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塔2024年2月号気になった歌10首⑤

中学生ボランティア歯切れよく話すうつむきがちなりし吾の世代/岡本妙

塔2024年2月号作品2

はつらつとした印象で話をする中学生のボランティアとうつむきがちにその話を聞く主体の世代の人々の対比。「中学生ボランティア/歯切れよく話す/うつむきがちなりし/吾の世代」という独特なリズムもおもしろく感じた。

朝一の占いがまた最下位で少し低めのヒールに変える/佐復桂

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当たるも八卦当たらぬも八卦とはわかっていても、気になってしまう朝の情報番組の占いコーナー。「また」とあるところに、運勢の悪い日ばかり印象に残ってしまう主体のさがを感じて共感。低いヒールで、災いの確立を下げようとする態度がいじらしい。

食卓の席は決めずに”今日はここ”たった二人の家族になりて/清水千登世

塔2024年2月号作品2

固定席のないフリーアドレスは、オフィスにおけるスペースの有効活用と非固定的な人流の発生による生産性やクリエイティビティの向上を目的に近年オフィスでの導入が増えているが、家族が減ったことで自動的に発生した家庭でのフリーアドレスは、ちょっと寂しくもあり、伸びやかでもある。

甘すぎるチョコが口の中に残り上手く切り換えられぬ気持ちは/ドクダミ

塔2024年2月号作品2

口の中に残る甘すぎるチョコのもったりとした後味はなかなか消えない。気持ちというのも、切り替えが精神的にプラスであることがわかっていてもどうしようもないことが多い。しかし、チョコの味がいずれは消えるように、時間の経過が解決につながることも多い。比喩が巧み。

アラスカの平原の風を思ふ夜白熊の柄の布団で眠る/高橋ひろ子

塔2024年2月号作品2

白熊柄の布団に包まれて、主体はアラスカを思う。寒い寒いアラスカに吹く風は、冷たく壮大なイメージ。こじんまりとした布団とアラスカの平原がつながっているような描写がまどろみの中で意識が混じっていくよう。

こんなにも寒さで固くなる身体かつてわたしも樹だったような/朝野陽々

塔2024年2月号作品2

寒い外でなにかを待っていてだんだん身体が固くなっていく景が浮かんだ。結句「樹だったような」という言いさしに、はっきりとしない前世の記憶が浮かんでいるようで妙に実感がある。

犬洗う闘いおわり呆然と香る一匹人間二人/丘村奈央子

塔2024年2月号作品2

犬のシャンプーは、闘いだ。特にシャンプー中に犬が身震いすると、洗っている人間もどんどんシャンプーまみれになってしまう。「呆然と」が犬にも人間にもかかっているのが勝者のいない闘いという感じがするが、実際には皆いい匂いになっているのが、コミカルでシュール。

四月からは異なる街に染まるだろうきみと最後に実家の話/後藤英治

塔2024年2月号作品2

進学や就職により別の街に離れ離れになる友人や恋人未満の関係が浮かんだ。「街に染まる」という表現が的確で、そうそう人は(とりわけ若い人は)住んでいる街の色に染まりながら成長していくのだ。変わっていく二人の予感を持ちながらする実家の話は、きっとふとした瞬間に思い出すものになるだろう。

海に行くまでは友達だったのにあぶない話ばかりしたから/豊冨瑞歩

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海に行くまでの道中で、価値観の違いが露呈してしまったようだ。こう言われると海に行ったあとの展開が気になる。表面上はお互い言葉をつなぎながらも、微妙に流れる沈黙や超えられない壁を何度も感じながら、気まずさを抱えたのだろうか。

読経にイソヒヨドリの声和してあなたは歌の好きだったひと/丘光生

塔2024年2月号作品2

亡くなった人を弔うための読経にイソヒヨドリの鳴き声が重なる。その美しいセッションに、主体は歌の好きだった故人を思い出している。故人を「あなた」と読んでいるところに主体と故人の親密さも感じる。

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