていることで、自分が生まれる前の時代ともつながっている。結句の「秋」にも情感があり、四季も時代を超えて共通するものである。
「何でもええからはよ写真撮れ」の魅力。G7は、国際政治において、超重要イベントだが、市民にとってはそんなもんである。G7と主体の日常が混在しているリアリティがいい。
「城」と書いて「シャトー」と読ませるレトロ感に、古ぼけたラブホテルのイメージが浮かぶ。その前にある坂に「乳白色に暮れていく海」が見えるというのは独特な感覚。地方の山奥に突如として現れ、人目をガチではばかりながら男女が逢瀬を重ねる場としての異世界に世界がゆがむ。
「人になる」に実感。複雑で様々な感情や人間関係でがんじがらめである日常では、「ただ○○をする人」になるのは困難で、それゆえに月を見ているときにふと自分がそういった煩悩から解き放たれていることに発見があるよう。「すこやかな犬」がそんなある種の非日常に連れて行ってくれているようでもある。
主体は、なにかに怒っていてそれを伝えようと電話をしているよう。なかなかつながらない電話に苛立ちながら、自分に言い聞かせるような下の句の言葉は、理不尽な対応をされるとこちらが正しくても不安になってしまうことを意図的に払拭しているように感じた。怒り続けることは、難しい。
ゲームのキャラクターのように人の戦闘力を数値化してことにあたっている上司は、優秀な人にも、悪趣味な人にも見える。大阪冬の陣、夏の陣は、戦略的に勝利を収めた徳川側か、大勢を読めずに滅びるべくして滅びた豊臣側かで、真逆の話になる。さて、この上司はどちらだろうか。
金木犀が夜にならないと香らないという表現から、明るい日中は人間としての感覚を持てず、夜にならないと匂いを感じられないような生きづらさを抱える主体が浮かぶ。「夜にならなきゃ」「夜になっても」のリフレインに寂しい印象が強まる。
事務仕事ができない若者が自分を正当化するように「俺、現場派だから、現場知らないお前らと違うから」と強弁しながら処理しなきゃいけない書類を隠している姿が浮かぶ。超わかる。大体ちょっとした横領をしてたりするので、早急な対処が必要だ。
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