塔2024年5月号気になった歌10首⑦
義母という微妙な距離感の相手に主体は気を使いながら応じている。何度も何度も同じことを聞かれて、うんざりしながらメモ帳に書くことを勧めているよう。「十回以上」という言葉に実感がある。
「きざむ」とあるので、野沢菜の唐辛子漬けだろうか。苦みと辛みを感じられ、コクのある味わいの効いたパスタは最高に旨そうだ。レシピどおりの味に好みをアクセントをつけて食べるのは、おうちごはんの醍醐味。
歯医者のあとの口のなかの微妙な違和感。きれいになった歯に自分のものではないような感じを舌先で感じながら冬の夕空のもと主体は行く。治療を終えて、さっぱりすっきりとしたようで爽やかな印象。
高級ファッションブランドのアルマーニの店と庶民的な価格で生活感あふれるすき家が隣に並んでいる町という印象的な光景。雪の予報が外れるという描写が重ねられて、ままならない日常が想像させられる。
大げさなせりふ回しがおもしろい。茄子がインド原産であるという驚きを茄子に話しかける主体の行動はユニーク。しかし、糠床の茄子も「俺、インド原産なんだぜ!」と応じるわけではなく、「お、おう…」と戸惑っている気がする。
繰り返される「し」の音が印象的。「し」の音は質的に大きな音になりにくいが、静寂の中で霜を踏む音が、その空間でその音だけが響くような情景が浮かぶ。
「さめざめと泣く」ことと「どんぶり一杯のところてんをすする」ことの取り合わせが面白い。泣いた涙がどんぶりにたまるようなイメージや透明なところてんに涙が凝固したようなイメージも浮かぶ。感情が大きく動いているとき、人は普通ではない行動をとってしまう。
鳥避けとして光に反射してキラキラ光るCDやDVDをぶら下げる。CDやDVD自体が鳥に攻撃を加えることはなく、あくまで威嚇するだけであることを人間は知っている。下の句のドライな言いぶりには、「怖い」という感覚が必ずしも「危険」を意味しないという合理的な発想がある。
きれいな歌。上流から下流に流れる水の流れが、枝の汚れをすすいでいくという描写に発見があった。「那珂川となる」に、それぞれ名もなき水の流れから名の付く川に「なる」というダイナミックなとらえかたも魅力的。
喫茶店は、人間交差点。何の意味のない世間話から、久々の再会で盛り上がる話も、そして超深刻で重たい話も飛び交う。とにかく人を幸せにするというミッション一本でこの世に降臨しているパフェは深刻な話に似合わないが、どんな状況でも絶対主役を譲らないさくらんぼの存在が、みんな違って、みんなダメという気持ちにいざなってくれる。
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