塔2024年2月号気になった歌10首⑤
はつらつとした印象で話をする中学生のボランティアとうつむきがちにその話を聞く主体の世代の人々の対比。「中学生ボランティア/歯切れよく話す/うつむきがちなりし/吾の世代」という独特なリズムもおもしろく感じた。
当たるも八卦当たらぬも八卦とはわかっていても、気になってしまう朝の情報番組の占いコーナー。「また」とあるところに、運勢の悪い日ばかり印象に残ってしまう主体の性を感じて共感。低いヒールで、災いの確立を下げようとする態度がいじらしい。
固定席のないフリーアドレスは、オフィスにおけるスペースの有効活用と非固定的な人流の発生による生産性やクリエイティビティの向上を目的に近年オフィスでの導入が増えているが、家族が減ったことで自動的に発生した家庭でのフリーアドレスは、ちょっと寂しくもあり、伸びやかでもある。
口の中に残る甘すぎるチョコのもったりとした後味はなかなか消えない。気持ちというのも、切り替えが精神的にプラスであることがわかっていてもどうしようもないことが多い。しかし、チョコの味がいずれは消えるように、時間の経過が解決につながることも多い。比喩が巧み。
白熊柄の布団に包まれて、主体はアラスカを思う。寒い寒いアラスカに吹く風は、冷たく壮大なイメージ。こじんまりとした布団とアラスカの平原がつながっているような描写がまどろみの中で意識が混じっていくよう。
寒い外でなにかを待っていてだんだん身体が固くなっていく景が浮かんだ。結句「樹だったような」という言いさしに、はっきりとしない前世の記憶が浮かんでいるようで妙に実感がある。
犬のシャンプーは、闘いだ。特にシャンプー中に犬が身震いすると、洗っている人間もどんどんシャンプーまみれになってしまう。「呆然と」が犬にも人間にもかかっているのが勝者のいない闘いという感じがするが、実際には皆いい匂いになっているのが、コミカルでシュール。
進学や就職により別の街に離れ離れになる友人や恋人未満の関係が浮かんだ。「街に染まる」という表現が的確で、そうそう人は(とりわけ若い人は)住んでいる街の色に染まりながら成長していくのだ。変わっていく二人の予感を持ちながらする実家の話は、きっとふとした瞬間に思い出すものになるだろう。
海に行くまでの道中で、価値観の違いが露呈してしまったようだ。こう言われると海に行ったあとの展開が気になる。表面上はお互い言葉をつなぎながらも、微妙に流れる沈黙や超えられない壁を何度も感じながら、気まずさを抱えたのだろうか。
亡くなった人を弔うための読経にイソヒヨドリの鳴き声が重なる。その美しいセッションに、主体は歌の好きだった故人を思い出している。故人を「あなた」と読んでいるところに主体と故人の親密さも感じる。
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