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【雑談】きらいにならないでね

きらいにならないでね、一度も声に出して言ったことはないけれど、これからもきっと口に出すことはないだろうけれど、私の心の奥底にずっと居座り続けている言葉。

こどもって、本当に辛いときに辛いと言えないのよってどこかで聞いた記憶がある。それはきっと大人だってそうで、ある程度の悩みや悲しみは口に出せても、限りなく本心に近い部分を言葉にするのは難しい。口に出すことで自分をさらに痛め付けることになるのなら、言わない方がまし。私はそう思って生きてきたよ。

いちばん言いたいことを言えないのは、私の弱さでしょうか。それとも。

きらいにならないでね、そんなのお願いしたって離れていく人は離れていくし、約束なんてそんなものくそくらえだって思って生きてきたのになんだよ、言葉が矛盾してる。君に嫌われたって世界が終わる訳じゃない、楽しくても悲しくても朝は律儀にやってくるし、私はご飯を食べて仕事に行く。そんな程度のものなのに、きらいにならないでねって有り得ないんだよ。言葉が。きらいにならないでねって気持ちでどこかで自分の手を緩めて素を半分くらい隠して合わせて無理に笑って生きるくらいなら、初めからあなたと私はちょっと合わなかったね、残念だったね、ってお互い許し合えた方が良かったよね。手を離すときに大事なのは爽やかさと潔さ、誰に教わった訳でもないけれど、そのくらいわかる。

違う人の名前が呼ばれて、ああ自分じゃなかったんだなと溜め息をついて、少しだけ落ち込む。そういうことの繰り返しで私は大人になってきて、「選ばれなかった方」を経験してきて、そしてこれからもそういう場面に出くわすのだろう。点数が目に見えていればまだ良かったよね。テストや入試だったら点数が分かりやすく自分に何が足りなかったのか教えてくれるから。数字に表れないものは難しい。体操やフィギュアスケートやシンクロナイズド・スイミングは、競技をみるのは好きだけど、評価にもやもやすることがある。水泳やバスケットボールや野球みたいに、誰が見ても勝ち負けが数字でわかるスポーツの方がスッキリする。単純にいちばんに足が速かった人が勝ち。単純に多くゴールを決めたチームの勝ち。それじゃだめなの。だめだよねえ。

私は白黒をすぐにつけたがってしまう。分かりやすく勝敗がつくスポーツやゲームが好きだ。そして、だからこそ、そんな性格が自分の首までしめている。これは何のデートですか、私のこと好きなんですか、付き合ってないのにデートするのおかしくないですか。そんなこと考えなくていいんだよ、きっと。へらへら笑ってのっかってればいいだけなのに。変に真面目だと疲れるよ。

努力なんて誰でもしてる。評価に人の心が入ってしまうと、美しいものが本当に美しいと言われなくなってしまう気がして、それがこわくて。それなら皆頑張ったから皆100点です、でいいのにね。かなしい現実かもしれないけれど、才能ってやっぱりこの世にあるんだよ。ひらめきや感性で美しいものをつくりあげてしまう人ってやっぱり存在するんだよ。過程が大事、わかる。だから、結果も大事ってことも同時に理解しないといけない。わたしたちは。そうしないと、いつか潰されてしまう。

頑張って報われない人たちにスポットライトを当て始めると、頑張って報われた人たちが悪者に映ってしまう現象、これって何なんだ。誰も望んでいなかった結末で美しいものを壊さないで欲しいよ。


すっごいサイコパスで毒舌だと思っていた相手が、実は自分よりずっと繊細で優しかったということを知ったときのこと。私がどうしても許せなかったことをいとも簡単に許せてしまったその人。私が悔しくて泣いたのに、相手を気遣って心配ばかりしていたその人。私があと15年生きて、その人の年になればわかるのだろうか。多分わからない。私は日常で自分の思いやりのなさを痛いほど感じて、それなのに人並み以上に傷つくなどする。馬鹿げてるよね。いのちを大事にして、とかそういう問題じゃないんだよな、多分。生きてるというよりも、操られて生かされている気分なんだ、ずっと。自分はどこにもいない。この文だって、書かされてる。自分じゃない何者かに。

きらいにならないでね、ちがう、私が言いたいのは。どんな私でも愛して、なんてことじゃない。私のことどうでもよくならないでね、だ。きっと。きらいになられるより、どうでもよくなられるのがこわい。こんな大して取り柄もない、語れるほどの趣味も好きなものもない、熱中できる自慢もない、よくある「すごいですね~」みたいな適当な褒め言葉が似合うような普通の人間。きっとゾンビ映画でいちばんに犠牲になるやつ。その場に10人いたとしたら、覚えてもらえるのは8番目か9番目くらい。同じコンビニに通い続けても、あいつまた来たよ、と思われない存在感。

仕事の話をする相手と、ワニの話はしたくない。

可愛くなりたかったな。強くなくていいから、可愛くなりたかった。疎まれても憎まれてもそういうの気にしないで大丈夫なくらい可愛くなりたかった。強いなら強いで、分かりやすく強くなりたかったな。ゴリゴリの体つきで100キロの米俵を片手で持てるとか、5階から落ちても死なないとか、10日間寝なくても仕事の質が落ちないとか、そういう分かりやすい強さ。エナジードリンクでギリギリ保っている強さなら、人前では気丈に振る舞って、寂しさや悲しさはひたすら文にしてまぎらわせるくらいの柔な強さなら、ないほうが良かったよ。

分かりやすい可愛さが欲しいよ。あの子いつも笑ってるね。あの子見てるだけで幸せだね。あの子がいると元気になるね。そういうまわりからの評価よりも、「私は可愛いから大丈夫」と自分を褒めることができるのが大切なんだから。


この沈黙の時間の分だけ私は文を書くよ。Communication is important. って、中学校の英語の教科書に載ってたフレーズを思い出しながら、缶コーヒーを飲み干す。トウモロコシを叩いたら、コーン!って、そんな下らないことで明日も笑ってたいな。こちとらお客さんとの距離30センチで毎日笑ってんだ!煙草の香りもさっきまで飲んでた飲み物の香りもシャンプーの香りも、全部拾ってる。その煙草のにおい、一日2箱は吸ってるっぽいけど本当に禁煙ルームでいいのか?ってお節介みたいだよね。


きっと、君が見ていないもの私はたくさん見ていて、私が見ることがないようなものを君はたくさん見ている。だから教えたい。教えたいことたくさんあるんだ。君に見えているものも教えてよ。君にとって美しく映るものってなんなの?君は何で構成されているの?おしえて。

大嫌いな人とみても、大好きな人とみても、星はいつでも綺麗だった。ほら、こういうのがわかりやすくうつくしいってこと。私はそう思ってるよ。


ゆっくりしていってね