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塔2024年4月号気になった歌10首③

チェックではなくてティックと呼ぶ社内文化について学ぶ研修/吉村のぞみ

塔2024年4月号作品2

謎の社内文化。そして、それを研修で教えるという光景が、メンバーシップ型雇用の日本の会社文化を象徴する。特定のメンバーだけで使う言葉は、その組織への帰属意識を否応なく高める。はじめのうちは心に引っ掛かりがあっても、いつの間にか組織人として心地よさを感じてしまうよう洗脳されていく。

レジ袋の不要と支払ひペイペイと先手先手に告げて歳晩/森純一

塔2024年4月号作品2

下の句「先手先手に告げて歳晩」のリズムがいい。年末を意味する「歳晩」の体言止めによって、繰り返す生活の中で上の句の行為がルーティーンになっていることが感じられる。

月曜のエレベーターはぎゅしぎゅしと解凍されつつ運ばれてくる/佐復桂

塔2024年4月号作品2

「ぎゅしぎゅし」がおもしろい。土日に動いていなかったオフィスのエレベーターが久々の運転でぎこちなく動いているよう。それに乗る人間も休日をはさんで仕事モードがオフになっていたのが、徐々に解凍されていくようである。

梟の首、まわる首、さらし首 家にいくつもさびてゆく釘/空岡邦昴

塔2024年4月号作品2

首の可動領域の広いふくろうの首。さらし首は死罪になった者の首がさらされるもの。リズムのいい言葉が並べられつつ、下の句にどこか寂しさがある。奇妙でありながらおもしろく感じた。「首」「釘」の韻もきれい。

JAのセレモニーホールを囲みたるイルミネーション夜空を照らす/広瀬のぶ子

塔2024年4月号作品2

セレモニーホールは、主に葬儀を行う場。都会では、夜も様々な施設が光を放つが、そうではないところでは、街灯も暗く、光を放つものは限られている。死を扱うセレモニーホールのイルミネーションが光を放つという光景に妙がある。

ひたすらに地図にない野を走りゆくガードレールがない人生だ/うっそう

塔2024年4月号作品2

大きな歌。ガードレールで区切られることではみ出すことのない道ではなく、野を走るという比喩に、決められた道にこだわらず、縦横無尽に生きる主体の姿がある。「地図にない野」に、試行錯誤をしながら、懸命に生きる姿も見える。

異次元の少子化対策ぬばたまの夜にひかりはさすのでせうか/中村成吾

塔2024年4月号作品2

政策のキャッチフレーズ「異次元の少子化対策」という固い言葉に対して、疑問を呈する3句目以降はひらがなが多く、丁寧で、絶望感がある。「夜」だけが漢字であることで、社会問題の暗さが際立つ。

信仰について列車で語り合い新鮮なまま林檎はひかる/ドクダミ

塔2024年4月号作品2

「信仰」は、日常生活の規律やどうしようもできないことがあることに対しての謙虚な態度を生み出すもの。林檎は、聖書における禁断の果実のイメージがあるが、新鮮なまま光っているのは、主体と話し相手の話が盛り上がっているような印象。

漢字もつ友の名かしこくみえゐしが現在いまは「ひろ子」が心に適ふ/櫻井ひろ子

塔2024年4月号作品2

当事者にしかわからない自身の名前に関するコンプレックス。主体は、年齢を重ねたことで、ひらがな表記のよさになじんできたよう。「心に適ふ」という表現がきれい。

もし来世タイの北部に生まれたら象をペットに飼おうと思う/大井亜希

塔2024年4月号作品2

賛成。それがいい。象は、タイの人々の生活や信仰にとって身近な存在で、強さの象徴でもある。そして、象はでかくてかわいい。象に乗りたい。象と遊びたい。象。象。この歌を読んでから、象の動画をめっちゃ見ている。

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