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短編小説「私は嘘をついている」

毎週水曜日の6時間目にある「学級」の時間。ここ1ヶ月はこの時間を使って修学旅行の計画を立てた。行きと帰りのバスで何をするのか、クラスのみんなでレク決めをした。その結果、行きはカラオケ大会、なぞなぞゲーム、絵描きリレー、風船テープ剥がしレースをすることに、帰りは映画をみんなで一本観たあとは自由時間にすることとなった。小学校の敷地に入ってすぐにある駐車場。大きなバスが2台停まっている。今日はランドセルじゃなくて、自前のリュックサックをしょって待機している。バスに乗る順番がやってきて、クラスのみんなが立ち上がった。ぼくは前方の右列、窓側の席に座った。

修学旅行のバスの中、ぼくはとてもワクワクしていた。バスが走り出した。1組のバスが先に発車し、僕たちの乗っているバスがその後を追った。右列の窓の外では、教頭先生と算数の先生が手を振って見送ってくれた。僕たちはいってきま〜す!と元気よく挨拶をして手を振り返した。窓に反射して、前の席の子が黄色い安全帽を手に取り振る姿が映し出されている。僕もマネして安全帽を振った。

窓に映る彼の名前はせいたくんです。休み時間にはなぞなぞを出してくれます。彼はすごいもの知りで、いろんなことを知っています。この前は、せいたくんの家からなぞなぞの本を持ってきてくれました。休み時間にいっぱいなぞなぞをしました。昼休みも図書室に集まってなぞなぞをしました。ぼくは全然答えられないけど、頭の良いまなみちゃんは誰よりもいっぱい答えられます。すごいです。

先生の合図でレクが始まった。まずはカラオケ大会だ!学級の時間に立候補制で歌いたい歌を募集していた。しおりに書かれているメドレーの順番に1人ずつカラオケしていく。順番がくると立候補した人にマイクが渡され、しおりに書かれた歌詞を見てみんなが思い思いに歌う空間となっていた。小6で身長が170センチある人気者の転校生が、ふざげた歌い方で聖子ちゃんの「青い珊瑚礁」を歌った。みんながドッと笑い、楽しいムードに包まれた。続いて僕の楽しみにしていたなぞなぞゲームが始まった。

司会は前の席のせいたくんが務めた。せいたくんが問題を読み上げ、答えがわかった人は手を挙げる。そして先生が補佐として回答者を指名していく形式となっている。最初は簡単な問題から始まった。「なまえで負け、が決まってる動物ってなーんだ」問題が言い終わり少しして、後方の席の人たちがはいはい!と大きな声を出し手を挙げた。公平なジャッジのもと先に手を挙げたきょうくんが指名され回答権を得た。「なまけもの!」「せいかーい」先生の拍手を皮切りに、みんなが正解者に賞賛の拍手を送った。あー、名負け者ね!皆が少し経ってから納得した。

それからいくつかなぞなぞが出された後、せいたくんが「じゃあ難しめの問題だしまーす」と宣言すると、皆がテンションを上げていえーい!と返事をした。問題を読み上げる前にせいたくんが「あ、この問題は前に学校で出したことがあるから、答えを知ってる人は答えないでね」と注意を促した。難しい問題!僕は頑張って答えてやろうと意気込んだ。

「とある死刑囚がいます。その人はとても悪いことをして重い罪で捕まりました。彼は死刑が決まっていて、明日殺されることになっていました。王様がその囚人に向かってとある質問をします。『今からわたしのする質問に答えろ。本当のことを言えばお前を火で焼いて殺す。嘘のことを言えば銃で撃って殺す。』そう言って王様は囚人に質問しました。しかし、囚人は殺されずに済みました。さて、死刑囚は何と答えたのでしょう。」

_あれ、この問題って。

となりの席のまなみちゃんがニヤニヤしている。「答え知ってるの?」と僕が聞くと「うん!聞いたら、あー!ってなるよ」と楽しげに答えた。ぼくもこの問題の答えを知ってる。そう言いかけたけど喉元で止めた。盗み聞きではないけど、ひとり席について本を読んでたらたまたま耳にしちゃったんだ。「もう一回問題言ってー」と後ろから声がした。天井のフックにかかったマイクのコードが揺れる。「はい、じゃあもう一回いいまーす」とせいたくんが答えた。

「とある死刑囚がいます。その人は明日殺されることになっています。王様が死刑囚に『わたしのする質問に答えろ。本当のことを言えばお前を火で焼いて殺す。嘘のことを言えば銃で撃って殺す。』と言いました。しかし囚人は質問に答えたのに、殺されずに済みました。さて、何と答えたでしょう。」

やっぱり聞いたことがある。小声でざわざわと考えるこえが満ちている。後ろの席から「えー、銃で殺されるんでしょー、」と殺され方に着眼点を置いている声が聞こえた。違う!殺し方に意味なんてないんだよ!答えにたどり着くヒントはそこにないんだよっ!突然うしろのひとが「はい!」と声をあげ挙手をした。僕はドキッとした。

「ヒントくださーい」僕はちょっぴり安心した。「もう少し経ったら言いまーす」「えー、わかんねえよ」「はい質問!殺され方に意味はありますか?」「ないです。海に沈めたり首を絞めたりする殺し方でもいいです」「うわ全然関係ないこと考えてたじゃん!」飛び交う質問にせいたくんが答えていく。しばらくして「じゃあヒント言います!囚人はまず質問に素直に答えた後、何かを言います。それが答えになります。なので王様がどんな質問をしたかは関係ありません」とヒントが出された。

みんな的はずれなところで悩んでいるな。僕は考えるフリをした。顎に手を置き、悩んでいる雰囲気を出すべく「んー」と眉間に皺を寄せ低い声を出す。しばらく時間が経っても答えが出なかったので、みんなが答えをもとめる空気に流れていった。せいたくんに正解を言われたらまずいので僕は「あ、わかったかも!」と閃いたようなそぶりを見せた。隣のまなみちゃんが目を輝かせこちらを見つめる。「いいなよ!」僕は勇気を出して挙手をした。コードに繋がれたマイクが後ろの席から僕の方に回ってくる。ついにマイクが届き答えを述べる時が来た。えーっとだから、


「わたしは嘘をついている」

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