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パルシェンの謎 ①

 ポケモン図鑑No.91に、パルシェンという二枚貝を模してデザインされたキャラクターがある。シリーズ最新ソフト「ポケットモンスター バイオレット」の作中における図鑑にて、パルシェンは以下のように説明されている。

こうげきを うけると ひょうめんの トゲが つぎつぎと とんでくる。ないぶの しょうたいは ふめい。

引用:ポケモンwiki


 注目していただきたいのは二文目、内部の正体は不明とある。青黒い肌を持つ、目つきの悪い球体を指して、その正体は不明だと図鑑は言っている。

 こいつは一体何者なんだ?


 取り留めのない問いではあるが、考えたいと思う。寓意である場合を考慮に入れて、例の球体を「彼」と呼ぼう。彼の正体はゴースという別のポケモンだと巷では囁かれている。筋の通った理由もあるにはある。1000種類を超えるポケモンたちは、それぞれに番号が振られポケモン図鑑に登録されている。番号の振られ方、何を基準にして数字を当てているのかについては、さまざまな捉え方がある。そのひとつ。ポケモンは進化する。ここで言う進化とは、いち個体が成長し姿や能力が大幅に変わることを意味する。例えば図鑑番号No.1であるフシギダネが進化すると、No.2フシギソウに姿を変え新たな能力を得る。ポケモン図鑑はこうした、進化の系譜を読み取りやすい順序で整理されている節がある。

 図鑑の並び順を根拠に、パルシェンの正体はゴースだと言い張る者がいる。パルシェンの図鑑ナンバーが91に対して、ゴースというポケモンは92となっている。こんなの偶然とは思えない、正体は絶対にゴースだ!という具合に。図鑑の並び順が全て、進化の系譜を表するために定められていると仮定するならば、パルシェンとゴースとの関係性を見出す余地は生じる。だが無論、ポケモン図鑑は進化の系譜を解説することを専念していない。隣り合った番号に登録されているという理由だけでは、パルシェンの正体をゴースと決めつけるのは無理がある。

 番号だけじゃないし!見た目だってゴースとパルシェンは似てるし!

 そんなことを言い加える者もいる。

パルシェン
ゴース

 確かに、パルシェンの殻の中の青黒い球体とゴースの形態との間に類似点は見られる。どちらも丸っこくて小さい。そして目の形が円を等分した半月であり、黒目の大きさも同じと言える。しかし見た目の全てが同一とは言えない。歯の形状の差異については留意しなくてはならない。ゴースは八重歯のみ残されその他の歯は抜けている。またゴースの半月目は「彼」のように球体に張り付いているのではなく、空に浮いている。

 番号が隣り合っていることにビジュアルの類似を加味すると納得感のある理由を述べることはできるかもしれない。ポケモン図鑑を編纂した者の、魂胆な番号振りを感じ取ることができる。訳ないことだが、見た目に共通する部分を持つポケモン同士を隣接させることで図鑑を見たものの胸中に連想しやすい答えを浮かばせる、サブリミナルな意図があるように思えるのだ。

 しかし正体をゴースと断定するには、まだ解消されない疑問がいくつかある。パルシェンの進化前である、図鑑No.90シェルダーというポケモンの容姿を振り返る。パルシェンの殻の中に潜む彼をゴースとするならば、ゴース論者(パルシェンの内部の正体はゴースであると言い張る者)は、パルシェンとシェルダーの進化関係をどう説明するのだろうか。

うるせえ!

シェルダー

 シェルダーの殻の中に潜む、鏡餅の下段のようにのぺっとしているものを「彼女」と呼びたい。シェルダーの内部が彼女で、パルシェンが彼である。彼女と彼を同一視、つまりどちらもゴースであるとした場合、彼女とゴースとの形態の違いをどのように看過してゴースと言い張るのだろうか。

話をややこしくするな!

彼女はゴースではなく、別種のなにかである。パルシェンの正体に迫る上で、シェルダーの内部に潜む彼女が一体何者なのかを考える必要はない。または個別に考えるべきだ。そう言いたいことは承知した。そのような意見を持ってして、少しばかりの見た目が異なっていようが構わずパルシェンの正体はゴースだと言い張る。わたしはその考え方を否定しない。盲信は人間が生き抜く上で培った立派な能力であるが故に、肯定したい気さえ起こる。

わたしは、なぜ、が知りたい。

「彼」とゴースの間にある懸隔はなぜ生じるのか。シェルダーがパラシェンに進化する事実を考慮した上で生じる論理的不和は、いかにして解消されるか。彼と彼女を同一視すると浮かび上がる疑問。ゴースが、単に潜むための殻を変える行為を「進化」と呼んで良いのだろうか。「彼」の正体に迫る上で理解を欠くことはできない「彼女」は、果たしてゴースなのかそれとも別の何かなのか。彼はどこから来て、どちらへ向かうのか。

カードは机上に載せた。根拠に乏しい意見を人に伝えるには、信心に訴えかけるのがひとつの手だ。ここからは私の手品を頼りに、パルシェンの正体に迫るひと筋の物語を紡いでゆく。



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